相田ひとみ。富山の探査者にして、早瀬光太郎とは彼がデビューしたての頃からの知り合いだ。
たまたま長野にまでダンジョン探査の遠征のため訪れていたところ、右も左も分からない光太郎にいくらか界隈の知識を教えたという関係でもある。
とはいえ師弟関係などでもなく、今では年は離れていながらもある種、対等な友人関係を築いていると言えよう。
御年25歳の彼女にとって、15歳の光太郎は弟のようなものでもあるのだが……探査者としての実力はお互い同等程度のため、こうした形に落ち着いているのだった。
「ちなみに探査者歴は5年、目指す探査者はさっきも言いましたが京都の御堂将太でーす! なぜってそりゃあ、金持ちで強くて面も良くて美人の嫁さんまでいるアンチクショーが羨ましいったら無いからですわさ」
「うはははは、相田さんの御堂さんライバル視は相変わらずだなあ! 出会った頃からこの人ずーっと言い続けているんですよ、京都の御堂さんがうらやましい、京都の御堂さんはズルいって!!」
「だーってホントにズルいじゃんあんなの! ただでさえ古都京都住まいってだけでなんかはいから感あるのにさ、天はあの人にいくつ物を授けたんだか! こちとら幼少時代は食うにも困る戦災孤児で、社会に出てからやっとこ一人前かな? って頃になっていきなりステータスに覚醒なんだわさ。まあ、おかげで金持ちにはなれたけどもね」
「そ、そうかね……」
集会所のなかを案内し、目的地である講堂へと案内する最中。
明るく陽気に、悲惨な過去と京都の探査者・御堂将太への嫉妬と憧憬を語る相田に、ヴァールも妹尾も戸惑いを隠せない。元来の友人らしい光太郎ばかりが大変に面白がって笑っているのもまた、空気の違いを感じさせるものだ。
どう反応するべきか。特にヴァールなどはその御堂将太とも知り合いなため、迂闊に言及するのも何やら良くない気がして何も言えないでいる。
そんな二人を尻目に相田はカラカラと明るく笑う。笑った上で……獰猛な視線で、光太郎を見て犬歯を剥き出しに言った。
「ま、そんなこんなはともかく光太郎くん。話は聞いてるわよーチェーホワ統括理事に弟子入りしたとかなんとか。この一ヶ月でずいぶん実力伸びたんじゃないの? 見るからに雰囲気違うわさ」
「弟子入りはともかくいろいろ鍛えてもらってます! うははは、相田さんから見てもやっぱ分かります!? いやもう、ずいぶん実力付けちゃってったら!」
「それに中部地方の探査者達の、アホとしか言えない馬鹿げた風潮を改善しようってのよね? いーじゃないのよ、私は大賛成! 私自身それなりに影響受けちゃってるから思うけど、やっぱちょっとおかしいものね、ここら一帯の権藤武虎信仰ってばさ」
「…………ふむ? 相田ひとみ、君は反発するわけではないのだな、我々の君達への働きかけに。少なくとも長野ではそれなりに噛みつかれたのだが、富山はまた違うのか?」
戦士として、的確に光太郎の実力が伸びていることを見抜く相田。
すでに全探組を通じて富山の探査者達の間にも情報は知れ渡っていた──長野の若手探査者・早瀬光太郎がソフィア・チェーホワに鍛えられていて、それを皮切りに中部地方全体に流れる特異な風潮をも払拭する気でいる、と。
それを好意的に語る彼女に、怪訝に思ったヴァールが尋ねる。光太郎からの話を聞くに相田をはじめ、富山の探査者も長野と変わらずややこしい連中であると覚悟して今回、遠征に臨んでいるのだが違うというなら僥倖だ。
妹尾も興味津々で耳を傾けるなか、相田は統括理事からの質問には居住まいを正し、真剣な態度で受け答えを行う。
「まったく反発がないとは言いません。長野のほうも少なくても賛同者もいないではなかったと思いますが、富山や他の県も同様に賛否両論だと思ったいただければ。私自身も、連続スタンピード事件の合間にでも"永遠の探査者少女"自らテコ入れいただくのはとても大きな転換点になってくれると信じていますし」
「たしかに長野でも、反発の声は大きいながら最初から好意的に受け入れてくれる探査者もいなくはなかったね。権藤武虎氏への憧憬から来る極端な風潮……それもやはり人によりけりだと?」
「はい。どうあれ基盤にはなっているため影響を受けていない探査者はさすがにいませんけど、現状に危機感を抱いている探査者は結構いますよ。ましてや今年に入って、スタンピードが多く発生しているからなおのこと」
「うちの先輩方は根こそぎじゃあ! とか大量じゃあ! とか喜んでますけど……同期とか同世代は割と、一般の方にも被害が出てるスタンピードはそれどころじゃないかもって感じですしね!」
「なるほど……」
相田と光太郎から得た情報、WSOによる中部地方改善活動に対する探査者達の反応は、いくらかでも希望を抱けるものだ。
少なくとも危機感を抱いている者達がいる。特に連続スタンピード事件のなかで、人々の生活がダイレクトに脅かされることが多くなったことで若手世代の意識が変わりつつあるらしい。
あるいは光太郎がヴァール達に同行を願い出たのもそうした危機感からのものでもあるかもしれない。
そんな若者を鍛えることで、同じような想いを抱く探査者達を動かす。その果てに探査者全体の意識を変えていく……ソフィアやヴァール、妹尾の活動は、だからこそ値打ちがあるのだと相田は微笑んだ。
「今回、講堂に集まっている探査者達はみんな、そうした危機感を抱いていたところにあなたと光太郎くんの話を聞きつけてやって来た者達です。無論私も……だからどうか、ぜひともこの機会に見せてほしいんです。光太郎くんのこの一ヶ月の鍛錬の成果や、統括理事ご自身のお力を。そうでなければ、私達も納得いかないところもありますし」
「そうか……分かった。どうあれ力を示さねばこの地の探査者達の理解は得られないというのはすでに把握している。ワタシばかりか早瀬もしっかり示してみせよう。探査者とは本来、こういうものだということをな」
単純明快に、力を示すことで自分達はそれに応えるとする相田。より良い方向に改善していきたいと思うにしても、その先にあるものが現状に優るものであると他ならぬヴァールと光太郎の姿から見出したいのだ。
そこまで言うならばとヴァールは光太郎と顔を見合わせ手うなずいた。元より戦う姿こそがこの地を変え得る説得力に直結するのならば、まずは自分達が示さなければならないのは道理だ。
講堂へとたどり着く。締め切られた扉、その先には変化を望み改革を祈りながらもなお、それを信じきれない者達がいる。
であれば、信じさせてみせよう──それができるだけの実力は、自身はもちろん早瀬光太郎にもすでにある。
確信とともに、ヴァールはそして扉を開けた。