大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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芽生えてきた展望

 ヴァール達が富山にまで足を伸ばしたのは、何も地元探査者達の指導や教育ばかりを目的としてのことではない。

 この中部地方にて頻発しているスタンピード、その調査と鎮圧のためというのもあるのだ。

 

 そして当然のようにスタンピードは発生し、今も出撃したヴァール、妹尾、光太郎そして同行者の相田が対応している。

 長野と掛け持ちでの行動を開始して半月ほどが経過するなかでの、幾度目かになるモンスターとの戦いだった。

 

「やれやれ、ダンジョン外で戦うというのはやはり複雑な気持ちになるね! 《拳闘術》、ストレートスティンガー!!」

「ごぶぶふぇっ!?」

「富山に来て半月、これで3度目のスタンピードか……《鎖法》! 鉄鎖乱舞、収束っ!! 早瀬、相田そちらは任せる!」

「ホギギャアアアア!?」

「げるげるぴっぴー!?」

 

 妹尾の拳が敵を撃ち抜き、ヴァールの鎖が取り巻きを薙ぎ払う。今回のスタンピードは比較的モンスターの質が低く、余裕をもって鎮圧できる程度の規模だが油断はできない。

 なぜならば今、戦闘が繰り広げられているのは富山県は富山市の、よりにもよって病院近くなのだ。

 

 元より病人や怪我人、医療従事者が多数いる上に近隣住民の避難先でもある施設近くにて発生したというのだから、これは近くの探査者が総出で取りかからねば大惨事になることが確定している状況なのである。

 それゆえに妹尾もヴァールも、たとえ個々は余裕をもって相手取れるモンスター相手であっても攻めの手を抜くことはなく、全力で迅速な殲滅を試みているのであった。

 

「任されましたぁっ!! 《槍術》、飛騨一閃ッ!! この町から消えろっ、モンスターどもっ!! 連撃・木曽二段!!」

「私らが突破されたら大量の犠牲者が出るのよさっ!! 絶対に食い止めるのよ、ここで死んでもやつらを止めるわさーっ!!」

「ぐぴぴぴっ!! ぐげぎゃらがーっ!!」

「グルルルァ!! グルルルガガァ────!!」

 

 そしてその必死さは、当然地元探査者達にも伝播していく。光太郎の槍が唸り相田のナイフが煌めくなか、他の探査者も一気呵成にモンスターを攻め立てていた。

 言うまでもなくこの土地は、彼ら自身の故郷であり住処でもあるのだ。そこをモンスターに荒らされ回り、あまつさえ尊い人命にさえ被害が及ぶというのであれば……彼らはその土地柄から来る獰猛さ、暴力性を剥き出しにすることを厭うことはない。

 

 しかも今、現在進行系で彼らはヴァールと妹尾による教育を受けてきているのだ。

 半月前の講堂での模擬戦以後、WSO統括理事ソフィア・チェーホワの実力とその指導の価値あることは急速な勢いで富山の探査者界隈に広まり、その場にいた50人を皮切りに続々と教えを受ける者達が増えてきているのだ。

 そしてその成果もまた、著しく表れ始めていた。

 

「っしゃあ!! 行くぜお前ら、連携じゃあっ!!」

「いつもなら一人で暴れ倒して、邪魔する探査者なんかまとめてぶちのめすんだけどもね! ……だけどこっちのが効率良いわ、さすがに!」

「つーか何考えて俺ら、アホみてえに一人で戦おうなんて考えてたんだ? 半月前までの自分のことなのに全然忘れちまったや!」

「いやさすがにそれはねーだろ!」

 

 周囲を見、情報伝達と共有を緊密に取りながら互いの足を引っ張るのでなく、高め活かし合う協力戦のスタンス。

 探査者としての基礎、パーティ戦や連携戦の土台となる思考方法や戦術面での知識を一から学んだ彼らは、それらを猛烈な勢いで吸収し己らの力としていた。

 

 無論、まだまだ一般的な探査者に比べてもぎこちない動きだ。これまで誰もが身勝手に振る舞うだけの戦いを長いこと続けてきたものを、一朝一夕ではなかなか払拭できるものではない。

 しかし……それでも、そうあろうとする姿勢で動くだけでもずいぶんと改善が見て取れる。少なくともヴァール達の目には、今の長野や富山の探査者達の傾向は良い方向に向かっているように思えた。

 

「良い流れを構築できてきたか……他の県の探査者達にも、こうして少しずつ基礎面での土台を整えていけば、今すぐにとは行かずともいずれ他の地域と変わらない探査者の姿になるだろう。我々は基盤を、体制を整える役目を果たすべきだな、妹尾」

「ですね。元より15年間培われた姿勢ですから、それを完全に払拭するのも同じ程度、いえその倍は時間がかかるものと見るべきです。そこに向けてのきっかけを作ることもまた、この地における私達の仕事でしょう」

「うははははははーっ!! どうだモンスターども、これが僕達中部地方探査者の力だぁーっ!!」

「うっさいわさ光太郎くん! アンタはアンタで強くなったからって調子乗りすぎよ、上には上がいるって統括理事と教授見てたら分かるでしょうに謙虚でいなさいってんだわさ!!」

 

 豪放磊落を地で行くように、軽快な調子でモンスターを薙ぎ倒していく早瀬光太郎。

 この地に来たヴァールが、探査者改善活動の参考例として鍛え始めて早くも一月半ほどが経つが彼もまた、著しくその実力を向上させている。

 

 並んで戦う富山の探査者、相田ひとみもなかなかに良い動きをしている。

 口喧嘩さながらに言い合いながらも光太郎との連携が多少機能しているのが良い証拠だろう。

 

 このまま、彼ら探査者が意識を変えて連携を覚えることでさらなる強さを、本来あるべき探査者の姿勢を身につけていってくれば良い。たとえ30年かかってもだ。

 そのための基盤、基礎、土台構築こそが……今回の事件を解決するのと並行して行うべき使命と言えるのだろう。

 ヴァールは、そんな想いをなおのこと深めていた。

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