ヴァールの困惑をよそに──
ひととおり光太郎との和解と、鮫島への説教を終えて件の英雄、権藤武虎はあらためて会議室内の席に全員を座らせ、その場で初対面ゆえの自己紹介と今後についての話し合いを促した。
すでにある程度の事情を察しているがゆえの話の早さだ。彼としても余計なことにかまけている時間はないという、意識があるようにヴァールには思えていた。
「それでは改めて名乗らせていただく。権藤武虎だ。中部地方全域で探査活動をしている。歳は36、レベルは350。戦闘スタイルは徒手空拳が主だ。よろしく頼む」
「レベル350! ……これは驚いた、さすがは英雄の名を冠するだけはある。あるいは当世にあって、ソフィアさんに次ぐ高レベル帯じゃないか」
「お褒めにあずかり恐縮だ、妹尾教授。そちらもモンスター学の教授という側面を持ちながら歴戦の古強者だ。率直に敬意を払わせていただきたい」
名前と年齢、レベルと戦闘スタイルという探査者には通り一遍の自己紹介を行う武虎。
しかしてそのレベルがあまりに高水準の数値であることに、まずは妹尾が驚きの声をあげた。
この時代、世界でも一流の探査者とされる者であればレベル3桁は当然のこととなりつつある。
とりわけ300を超えるようになればこの年代にあっては、さすがにヴァールのレベル500オーバーは規格外にしても相当なトップ層と言えた。
やはり一国の一地方でのこととは言え、英雄と呼ぶにふさわしいだけの実力者らしい武虎。
続いて武虎の付き人という、鮫島が名乗りをあげた。
「次は僕が……鮫島弥助、歳は16です。レベルは121、戦闘スタイルはレイピアを使っての剣術、および《風魔法》を使った遠距離攻撃です。その、さきほどは失礼しました。そちらの、早瀬も悪かった」
「い、いやいや! こちらこそとんだ失礼をしちゃって! 別に悪気があったわけじゃなくて、つい本気の本音でそちらのえーっと、権藤さんに魅入られてしまったんですよこれが! うはは!」
「はう……そ、そんな。過分な言葉です、早瀬さん……」
「…………っ、と、とにかくよろしくっ」
武虎に叱咤されたのが堪えたようで、ひと通りの自己紹介をしてからぶっきらぼうなりに光太郎へと詫びる。
彼としては正直なところ、頭を下げたくないのはやはり本音としてあったが……師匠のようにも慕う武虎の意向だ、仕方がないという渋々な謝罪だ。
そんな鮫島の複雑な胸中など露知らず、光太郎は慌てて取りなしつつやはり華の可憐さを讃える。混じり気のない本気の純真からくる言葉は、聞いている妹尾や相田、武虎の耳にもどこか小気味良く聞こえる爽やかな響きがある。
武虎の横に座るその可憐な娘、権藤華の頬がやはり赤く染まる。いかにも箱入り娘らしい彼女は、同年代の少年からこんなにも熱烈な言葉を正面切って向けられるのは初めての経験だ。
向けられる好意に、どうにも初対面ながら惹かれるものを覚えつつ──彼女、華もまた鮫島に続けて自身を紹介すべく言葉を発した。
「お、遅ればせながらはじめまして! こちらにいる武虎の娘、権藤華と申します。歳は14、レベルは103。戦闘スタイルは、その……《サクリファイス》でモンスターを誘き寄せたところを、《土魔導》で一網打尽にする感じです! よろしくお願いいたします!」
「《サクリファイス》……? ソフィアさん、ご存知ですか?」
「ふむ。発動後数分ほど、周囲のモンスターを自身に引き寄せるスキルだ。かなり珍しいスキルと言えるだろう。有効に使えば戦況を一変させ得るが、無軌道に使えば逆に自らを窮地に追いやる効果だな」
「…………む? 統括理事、少し雰囲気が……?」
華の紹介、なかでも《サクリファイス》なるスキルに反応した妹尾がヴァールに問いかける。モンスター学の権威たる彼でさえ知らないスキルなのだが、彼女はあっさりと答えてみせた。
──素の自分、ヴァール自身の言動でだ。それまでのソフィアらしい淑やかな言動と雰囲気、顔つきから一変した姿に武虎が眉をピクリと動かした。華も、隣の鮫島も困惑した様子でいる。
ここに来てあえてこうした元の言動に戻したのはなんのことはなく、武虎達が実力的に申し分なくこれから同行する仲間として頼れる相手だと判断したからだ。
相田に対しても同様の理由からヴァールは素の自分を晒している。唯一、先ほど光太郎を罵倒した鮫島だけは多少気にはなったが、直後に武虎から叱られたことで反省したものと見た形だ。
武虎に向け、彼女もまた改めて応える。
「改めてこちらも伝えておきたいことがある──ワタシはヴァール。ソフィアであってソフィアではない、WSO統括理事の裏人格の存在だ」
「…………裏、人格?」
「一つの身体に二つの人格。二重人格というやつだ。主に政治面では諸君らがよく知るソフィアが受け持ち、こうした荒事に関しては裏側であるワタシが受け持っている。今後それなりに長い付き合いになる以上、この時点で教えておくべきと判断した。よろしく頼む」
「な……にが? 一人の人間に、複数の人格だって? そんなことが……」
統括理事からのまさかのカミングアウト。およそ通常では考えもつかない二重人格という存在を示唆され、鮫島や華はおろか武虎さえも驚き、目を見開いている。
"永遠の探査者少女"ソフィア・チェーホワ。数多くの謎を抱える彼女の神秘的秘密の一つを、知る者がここに三人増えたのであった。