富山探査者達が50人ほど、集まる講堂。そこに現れたヴァールは、そのまま歩を進めて登壇し、全員の前に立った。
この場を設けた全探組の女性スタッフが、マイクを持って挨拶のスピーチを行おうとするのを止める。困惑する彼女からマイクを受け取り、そしてヴァールはすぐさま声をあげた。
『諸君、お集まりいただき感謝する。WSO統括理事ソフィア・ チェーホワだ────挨拶もそこそこに単刀直入に言うぞ。君達にワタシと、我々WSOがこの地で鍛えている探査者である早瀬光太郎の力を示す』
「…………ちょ、統括理事!?」
『諸君らが知りたいのはまさにそこだろう。この地の探査者達全体に蔓延している、いわば超独立独歩主義。それを払拭するだけの価値が我々の訴える改善策にあるのかどうかを、確認するために君達は今ここにいるのであればな』
「ヴァールさん……!? せ、妹尾教授! これは」
開口一番、ストレート極まる本題の展開。あまりに直球すぎる話しぶりに、相田は狼狽し光太郎は目を丸くして妹尾を見た。
どうあれ腕試しというか、実力を示す流れになることは二人とも承知していた……しかしここまで剛速球に来るとは思いもよらないことだ。見れば講堂内の探査者達も、唖然としつつ圧倒されている。
そう、圧倒だ。ヴァールの言葉には有無を言わせないほどの力が、物理的な圧力さえ伴いかねないほどの重みが込められている。
それはソフィアとは別口の、ヴァールだからこそのカリスマ性の発露だ。己の魂そのものから引き出す力を言葉に乗せて放つその威力は、25年にも亘り世界を牽引してきた統括理事の裏側たる存在としての威容を、これ以上ないほどに探査者達へと示していた。
『ワタシとしては、探査者同士での試合自体あまり好ましいとは思わないが……それでも君達の信を得るためそれが必要ならば力を示すことに躊躇いはない。ちょうどこの集会所は施設内に模擬戦を行える場所もある、すぐに全員準備してくれ。望むものを、望むだけその身と心に刻み込んでやる』
「うーむ……ヴァールさん、なかなかに思い切ったね。ソフィアさんと比べて率直な言動をされるのがあの方だけれど、それでもこの物言いは珍しい。こうでもしないと埒が明かないと判断したのか、英断だね」
「埒が明かない、ですか?」
「長野でもうすでに思い知った上に、相田さんの説明もあったからね──言葉を重ねるより身体に教え込んだほうが手っ取り早いと考えたのさ。そして私としてもそれは同意見だ、言い方は悪いが"君ら"は、言ったところで理解しないのが多いだろう?」
「う……」
「ま、まあ。言っちゃうと力こそ正義な馬鹿ばっかりではありますわさ……」
示すべきもの、信ずるに足るかどうかはもはやただ、模擬戦にて示すのみ。そう言うだけ言って降壇し戻って来るヴァールを見て、妹尾は光太郎と相田に彼女の考えを推測し説明した。
長年の付き合いゆえ、当然理解できていた──早い話が業を煮やしたのだ。
元よりヴァールはソフィアに比べ、素直で率直な傾向がある。政治の世界での腹芸には向かないが、探査者の世界での武力で権威を知ろしめすには大層、適性のある性格をしているのだ。
ゆえに普段、統括理事としては表向きソフィアが政治家として動き、裏側でヴァールが探査者として役割分担をしているのだ。ヴァールだけが戦闘力を保持しているのもあるが、それ以上にそれぞれ得意とする領分が異なるのである。
さてそんなヴァールからしてみれば、いい加減中部地方の探査者達に気を遣い、言葉でもって説得するというのは効果が薄いと判断していた。
どうあっても最終的にはこちらの実力を見定めようと襲いかかってくるのだから、自分達ももう、最初からそうしてしまったほうが手っ取り早いと思ったのである。
通常、さしものヴァールもここまで短絡的な思考や行動には至らないが、そうせざるを得ないのがこの地の探査者達の異様な武虎信仰であり、そして余談を許さぬスタンピード頻発の現状なのだ。
この一ヶ月だけでも、数日に一回はスタンピードへの対応のため出撃していた光太郎としても……言われればもはやうなずくしかない状況に、改めて相田ともども自分達の非常識さを恥じ入る心地だ。
「やれやれ。ソフィアやエリスがこれを知れば、あるいは短絡的に過ぎると叱られてしまうかもしれんな。どちらとも会えない二人だが、なるべくこんな形に仕向けたことは知ってほしくないものだ」
「良くも悪くも真面目なエリス嬢はともかく、少なくともソフィアさんは理解してくれましょう。あの人も最近、あなたからの報告を受けてずいぶん心配していましたし。多少の荒事も、事態を打破するために必要な時があることを知っている方ですよ」
「だと良いがな。まったく……」
「す、すみませんなんか、僕達中部地方の探査者が」
「言葉の通じない野蛮人って言われちゃったも同然だものね……そして自分達でも自覚があるから言い返せないし。情けないったらないわさ、もう!」
いたし方なくこうした、とハッキリ口にしてため息をこぼすヴァールに、妹尾がフォローを入れる。
やり方としては乱暴としか言いようがないが、こうでもしなければまったく話が先に進まないのだと妹尾ばかりかソフィアでさえもいい加減理解している。ゆえにヴァールは今、この状況に限っては最適と言えることをしたのだと労ったのだ。
反面、やはり現地探査者である光太郎と相田としては居た堪れない。
天下のWSO統括理事にここまで言わせてしまうようなこの地の探査者達は、一体どうなっているのかと改めて思ってしまうのだった。