大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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富山、平定

 三つ数えてからの瞬殺。

 50人もの探査者を、モンスターを相手に曲がりなりにでも修羅場を潜り抜けてきた猛者達を、まさしく一蹴してみせた。

 WSO統括理事ソフィア・チェーホワ──その裏人格たるヴァール。スキルを駆使しつつもなお、誰一人としてかすり傷一つ負わせぬまま、また無論ながら自身も指一本とて触れさせぬままの、完全なる勝利であった。

 

 一瞬で飛び出た無数の鎖が、軒並み探査者達の敵意をへし折り拘束していく様はもはや圧巻ですらある。

 その姿に光太郎は、分かっていたことだが身震いを禁じ得なかった。今の自分には遠すぎる背中、強すぎる偉大なる戦士の姿。

 憧憬と羨望を、抱かずにはいられなかったのだ。

 

「す……すごい。すごすぎる」

「ホント、ヤバ……一緒になって喧嘩売らなくって良かったわさ。危うく殴りかかってたら、私もあそこで雁字搦めの連中と同じになってたのよね。おー怖」

「まあ、最強の探査者というのは伊達や酔狂でないというわけだよ。ところで相田さん、君はなぜ参加しなかったのかな? いや、参加してほしかったわけではないけれども」

 

 若人のそうした眼差しを、横目に軽く妹尾は瞳を閉じた。常のヴァールにはない強引な成り行きだったが、そうでもしなければこの地の探査者達はまるで話を聞かないのは彼自身にも理解できていたがゆえに。

 長野に続き富山も、これでひとまず話が進められるかなと人心地つくまである……同時に彼は、光太郎の横で同じく羨望の眼差しをヴァールへ向ける、相田にも問いかけた。

 

 この場にいる富山の探査者達のなかで唯一、喧嘩を売らずに拘束もされていないのも彼女だ。そもそも模擬戦に参加していないため、彼女だけは難を免れたのだ。

 てっきり相田もヴァールに食ってかかるものと思っていた妹尾としては意外な話。しかし相田本人は苦笑いとともに、そんな彼にハッキリと答えたのである。

 

「いやー、一目見た時点で分かりますよ。あ、この人には勝てないって。私もここにいる連中と大差ない自覚はありますけどね、それでももうちょい世間を知ってるつもりではいますよ。京都の御堂将太が心の好敵手兼憧れですからね」

「ああ……なるほど。一応君のように、外部に目を向けている探査者ならそれなりに自覚というか現状は理解しているか。光太郎くんのような若手は特に、スタンピードのこともあって地に足をつけている印象は長野でもあるね」

「統括理事の物言いはそりゃ腹立ちましたけどね? 言われても仕方ないくらい私らの態度や質が悪いってのも、それをどうにかするために光太郎くんを鍛えたりしてるのも知ってますし……挙げ句、実物がこうまで圧倒的に強いともう、私ゃ戦意喪失しちゃいますわさ」

 

 あっけらかんと述べる。そこにはたしかな悔しさをも垣間見せつつも、たしかに現実の自分達が置かれている地点、その危うさを理解していることも伺わせる自覚が浮かんでいた。

 相田は元々、京都の探査者である御堂将太を好敵手あるいは憧れとして意識している。そのため情報収集がてら中部地方以外の探査者界隈を見聞きしており、そのなかで自分達が権藤武虎の影響を受けすぎていることにも気付いていたのだ。

 

 結果として気付く、自分達の頼りなさ。独自路線を気取ってそれぞれ思い思いのやり方をしてきたことで失った協調意識、連携への意欲。

 平時ならばそれでも良いかもしれないが、現状のスタンピードが頻発する昨今にあっては、乱戦のなかで互いに互いの足を引っ張り合う様相を呈しており、あまりにみっともなく情けない。

 

 そして今回、改めて外部からの、しかも探査者の頂点ともいえるWSO統括理事から実力をもってそれを示されたのだ。

 出会い頭の時点で実力差を痛感していた相田としては、もはや何がなんでも心を入れ替えていくしかないと思わされるのは当然なのである。

 

「今、みごとに返り討ちにあった連中も同じような危機感を抱いてますから……これでしっかりと理解して、今後は一切統括理事や妹尾教授に楯突くことはないと思いますわさ。一言で言えばこの地方の探査者界隈は超実力主義、強ければそれに従い弱ければただ従わされる。それが根付いたしきたりですのよさ」

「うーん、武力主義も極まりない……こちらとしては助かるかもだけど、探査者としては大いに問題だと言わざるを得ないね。まあ、そのへんもここからどうにかしていくしかないけれど」

「大丈夫ですよ教授! みんなヴァールさんの実力は理解したんですから、今後は素直に言うことを聞くと思いますよ僕みたいに! うははははは、富山、平定!!」

「していないがな。やれやれ……他の県でもこんなことを繰り返さねばならんのか? まったく……」

 

 呵々大笑する光太郎に、無表情にも呆れた様子でつぶやくヴァール。《鎖法》は解除したものの、倒した探査者達が見るからに尊敬と憧れの眼差しを彼女に向けてきているのが、相田の言い分をまさに正答だと示しているかのようで頭痛すら覚えていた。

 力がすべて、強さこそ正義……中部地方全体に蔓延する実力主義だが、これも権藤武虎の影響なのだろうか?

 

 一度、彼の父である平之助を通じてでも武虎とも接触しなければならない。スタンピードをどうにかするにあたっても、地元の英雄の協力は欠かせまい。

 そう頭で段取りを組みつつも、どうにか富山の探査者達を教育するきっかけを得たヴァール達、WSOなのであった。

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