大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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新たなるステップ

 光太郎を鍛えつつ、連続スタンピード事件の捜査もしつつ並行して現地探査者への教育計画をも練る──

 長野に来てからそのような生活を送ることになって早、二ヶ月近くが経つソフィア、ヴァール、そして妹尾だったが。長野を拠点に周辺県の視察と調査にも赴く段を迎えたのは、その頃になってのことだった。

 

 1960年7月中旬。

 この頃にはWSOからエージェント部隊も中部地方に集結、ヴァールの指揮下で各地に散開して捜査を開始している。

 そこから得た情報を精査しつつWSO統括理事としての業務もこなしつつ、かつ前述のとおり光太郎を鍛えながらも興味を持った地元探査者達へ薫陶も授ける、という多忙な日々を送るなかでの遠征探査である。

 

「一ヶ月ほど、集中してダンジョン探査やスタンピード鎮圧による実戦経験を積んできたが……早瀬、君の戦法もひとまず基礎の基礎くらいはできてきたと見て良いだろう。となればこちらとしてもそれなりに動きやすくなる」

「そこでかねてより予定していたとおり明日から、まずは富山にいる君の探査者仲間の下に向かおう。それを通してその地の探査者達と交流し、君と同じく向上心のある探査者達に我々のやり方を覚えていってもらうんだ」

「はい! ついにこの時が来ましたね……いやはやキッツいけどやりがいある修行の日々ですよまったく、うははははっ!!」

 

 早瀬光太郎の自宅、長野市近郊の長屋の一室にて。

 最近ではここを訪れることも珍しくなくなったヴァールと妹尾が、卓袱台を囲んで光太郎と明日以降の予定について語り合っていた。

 家主の光太郎も相変わらずの豪快そのものな笑い声をあげている。修行を始めてここに至るまでの一ヶ月、大分厳しい目に遭ったなあ! と内心で遠い目をしながらの笑声である。

 

 実際、彼にとっては長くもあり短くもある、楽しくもあり苦しくもある日々だった。

 ダンジョン探査をメインに戦闘のいろはを一から学びなおし、また時々発生するスタンピードにも変わらず対応のため出撃してヴァール、妹尾と連携して対処していった日々。

 

 褒められた記憶もそれなりにあるが、厳しい指摘や叱咤を受けた記憶もそれ以上にある。

 これまでのノウハウを根本から否定されるとは分かっていたがなかなかの全否定ぶりで、正直なところ何くそと反発めいた考えさえ抱かないでもなかった。

 

 なんなら、光太郎の修行に興味を抱いた他の先輩探査者達も似たようなものだ……探査に同行してはその厳しさに目を丸くし、あるいは苛立ち反抗し、時には喧嘩を売り出す者達までいたのだから。

 

 

『黙って聞いてりゃ余所者が舐めた口ぃ利きやがって何様だ!! 統括理事だかトーストカツサンドだか知らねえがとっとと帰りやがれ!!』

『大体あんたら本当に強いの? 人様に偉そうに説教垂れるくらいなんだから、このくらいの人数で囲っても勝てるんでしょうねえ!?』

 

 

 などと。血気盛んな気風がこの土地の探査者なのは光太郎も把握していたが、よもや探査者相手に闇討ちめいた真似までする輩がいるとも思っていなかった。

 だがもっと驚いたのは、そうしてそれなりの人数に囲まれてなお、《鎖法》の一撃でそのすべてを拘束して圧倒してみせた、ヴァールの手際と実力の高さだった。

 

「昨今では探査者制度が確立して15年にもなり、ベテランと呼ばれる者達も続々出てくるなかで後進や非能力者に横柄な態度を取る輩もいくらか出てきていると言うが。そのような手合いがこの地域の探査者達の気風と合わさると、大変ろくでもない行為に走るというのは頭が痛いな」

「まったくです。すでに各県の全探組および追加のWSO職員を派遣しての再教育体制は構築し始めていますが……そもそもそうするしかない現状が割と論外ではあります」

「うは、うははは……い、いやー先輩方が面目ない! なんていうか、縄張りを荒らされたみたいに感じるらしくて面白くないのかもしれないですね、うはは!」

 

 問題なくそうした事態にも対応しきったものの、それ以前の話だとして嘆息交じりに中部地方の探査者界隈を嘆く外部からの二人。

 その姿に光太郎は我がことではないものの、やはり現地人員の一人として恥ずかしく思わざるを得ない。

 

 あくまで一部の探査者だけが、そこまで強硬な行為に及んでいる程度なものの……そうでなくとも比較的おとなしいほうの同僚や先輩達までもが、どこか半信半疑にヴァールを見ているのを彼は知っていた。

 そして少ないながらも今、この二人の薫陶を受けているからこそ改めて思う。この地域の探査者像はやはりズレているらしい、と。

 

「探査者以外の非能力者、たとえば僕の家の隣に住む鶴太郎爺ちゃんとか亀代婆ちゃんなんか筆頭ですけど、市民の方々はむしろすごく良識的というか、優しくて温かい人達ばかりなんですけどねえ。なぜか探査者の人達ばっかり、気性が荒いというかなんというか」

「話に聞く地元の英雄探査者、権藤武虎氏の影響が相当濃いみたいだね……たしか彼も今、スタンピードに対処すべく愛知だか岐阜だかにいるんだろう? そのうち会う機会もあるだろうから、彼にも協力を要請しないとね」

「やはり外様の我々より、地元探査者達の人望を集める権藤武虎の言う事のほうが聞く余地はあるだろうからな。まあ、何はともあれまずは富山だ。明日からよろしく頼むぞ、早瀬」

「わかりました! 今後も引き続き、精進します!!」

 

 中部地方の探査者達の憧憬を一手に惹きつけるカリスマ、権藤平之助の息子である権藤武虎。

 彼の協力をも取り付けられれば、この状況もあるいは変わってくるかもしれないだろう。

 

 一縷の望みをかけて富山はじめ周辺県へと向かうつもりのヴァールと妹尾。

 光太郎もまた、修行の日々が新たなるフェーズを迎えるという予感に胸を躍らせながらもうなずくのだった。

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