大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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極東の英雄

 1960年9月下旬。長野市全探組施設の会議室内にて。

 早朝に集合したヴァール、妹尾、光太郎、そして新たな同行者の相田ひとみは、それぞれ準備万端の様子で新たな局面を迎えようとしていた。

 長野、富山に続く三つ目の中部地方の県……岐阜県へと向かうのである。

 

「しっかし驚いたわさ! 《空間転移》だなんてスキルがこの世にあるなんてねえ……《鎖法》も一点物って話だし、WSO統括理事はさすがに規格外なのよさ」

「うはははははは! 僕はすっかり慣れましたよ、さすがにもう半年近くご一緒させてもらってますからね!」

 

 目を白黒させている相田。今しがた、ヴァールが持つスキル《空間転移》にて富山の全探組施設からここにまで一瞬で移動したことを受けての驚きだ。

 本来ならば車でなり電車なりで数時間はかける道程を、ものの数秒までに短縮してしまったのだから、彼女の反応も当然のことと言えよう。

 

 しかして同時に、彼女もこの二ヶ月ほど富山にてヴァールや妹尾から教育を受けている探査者だ。

 ゆえにWSO統括理事ソフィア・チェーホワがいろいろ規格外なことも──特殊なスキルだけでなく二重人格というのも含めだ──理解しているし、今回の"これ"も彼女ならばこのくらいするのだろうという感じも抱いている。

 

 そんな姿を、かつて自分もこんなだったなあと豪快に笑いながら光太郎は答えた。修行開始からすでに五カ月近い彼は、すでに飛躍的な成長を遂げていた。

 

 

 名前 早瀬光太郎 レベル84

 称号 ランサー

 スキル

 名称 槍術

 名称 頑健

 名称 気配感知

 

 称号 ランサー

 効果 槍を使った攻撃の威力に補正

 

 スキル

 名称 槍術

 効果 槍を用いた技術の習熟度に補正

 

 名称 頑健

 効果 身体強度に補正

 

 名称 気配感知

 効果 周囲のモンスターの気配を察知する

 

 

 かくのごとく、5月頃のステータスと比べて倍近くもレベルが上がっている。それだけでも彼がどれだけの鍛錬を重ねたかが窺えよう。

 ほとんど毎日、学業と並行して訓練ないしダンジョン探査、あるいはスタンピード対応を行ってきた結果であった。

 

「そろそろ僕も、一端の探査者っぽくなってきた気がしました! かといって慢心する気はありませんがヴァールさん! 妹尾教授! 岐阜での戦いはもっと前に出て戦いますよ僕は!」

「良い意気込みだな、早瀬。たしかに最近の君は、訓練開始からは見違えるほどに動きも戦闘力も変わったが……」

「まだまだ若手らしい実力でしかないけれど、場数はとにかく踏んだし考え方も連携の仕方も覚えてくれましたからね、光太郎くんは。相田さんもだけれど、なかなか教え甲斐がある伸び代をしているよ」

「ありがとうございます!」

 

 確実に探査者として前進している自覚とともに、強気な姿勢を見せる光太郎に一定の満足を覚えるのがヴァールと妹尾だ。

 実際、それなりにスパルタで教え込んだ二人だが光太郎が折れることなくついてきたことには、年齢やキャリアの差を超えた敬意と感心をさえ抱いている。

 

 彼の探査者としての成長。これは単純な戦闘力増加の面だけでなく、他の現地探査者達へのアピールという点でもいよいよ効果を発揮し始めていた。

 少なくとも長野、富山の探査者達は光太郎の強さを見、WSOの指導を受ければ自分達もこのくらい強くなれると信じ始めているのだから。

 

 同時に連携や協力の重要さ、モンスターを前に我先にと功を焦ることの愚かさなどもそれなりに浸透しつつあり……

 ヴァールやソフィア、妹尾や光太郎自身ですら困惑するほどに、二県の探査者達はその気質をまっとうな探査者のそれへと変貌させつつあった。

 

 この調子で岐阜においても、探査者達の意識改革を行なっていければ良いのだが。

 期待するヴァールだが今回はこれまでと異なる点がいくつかあった。一同にあらためて説明する。

 

「今回、岐阜現地においては新たな仲間が複数名加わることとなる。例の地元の英雄・権藤武虎とその娘、権藤華。および武虎の付き人にあたる鮫島弥助だ」

「権藤武虎……!! 中部地方の15年を支えてきた英雄! ついに会えるのかあ!!」

「加えて海外は中国から、これはWSO側からの増援だがシェン・ラウエンが冬を目処に参戦するため、こちらも岐阜にて合流する。前者はすでにこれから向かう先の岐阜市全探組施設にいるそうなので、おそらく権藤父娘と鮫島の三人から合流することになるが」

「シェンったら能力者大戦の時の英雄、シェン・カーンの血縁かしら? 15年前、私が子供の頃にアジア最強とかって言われてたのを覚えてるわさ」

 

 岐阜にて待つは新たな出会い──権藤武虎、華父娘とその付き人、鮫島弥助なる三人。そして中国からはいよいよ盟友シェン・ラウエンが再来月には来日し、ソフィア達の下に馳せ参じてくれるらしい。

 中部地方の探査者として当然、武虎のことは知っている光太郎と相田だがラウエンについてはよく知らないままだ。

 

 ラウエンの師匠、カーンのことは能力者大戦当時を覚えている相田が言及したが、やはりラウエン自身のことではない。

 そこに、妹尾が補足的に説明した。

 

「カーンさんの弟子にして後継者。そして3年前の北欧全土で起きた第二次モンスターハザードにおいては私達とともに戦ってくれた戦友……それがシェン・ラウエンくんだよ。カーンさんほどアジアに名を轟かせているわけじゃないけど北欧では極東の英雄として名を馳せているね」

「実力もその称号に恥じない見事なものだ。きっと彼もまた、諸君らにとって素晴らしい学びを与えてくれることだろう」

「極東の英雄……!!」

「す、スケールが違うわさ、さすがに」

 

 地元の英雄・権藤武虎があくまで日本は中部地方においてのみそうした扱いをされているのに対し、そのラウエンは北欧全土から極東の英雄として扱われている。

 その差に、やはり一地方とは世界規模でスケールが違うのだなあと光太郎と相田は圧倒されながらも……それほどの英雄と相見えることに、胸を躍らせるのだった。

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