大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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長野から富山へ

 ──ヴァールの宣言通り、長野の全探組施設から富山の全探組施設にまで一行は瞬時に移動した。

 スキル《空間転移》。離れた2点を繋げるその効果により生成されたワームホールが、本来電車であっても一時間以上かかる距離をわずか数秒にまで短縮したのである。

 

 そうして辿り着く会議室。すでに話を受けていた富山全探組の支部長が待っていたそこは、長野と雰囲気がずいぶん違うようにヴァールには感じられた。

 同じ国でもところ変われば空気も異なる、しかして中部地方である以上、現状問題となっている例の気質は変わらないのだろうなと、どこか諦め気味に腹を括る内心だ。

 

「わ、わぁ……ほ、本当に全探組だ、富山の……!! こ、これは驚いた、たまげたぁ……」

「初めてこのスキルを見た者は大体みんな、同じような驚き方をするねえ。かくいう私も15年以上前、まるで似た反応をしたものだよ懐かしい」

 

 一方で本当に瞬間移動してしまったことに対する、驚きを顕にする光太郎を見て妹尾が感慨深くもつぶやいていた。

 現状、世界でもおそらくはヴァールのみが保持するこのスキルの効果はかつて、知り合って間もない彼自身も盛大に驚かされたものだ。

 もっと言うなら同じソフィアの弟子筋である盟友、シェン・カーンやレベッカ・ウェインも同様だったと聞いている。

 

 あれから15年以上。どれだけ年月が流れてもやはり、この《空間転移》とソフィア、ヴァールだけは変わらずすさまじい。

 変わらないもの、変われない者。その善し悪しに思いを馳せさえしつつも、けれど教授はそれを振り切るように富山の支部長に目を向けた。

 彼もまた、話に聞いてはいたものの実際に空間を超えてやってきた三人に目を丸くしている。

 

「ど……どうも、ようこそチェーホワ統括理事。富山全探組支部へ、支部長の北山と申します」

「ああ、はじめましてソフィア・チェーホワだ、出迎え感謝する。こちらは今回のワタシのパーティメンバー、妹尾万三郎と早瀬光太郎だ」

「妹尾です。よろしくお願いします」

「は、早瀬光太郎です! よろしくお願いします!!」

「え、ええ。よろしく」

 

 ステータスが半ば一般化した大ダンジョン時代社会においてもなお、非現実的な光景を目にして戸惑う富山支部長、北山。しかしてどうにか挨拶は交わし、とにかくも彼は職務を果たそうと努めた。

 すなわちWSO統括理事が今回来た目的……富山の探査者達への探査者教育と早瀬光太郎の修行、ならびにスタンピード頻発についての現地調査。それらのサポートとフォローを果たすべく、彼はヴァール達を案内し始めたのだ。

 

「前もって連絡を受けていたことから、当県の探査者達に統括理事によるご指導の機会が本日、朝から与えられたということは通達済みです。そちらの早瀬くんの友人だという、相田ひとみさんにも協力してもらい50人ほど参加人数は確保できています」

「助かる。せっかく来て多少でもものを教えるというのに、相手が誰一人いないでは仕方がないからな──とはいえ、長野同様に反発はそれなりにありそうだが」

「すでに長野の探査者達は、割とこちらの実力を目にして黙りつつありますけど……それでも活きのいいのは噛み付いてきますからねえ」

「う、うはは……いやあうちの県の探査者達がもうしわけない!」

 

 今日、富山を訪れるにあたって当然ながら根回しは行っている。

 スタンピード調査の準備のためWSOエージェントも派遣済みであり、光太郎の修行用に探査するダンジョンも見繕っているし、彼の友人だという相田なる探査者とも話を通している。

 

 その上でとりわけ本命の用事と言えるだろう、現地探査者達への教育。その場を用意したことについては、北山はじめ全探組のほうから大々的に宣伝と周知徹底を行ってもらっているのだ。

 結果として人数は相応に確保できたようだが、しかして不安はやはり、参加者達からの反発だろう。長野のほうでもあったことだが、今までのやり方に文句をつけられたと感じた探査者達から直接的に決闘を挑まれるようなことも少なくなかったのだ。

 

 ヴァールや妹尾としては残念ながら、そうなると実力を示す意味も込めて模擬戦の形でも叩きのめすしかない。

 この二ヶ月ですでに、二人合わせて30人ほどの探査者から敵意を向けられ、それを他の探査者の前で実力的に圧倒して物理的な説得を行なっていた。

 

 修行の傍らでのことなので、その場に毎度居合わせている早瀬としては、故郷の探査者達のそうした動きははっきり言って恥ずかしいことだ。

 気持ちは分かるが、だからといって実力行使など人の道からも探査者倫理からも逸脱していると言わざるを得ない。ましてその上で普通に敗れ、指一本触れることなく制圧されてばかりなのだ。

 

 翻って世界レベルの探査者達との差を見せつけられる形にもなり、藪蛇を突いた気分にすらなって余計に複雑な気持ちにもなる。

 探査者界隈も含め、地元愛の強い光太郎としてはどうにか素直にみんなで切磋琢磨できれば良いのにと願うばかりだった。

 

「富山も同様のことが起きると見て良いだろう……探査者同士で敵意を抱いた戦いなど、模擬戦の形でもしたくないのだがな」

「仕方ありません、この地の気風はそうなのですから。実力こそ正義、というような向きは正直、文明的でないようにも思いますがね」

「ううっ……」

「耳が痛いですね……」

 

 嘆息するヴァールと妹尾に、光太郎も北山も渋面を浮かべるしかない。

 どうあれ富山の探査者達を相手に、WSOによる探査者教育は始まろうとしていた。

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