初戦以降、さらに重ねて二度、光太郎はモンスターを相手に戦った。そしてそのいずれもで共通する弱点、というより改善点をヴァールと妹尾は見出していた。
熱くなると途端に無茶苦茶な動きをし始めるのだ。初戦で自身の唯一の得物である槍をおもむろに投げつけたのとは別口に、勢い任せででたらめなことをしたのである。
「言いたいことはいろいろあるが……まず何より先に言っておこう。自分の得手たる槍を闇雲に放り捨てるな、君のメイン武装ではないのか。虚を突くのには良いかもしれんが、通じなければその時点で一気に不利になるのだぞ」
「あっ……はい、すみません。なんかこう、とにかく殴り倒すんじゃーいってなっちゃって、はい」
「槍の扱いはそれなりに様になっているけれど、カッカすると途端に"今できること"に安易に手をつける節があるねえ。ゾンビ相手に噛みつき攻撃しに行った探査者を私は初めて見たよ」
「い、いやーそのう。仰るとおりです、はい。先輩方がやってるのを見て、ああ噛みつきってのもあるのかーって、はい」
ヴァールと妹尾、二人がかりで冷静に淡々と指摘されては光太郎としては先ほどまでの勢いもどこへやら、気まずさに冷や汗をかくしかない。一応、彼自身も薄々これはおかしいと思いながらの行動ではあったのだ。
彼とて、何も最初からこんな戦い方をしていたわけではない。すべては現地の先輩探査者達の戦いぶりを、見様見真似で取り入れていった結果、精神面でも大きな影響を受けた末にこうなった形になる。
なんなら光太郎など序の口も良いところで、ベテランと呼ばれるような者にもなると本当に無茶苦茶な行動に走るのだという。
例を挙げればきりがないがモンスターを手掴みして武器扱いで振り回す、モンスターそっちのけで探査者同士で戦い出す、腹が減ったと言い出してモンスターを生きたまま食べだす……などなど。
最後に関してはさすがに異常者扱いされているとは少年の言だが、それを聞かされては困惑しつつもヴァールはなるほどとうなずいた。
「本当に無茶苦茶だな……しかし、おかげで朧気にでもこの地の探査者の特色は見えてきている。察するに勢いで行けそうだと思うと途端に雑な行動に走るのだな。だが今後それでは困るのだ、まずは戦闘の最初から最後までとにかく槍を使って動くように心がけろ」
「分かりました!!」
「重ねて言うが君の動き自体はそれなりに良い。センスも感じるし勘の良さもある。ただそれらを十全に発揮するのを阻害しているのが、他ならぬこの土地の気風なのだと理解してくれ」
「は……はい! やっぱりおかしいんだなあ、うちの土地柄……」
ここまで繰り返しおかしい、異常だ改めろとそれぞれから言われれば光太郎も、薄々分かっていたのが確信へと変わる。この地方の探査者風土は異様で非常識なのだ、極めて悪い方向に。
しかもそれのせいで本来の実力を阻害されているとさえ聞かされれば、地頭は悪くない彼としては何がなんでも直していかねばならないと強く思うに値する衝撃がある。
これは裏を返せば、今からでもこうした悪い癖を改めれば光太郎はさらなる強さを手に入れられるということに他ならない。いや彼のみならずこの地の探査者達みんなが、大いに強くなってお互い高め合っていける可能性すらあるのだ。
現状の体たらくもあり、光太郎の心に燃え上がる熱意。彼は自分自身だけでなく故郷の土地、長野はじめ中部地方全体の探査者達の実力向上をも願うようになっていた。
「よーし燃えてきた! 燃えてきましたよヴァールさん、妹尾教授!! 僕らはもっと強くなれる、そうですよね!?」
「ああ、それは保証する。きちんとした戦い方を、考え方を備えられていないだけで君達もまた、心強い能力を持つ探査者なことには変わりないのだから」
「昨日、夜には現地の探査者……君の先輩達と酒を交えていろいろ話したけれどね。やはり基礎的な知識というか前提となる土台があやふやな節は見て取れたよ。例の権藤武虎氏への憧ればっかりで、地に足がついていないんだね。つまりそこをまずはどうにかしないといけない。君を鍛えることで、それを示すんだよ」
昨日、光太郎と別れた後に交流を兼ねて宮田支部長をはじめ、全探組にいた探査者達とも軽く宴会をしていたヴァールと妹尾。
そのなかで得た情報からも、やはり中部地方の探査者達の気質、地元の英雄たる権藤武虎へのリスペクトが行き過ぎて暴走しているらしい向きは確認できていた。そしてその余波が今まさに光太郎はじめ、新人世代にも影響してしまっているのだということも。
であれば改善の方向性は目に見えている。とにかく向こう見ずな憧れから離れ、地に足をつけた現実的な方向性へと軌道修正を図るのだ。そのために必要なのが、分かりやすく実力を伸ばす新人探査者の例──つまりは今後の光太郎の可能性だ。
そう言われて光太郎はさらに意気軒昂に心を昂らせた。改めて自身の可能性の大きさ、期待されているものの重さに向き合い、しっかりとそれに応え背負っていこうという気概を持ったのだ。
あるいはそれは英雄に必要な大器の片鱗。
ヴァールや妹尾とも肩を並べるだけの探査者へと至る可能性の、萌芽ともいうべき自覚であった。
「それをみんなに広めるためにも、まずは僕がしっかりしなきゃならないんだ……!! ぃよぉぉぉおし男一匹早瀬光太郎っ!! こうなりゃ何がなんでもこの土地の気風から抜け出してみせるっ!! うはははは、うはは、うはははははーっ!!」
「…………調子の良さも土地柄かな? 全探組での探査者達を見ても思いましたが、根本的に調子に乗りやすいみたいですね、みんな」
「勢いづきやすいのは良かれ悪しかれだな。これまでは悪い方向に行っていたが、指導次第では良い方向にもすさまじく伸びていくかもしれん」
とはいえ、今はまだ新人で問題だらけの若人でしかない。
苦笑する妹尾とひとまず期待するヴァールは、はしゃぎ気炎を吐く光太郎を眺め、顔を見合わせるのだった。