大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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探査者教育への決意

「なるほど……それでは光太郎くんは鍛えるだけの価値があり、それをもってこの地の探査者達を改善へと導けるだけの値打ちもある、と」

「そうワタシと妹尾は判断した。早瀬は悪癖の猪突猛進ささえ抜けば逸材だろう。磨けば光る、その素質はあるとな」

 

 光太郎の実力と今後の可能性を見定めるための、ダンジョン探査を終えて夜。

 長野市の全探組施設に帰還したヴァールと妹尾は、宮田支部長と膝を突き合わせて今回の探査で見えてきた今後の方針について話し合っていた。

 

 基本的に光太郎一人で、モンスターを相手に様々な指摘をしながらも探査させてみた一連の流れ。そのなかで彼はたしかに大器の片鱗というべきか、今はまだ未熟ながら磨けばまばゆく光るような輝きを秘めていることを示してくれた。

 翻っては中部地方の探査者全般にも同じことが言えると、妹尾は語る。

 

「後先を考えない点を除いて考えると、この地方の探査者達が持つ勇敢さや物怖じのなさは一般的な探査者にはない武器です。それを短所とするのでなく長所とできるよう、改善していけば……むしろ日本は中部地方の探査者達は、世界でも類を見ないほどに平均的な実力の高い集団に仕上がるかもしれませんよ」

「それは……なんとも夢のある話ですな! いやはや、もしそうなってくれたなら私としても非常に喜ばしくはありますが!」

 

 思わぬ高評価──可能性の話でも、ここまで見積もられるとは思っていなかった宮田は見るからに喜色満面の様子を見せた。

 彼は長野市の全探組施設の長だ。地元出身ゆえに土地柄やそこに住む人々はもちろん探査者達への愛着もある。ゆえにそうまで期待されるというのは、嬉しくなるものだしやる気も出るというものだ。

 

 正直なところ、彼としては現状の改善は難しいと思っているのが本音だ。

 この土地の探査者達の気風における大きな要因である英雄・権藤武虎の存在感と影響は能力者大戦後から今に至るまでの15年間ひたすらに強く、すっかり根付いてしまっているものゆえにどうすることもできないだろうと思っている。

 

 だがしかし……武虎以上、問答無用で世界最高の英雄と言えるWSO統括理事その人がお墨付きをくれたのだ。改善していけば、中部地方の探査者達はどこの地域にも増して精強揃いの探査者集団となれる、と。

 これに応えない手はない。地元の評判が上がればそれはすなわち宮田の評価にもつながり、さらには地域の探査者達の価値向上にもつながるのだから。

 今年で37歳になる彼は、しかし青年のように理想に燃えてヴァールに答えた。

 

「そういうことでしたら、こちらもますますお二方によるご指導ご鞭撻を広報し宣伝していかなければなりません! すでに他の全探組ならびに探査者達へ周知徹底と情報共有を行っておりますが、さらに盛り上がっていくように仕向けましょう!」

「助かる。我々も早瀬のこともあり、長野だけでなく周辺県にも足を伸ばすつもりでいる。彼はどうにも交友関係が広いようでな、各地に友人の探査者がいるようなのだ」

「さしあたっては長野での活動を行いますが、7月の半ばくらいには光太郎くんの夏休みの合間を縫って富山にまで行ってみようと思います。それまでは彼と、我々に興味を持ってくれた探査者達への指導と教育に専念しますよ。並行してスタンピードの捜査と調査も行いたいですからね」

 

 やる気漲る宮田に対して、淡々とヴァールと妹尾は今後の予定を告げた。これは二人にとっても思いがけないことだったが、光太郎の人脈がこの地での活動に利用できそうなのだ。

 というのも光太郎は探査者として生活するなかで、長野周辺の県にまで足を伸ばしてダンジョン探査を行なっていたらしい。

 

 そしてそこで出会った同業の友人や先輩後輩達と交友関係を作り、ある種の人脈を構築しているという。意外なまでに顔が広い一面を持っていたのだ。

 思えば初対面でいきなり同行を願い出るアグレッシブさだ、それを思えばそのくらいはできるのだろうとヴァールなどは感心したほどだ。

 

 ともかく、そうした人脈をも活かして彼女らは探査者達の教育に力を入れようとしている。光太郎の修行も兼ねて各地を巡り、その土地の探査者にも一般的な探査者のあり方を広めるのだ。

 その合間にもスタンピードの捜査を進めつつ、近隣住民の安全を護りながらも中部地方における探査者全体の実力を底上げして意識改善を行う。

 そういう画を描いているのである。

 

「正直に言えば、予想以上に長期間の滞在になりそうだ。統括理事としての仕事はなんとでもするので問題ないが妹尾、君のほうはどうなのだ? 教授職もこればかりにかまけていられるものではないだろう」

「それこそどうにでもなりますとも、何しろ国内ですからね。どうしても東京に戻らなければならない時は何日か空けますが、そうでないタイミングにはなるだけ中部地方で探査者達にいろいろ教えましょう。それもまた、モンスター学を修める私の使命というものですとも」

「心強いな、助かる」

 

 こうなれば腰を据えて、ある程度長期的な展望でことを進めていくつもりのヴァール。WSO統括理事としての業務ももちろんあるが、そこは特例的に《空間転移》を使ってでもどうにかカバーしてみせる心積もりだ。

 同様に妹尾も、教授職の傍らの活動ながらむしろこちらに比重を置く意志を固めている。他ならぬ自分の住む国のことなのだから当然のことだとして、穏やかながら強い意志を秘めた笑みを返してみせたのだ。

 

 これ以降、ヴァールと妹尾は本格的に光太郎をはじめとする探査者達に指導を行っていくこととなる。

 連続スタンピード事件の捜査と並行してのタイトなスケジュールだが……それでも探査者のためになるならと、なんら躊躇のない決断なのだった。

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