大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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会談、岐阜へ向けて

 長野、富山に続く三つ目の中部地方の県、岐阜県への遠征。

 それを目前に控え、ヴァールは長野の全探組支部施設の支部長室にて話し合いを行っていた。

 支部長の宮田ともう一人──権藤財閥会長、権藤平之助と打ち合わせの席を設けていたのだ。

 

「富山での御活躍、すでにこの老爺の耳にも届いておりますれば。50人もの猛者を一撃の下に圧倒してみせ、あまつさえそれをもってかの地の探査者達を従えてみせたというその手腕。さすがは"永遠の探査者少女"と讃えるほかありますまい」

「まったくお見事です、統括理事。富山の北山支部長も喜んでいましたよ、これでようやく他の地域と変わらない体制が構築できる、その土台ができたとね」

「お言葉ありがたく頂戴いたします……とはいえまだまだ課題は多いですが。それでも何ごとも一歩一歩、積み重ねていかねばならないものなのでしょう」

 

 平之助の前であるため、表向きのソフィアとしての言動のままに微笑んで応えるヴァール。本来ならば宮田支部長だけが相手の相談の席、素のままでいても良いかと思っていたのだがタイミングが悪かった。

 中部地方全体の全探組に資金援助を行っている、いわゆる顔役である平之助がすでに先んじており、これまでの数カ月に亘るWSOの活躍と今後の活動について自らも耳にしておきたいと言い出したのだ。

 

 本来ならば機密にも絡む話し込みだ、平之助の参加もあまり認めたくないのがヴァールの本音だったが……

 スポンサーとも言える平之助の意向を尊重したい宮田のスタンスもあれば、何より平之助のほうにも何やら話したいことがあるとのことでこの場はひとまず応じることとしたのである。

 

「いやはや統括理事は謙虚でいらっしゃる……しかし今度は岐阜への行脚ですか。探査者への指導と並行してのスタンピードの捜査のほうは、大丈夫なのですかな?」

「ええ、そちらも恙無くWSOのエージェントが総員体制で動いております。とはいえ、やはり得られている情報は少ないですけれどね……スタンピードの現場に怪しい人影が複数回目撃されているという情報もありますから、間違いなく人為的なものであることは確定しましたが」

「なんと! やはり……やはりこれは人為的スタンピードでありましたか!!」

 

 心底からの驚きに目を見開く平之助。そう、すでに今回の一連の騒動が人為的なものであることは確定していた。

 ここに至るまでのWSOの捜査のなかで、スタンピードが発生した際に何者か、怪しげな風貌の人間が周囲にいたことを何度も確認しているのだ。

 

 このことについては当然ながら全探組ならびに探査者達にも伝えられていることだが、世間への影響からマスコミ等報道関係ならびに非能力者達には未だ公表していないことではあった。

 しかし……ヴァールはソフィアのフリをしながら顎に手をやり、少し考えてから打ち明ける。

 

「今回の騒動がいよいよ、人の手による意図的なテロリズムであることの裏付けがとれたこと……未だ世間には表沙汰にしていませんが、そろそろ公表する時が来たとワタシは考えています。どうでしょうかお二方」

「むう……そうですな、いささか時期尚早な気もしますが。世間の混乱は必至ですぞ」

「とはいえいつまでも秘匿していてはそれこそ、政府や全探組、WSOの信頼にも関わりかねません。どのみち公表することは確定なのです、ならば早いうちにしても良いかもしれません」

「そうですね。権藤氏の意見も尊重しつつの形として、少しずつ情報を小出しにして世間の混乱を最小限に留める向きで行きましょう。宮田支部長の仰るとおり、どうあれいつかは表にしなければならないことではあるのですから」

 

 平之助と宮田の意見を受けて、折衷案を見出すヴァール。実のところ最初からこのあたりの結論を落としどころとしていたので、問題なく話が進められそうなことに少しばかりの安堵を覚える。

 しかして問題は今後の自身の活動についてだ。本題である岐阜県への遠征について話を戻せば、今度は平之助のほうから提案がなされた。

 

 好々爺らしい笑みを浮かべつつもそこは海千山千、老獪な光をも宿す眼差しはいかにも一大財閥の長らしい風格と威厳を纏う。

 ある種のカリスマ。ヴァールをして見事と思わせる程度には力ある姿と言葉と声で、老爺は丁重な口振りで話し始めた。

 

「岐阜へ向かうというのであれば、一つ儂から提案があります……この地の探査者達をここまで問題児にしてしもうた元凶、不肖の倅である武虎と合流していただきたいのです」

「! ……御子息の武虎氏は今、岐阜県にて活動を?」

「ええ。同じく探査者である孫娘や付き人の青年とともにスタンピードの鎮圧にあたっておりますれば。武虎はまだしも孫娘と付き人のほうは未熟ゆえ恐縮ですが、ものの数くらいにはなってくれるかと存じまする。なにとぞ、お役に立てていただきたい」

 

 唐突な話に、ヴァールはふむと考える。権藤武虎……この中部地方全体において伝説の英雄扱いされているらしい男にして、言ってしまえば現地探査者達をここまで滅茶苦茶なスタンスにしてしまったある種の原因だ。

 無論、武虎自体に悪意はないものと思うが。少なくない数の探査者達が15年にも亘り慕い憧れているらしいかの探査者には、ヴァールも少しばかりの興味を抱いていた。

 

 今、日本で起きているこの騒動においても、戦力は少しでもいてくれたほうがいい。

 武虎の娘や付き人というのも含め、光太郎ともども貴重な戦力となってくれることを期待したい。そこまで考えて、ヴァールはそして、うなずくのだった。

 

「分かりました、そういうことであれば武虎氏と合流しましょう。それから武虎氏の御息女ならびに弟子の方にも。そちらの方々の名前を御教えいただけますか?」

「おお、ありがたい話です! 儂の孫娘、武虎の娘の名は華。権藤華と申します。付き人のほうは鮫島弥助。揃って統括理事のところで修行している早瀬光太郎くんと同年代ですゆえ、互いに良く切磋琢磨してくれることを期待しますわい」

 

 気を良くして笑う平之助。

 権藤武虎、権藤華、鮫島弥助──岐阜県での新たな戦力強化の予感に、ヴァールは期待を抱いていた。

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