大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

212 / 212
次なる県へ

「するってぇと光坊は、富山の次は岐阜に遠征に行くんですかい!?」

「ええ、そうなりますね。こちらの三人と富山の探査者の方を迎えて四人で、今度はそちらのほうで活動しようかと思っています」

「それに加えて長野で学校生活でしょう? っはぁー……光ちゃんも大変ねえ」

「うはははははは! いやーやりがいがあるなら僕的には全然平気へっちゃら之助だよ!!」

 

 寿司に酒を食べつつ、話題は直近の光太郎の活躍と今後の予定についてが多く語られている。

 ヴァールと妹尾、朝倉夫妻双方共通の知り合いなのが彼であるため、自然と人間関係の軸になっているのだ。そんな光太郎にまつわる話として、明日以降の新たなる活動についてヴァールは鶴太郎、亀代夫妻に説明していた。

 

 つい最近、富山にてスタンピードの対応と現地探査者達の教育指導を行なっていた統括理事一行。

 彼女らの次なる行先は、富山からは南に下り長野からは西に向かう地点にある岐阜県。そちらに向かい、今度はその地の探査者達について指導しつつスタンピード鎮圧と捜査にあたるのだ。

 しかも富山からも一人、新たにパーティメンバーとして探査者を迎え入れての行動なのだ。光太郎は興奮して朝倉夫妻へと語る。

 

「相田さんっていう、僕の友達で先輩の探査者さんも今度は一緒なんだ! しかもしかも!! ソフィアさんと妹尾教授のお知り合いの方も中国から来られるそうなんだよ!」

「へえ、中国から! そりゃまた遠いところからお越しなさるなあ」

「まあ、3年前には北欧まで単身殴り込んできたような青年ですから日本くらいはまだマシでしょう……ラウエンくんともそのくらいぶりか。元気にしてましたかね、彼」

 

 光太郎とは旧知の仲にして、今回同行する相田ひとみ。彼女もヴァール直々の指導を受け、より高度で洗練された技術を身につけるべく奮闘中だ。

 そこに加えてもう一人、こちらはヴァールと妹尾にとっての戦友である中国の探査者──シェン・ラウエンもいよいよ来日の運びとなっていた。

 出国の準備などを今から行うため、すぐにとはいかないが、年末には合流できる見通しが立ったのだ。

 

 3年前の第二次モンスターハザードからこちら、ラウエンとは文通でしかやり取りしていないのが妹尾だ。

 亡き兄弟子シェン・カーンの後継者としてシェン一族の二代目里長になったのは知っているが、そうした身を押して今回の連続スタンピード事件にも参戦してくれるという。

 

 その気持ちはありがたいながらも、しかして里の運営などで多忙だろうに大丈夫なのだろうか?

 ヴァールに尋ねてみると、彼女はソフィアの真似らしく微笑みを絶やさぬまま、妹尾にこともなげに返答した。

 

「カーンくんのことで私の下に来た際は、元気そのものだったわ。それに今回のことでこちらに来る直前にも手紙でやりとりはしたけれど……文面からでも気合が漲っていました。アレは、ひと暴れしたくて仕方ないという様子でしたね」

「なんか物騒!? え、もしかしてそのシェン・ラウエンさんという方は怖い人だったりしますかね、出会い頭に殴りつけてくる的な!」

「まさか。武術家として極めて高い倫理観を持った、一流の探査者よ早瀬くん。彼の扱う武術・星界拳は脚技を主体としているけれど、その振る舞いはきっとあなたや相田さんはじめ、この地の探査者達に良い影響を与えてくれるとワタシは信じています」

「ああ、同感だよ光太郎くん。そのラウエンくんの師匠、今はもうこの世にいない我が兄弟子シェン・カーンも立派な人だったが、ラウエンくんも負けず劣らず素晴らしい人物だ。きっと君も、会えばそのことがすぐに分かるさ」

「そうなんですね……!! 楽しみになってきました! 星界拳のシェン・ラウエンさんかあ、うはははははっ! たっくさんのことを勉強させてもらうぞうー!」

 

 尊敬するソフィアと妹尾、二人から太鼓判を押されるほどに実力と人格を兼ね備えているらしい武術探査者、シェン・ラウエン。

 まだ見ぬ強者にして、尊敬に値すること間違いない偉大な探査機との邂逅を想って光太郎は高らかに爽やかに笑ってみせた。

 

 その人と出会い、ふれあい、そしてまた自分の強さの糧として学ぶ。彼だけでなくこれまでもこれからも出会ってきたすべての人達から、少しずつでも教えを身につけ前へと進むのだ。

 それは、ソフィアと出会うまでの光太郎には欠片とてなかった思想だ。他の現地探査者達と同じく彼もまた、遮二無二戦い暴れ、自分だけが良ければそれで良いという思想に呑まれかけていたのだから。

 

 けれど今は違う。教わること、学ぶこと、そして追いついて追い抜いていくこと。連綿と積み重ねて未来を見据えていくことを、光太郎は明確に意識し始めていた。

 すなわち探査者としての生き様、キャリアをよりよく積み重ねていくことを自覚したのである。

 

「光坊の口から勉強と来たか! ……変わったなあ、良くも悪くもなんも考えとらんアホの子が。間違いなく人の上に立てる大器とは前から思っちょっるが」

「あれはあれで可愛いんだけど、将来のことはこの爺や婆にも不安なところはあったからねえ。良い出会いをしたんだねえ……チェーホワさん、妹尾教授先生、ありがとうございます」

「いえ、そのような……すべては早瀬くん自身の決断と選択の賜物です。彼は、元より立派でしたよ」

 

 光太郎のそうした変化や成長に、彼が長屋に越してきた頃から面倒を見ている朝倉夫妻は感慨深くも感動を隠さずつぶやいた。同時にヴァールや妹尾に感謝の弁を述べる。

 それに対して微笑みながら応対しつつも、ヴァールは……天涯孤独な光太郎にも、こうして親身になってくれる人がいるのだとどこか安堵する心地を覚えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。