そこからひとまず一週間ほど、ダンジョン探査を中心にヴァールと妹尾の指導の下、光太郎はモンスター相手に試行錯誤と改善を繰り返しながらの修行を開始していた。
根本的な戦闘時の動きや技の扱い方はもちろんのこと、仲間との連携での考え方から性根に染み付いた猪突猛進さの克服に至るまで……フィジカル面もメンタル面も大幅なテコ入れが行われたのだ。
「《鎖法》──早瀬、下がれ! 鉄鎖乱舞!!」
「ぐげげげげぎゃーっ!?」
「ぴぎぎー!」
「ぐがあああー!?」
「えっ……と! こういう時、とりあえず下がって様子を見て、と!」
そうして今はダンジョンのなか、いくつか目の部屋にて何体目かのモンスターを三体、相手に彼は戦っていた。
今回は連携面の鍛錬がテーマだ。ゆえにヴァールのサポートを受けつつ動くことになっていた。槍で初撃を入れた後、威力を下げた鉄鎖乱舞で動きを封じ込めたタイミング。
事前に叩き込まれた指導内容を、必死に思い出しながら光太郎は頭を回転させる。ヴァールの《鎖法》は火力面もすさまじいが支援的な使い方も幅広く行えるものだ。
それをもってモンスターの足止めをした、そこからどう動く? ひとまず突っ込むことだけは禁じられているため、距離を置いて光太郎は俯瞰的に戦場を広く見つめた。
「ゴブリンが武器を持った腕を封じられていて、スライムが貫かれていて、オークが足を絡め取られてる。この場合、倒すべきは────とりあえず目についたやつから、じゃないですよね教授!」
「さすがにそこはね。まずはスライムは除外だ、今の一撃で概ね消えかけている。となるとゴブリンかオークなんだけれど」
「ええと、ええと! ……ヴァールさんの、サポート役の負担を減らすなら! 先に仕留めやすいほう、ゴブリンか!」
妹尾の意見を受けつつ考える。スライムは言われたとおり、すでに光の粒子となって消えつつある。つまり光太郎が狙い定めるべきは腕を拘束したゴブリンか足を絡め取られたオークかのどちらか。
どう優先順位をつけるべきか。光太郎はいくらか考え、結局ゴブリンめがけて槍を構え突撃した。闇雲でない、たしかな意図と意志のあるチャージ。
戦闘面でも指導の成果は多少出ている。無茶な近接戦闘を仕掛ける悪癖は禁止され、できる限り槍を使っての攻撃を行うようになった結果、槍の技術が上達していっているのだ。
《槍術》。槍を用いた技術の習熟速度を上げるそのスキルが、如何なく発揮されている形となる。自身の持つスキルに合わせた技術を積み重ねるのが当然なのだ、本来は……勢い任せで適当に殴りつけるなど、あらゆる面から見て効率が悪く危険な行為でしかないのだと、今では光太郎も理解し始めていた。
「喰らえぇぇっ!! 《槍術》、飛騨一閃ッ!!」
「ぐげぎぎゃあっ!? ぐご、ぐごげげ」
「かーらーのー! 連撃・木曽二段!!」
彼にとっての十八番。これまで唯一技らしい技として考案していた鋭い横一文字の薙ぎ払い、飛騨一閃。
それをもって強かにゴブリンの腹部を切り払ってから、矢継ぎ早に次なる攻撃行動に移る。
ヴァールと妹尾から教えを受け始めて未だ一週間ながら、すぐに輪郭程度にでも掴めてきた"次なる技"だ。
習熟度はともかくここまで早く新技を考案し、実戦に使える程度にまで仕上げつつあるのは、彼が探査者としてたしかな才能を持ち、かつこれまでの1年近くで彼なりに経験を積んできたことを示している。
飛騨一閃、からの連撃・木曽二段。
薙ぎ払い切り裂いた動作から即座に大きく縦に槍を振り回し、瞬時に二回転させて斬りつける技。
まだまだ拙い動きながらも、たしかに連撃として成立しているそれらコンビネーションは……瞬く間にゴブリンを引き裂き、光の粒子へと変えていった。
「ご、ごげー……」
「これでよし、次! 動けないオーク、をぉっ!?」
「ぐるぉおおああーっ!!」
「何ぃっ!?」
残るはオークのみ、鎖で足下を取られ転んでいたモンスターに、すぐさま追撃をしかけようと光太郎が振り向く矢先。
そのオークがいつの間にやら片膝にでも立ち上がり、なけなしの力で手にした棍棒を振り下ろしてきていたのが見えて、彼は思わず叫んだ。
そして咄嗟に槍で受け止め流す。防御面に関してはヴァールや妹尾の目から見てもそれなりに様になっている光太郎だが、その表情には戦慄が走っている。
優先順位を間違えたことに気づいたのだ……ヴァールが静かに、冷静に指摘した。
「惜しいな。今の状況、ゴブリンでなくオークを先に仕留めていれば無理なく二体目への攻撃に移行できた。攻撃される心配のないゴブリンから手を付けたのは良いが、その最中にオークが多少なりとも態勢を整え直していたからな」
「ゴブリンから仕留めるなら、最初の飛騨一閃で倒しきって続けての木曽二段でオークを攻撃できるように心がけたいね。逆にオークから先に攻撃していたら、転倒して混乱中のオークを時間をかけて倒した後でも、結局腕を封じられていて攻撃できないゴブリンだけになるから後はどうとでもできる」
「き、機動力を潰したほうから先かぁ!? 言われてみたらたしかに、攻撃してこれない相手なんかいくら放っといても問題ないものなあー!!」
答え合わせとばかりに飛んでくる、ヴァールと妹尾の言葉。
要は二択だった──火力を潰した相手と機動力を潰した相手と、どちらを先に倒すべきか。そして光太郎は攻撃してこれないほうから先に倒したほうが楽だと思いそうしたが、今の彼の実力的に言えばどちらかと言えば逆のほうが良かったのだ。
光太郎もすぐにそれを理解して、悔しがりながらもオークに応戦する。元より実力的にはオーク相手に引けを取らないのだ、倒すだけなら問題なくできる。
しかして戦闘時の段取りの組み方、咄嗟の選択に際しての判断力の未熟さが浮き彫りになった形であることに、彼は忸怩たる想いを抱かずにいられないまま、槍で一突きしてオークを倒しきったのであった。