会議室から移動して全探組施設を出る。日本の町並みという点では長野とそう変わらないが、それでもやはり富山は富山として独自の風景が広がっている。
近くに神通川が長大に流れる、富山平野を中心に作られている都市だ。
日本全国の例に漏れずこの地域も経済的な発展をいよいよ迎えつつある頃合いで、あちらこちらで開発工事が進められている。
道路の舗装や鉄道の敷設なども順調に行われているようで、そうした様は今後の日本国がますます意気盛んになることを暗示しているようにも、光太郎には思えている。
そんな富山県は先程まで彼らがいた長野県とは、いわゆる飛騨山脈あるいは北アルプスと呼ばれる山脈を挟む形で隣接している。
その影響で都市部を訪れる登山客は絶えず観光名所も多くあるため、中部地方にあって存在感を強く放つ土地と言えるだろう。
そんな富山の探査者達が待つ、全探組施設からそう遠くないところにある探査者用の集会所へと向かう。地元に古くからあった公会堂を全探組が買い上げて改築したもので、今では探査者達の会合から模擬戦などの修行場としての運用が幅広く行われている。
こうした施設はどこにでもあるわけではないが、さりとてそう珍しくないものでもあるのだ。時折この地まで足を運んでいる光太郎が、ヴァールと妹尾に説明する。
「長野の全探組はそういう施設を持ってないんで、模擬戦とかしたい人はよく富山まで行くんです。まあ、あんまり利用者はいないんですけど」
「探査者同士でやるなら模擬戦でなく喧嘩だ、という風潮があるからね……統括理事や教授にはお話するのも恥ずかしながら、中部地方の探査者達はみんなして血気盛んでして、モンスターにでも矛先を向けない限り血で血を洗う同士討ちになりかねないことから模擬戦は好まれない風潮にあるのですよ。切磋琢磨というか、気に入らない相手を叩きのめす場になっているんです」
「さすがに野蛮が過ぎるだろう……一般的な日本国民は概ね穏やかな気質だというのに、なぜ探査者になるとそうも獰猛になるのだ……」
せっかくの模擬戦ができる施設を持ちながら、それを忌避する傾向にある現地探査者達。
その理由がまさかの"模擬戦じゃなくなるから"というあまりにもあまりなもので、ヴァールは何度目かの精神的頭痛に手で頭を抑えた。
そもそも彼女の立場上、探査者同士が戦うというのは模擬戦くらいでしか容認し得ないものだ。
そのために模擬戦施設のようなものまで制度として設けているところがあるのに、血の気が多すぎるという理由からそれが忌避されているとは何ごとだという思いが率直にある。
ともあれ歩くこと10分ほど。すぐにその集会所へと到着した。古びていながらもきちんと清掃の行き届いた木造の建築物に、その横には芝の生い茂るグラウンドがある。
そちらは模擬戦用だろうと、あたりをつけて建築内に入る。エントランスホール。受付の前に女性が一人、待ち構えるようにして立っていた。
「うん? ……誰だ?」
「あっ、来た! うわ、マジでチェーホワ統括理事さんに妹尾万三郎教授だ……ちょっと光太郎くん、アンタどーやってこんな超大物と知り合ったのよさ!?」
年の頃、20代後半頃の女だ。白シャツにジーンズを履いて、腰には3本ほど鞘に入ったナイフをぶら下げている。探査者だろう。
こちらを見るなりWSO統括理事とモンスター学教授を認識し、あまつさえ光太郎と知己のように声かけしてくる。そこから察するに彼女が例の友人とやらだろうと推測したヴァールと妹尾は、応対するのを光太郎に任せしばらく様子見することにした。
「あっ、相田さーん! 久しぶり、元気してた!?」
「あったりまえじゃないのさ、アンタも元気そうで何よりだわ猪突猛進くん。で、良いからどうやって知り合ったのか言いなさいってば」
「スタンピードの時に見かけて、そのまま同行させてくれって頼み込んだだけー」
「本当? 意外とすんなりオッケーもらえるのねえ。私も今度京都行ってやってみようかしら、御堂さん私を弟子にしてーって」
「…………御堂? 御堂将太のことか、なぜそこで彼が出てきたのだ」
意外なタイミングで意外な名──関西は京都の名探査者、御堂将太──が出てきたことに、彼とそれなりに親交のあるヴァールが怪訝にも反応した。
それに対して女は、光太郎とのやりとりもそこそこに彼女に向き直る。最近よく見かける地元探査者達のような、どこか値踏みしてくる感じではない。
たしかな敬意、そして緊張。
言うなれば"普通"の態度で女探査者は、そして名乗りを上げるのだった。
「お初にお目にかかりますソフィア・チェーホワ統括理事。私は相田ひとみ、富山の探査者で早瀬光太郎くんの友人です。御堂さんについてはそのう、個人的にもファンなので弟子入りしたいなーってだけなんです。男前だしお金持ちでしょう、あの人?」
彼女──相田ひとみは、はにかみながらも率直な理由を口にして穏やかに、けれどどこか妖艶に微笑んでいた。