大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

220 / 221
ヴァール達の名乗り

 ソフィア・チェーホワの秘密。その一つ、二重人格という真実を聞かされて驚く武虎達ながら──

 ひとまず三人の紹介が終わった。次はそのソフィア、否ヴァール達が自身の探査者としての自己紹介を行う番だった。

 

「簡潔に話させてもらおう──ソフィア・チェーホワの裏側の人格、ヴァールだ。レベルは524、戦闘スタイルはスキル《鎖法》による盤面制圧および単独撃破、複数拘束だ。よろしく頼む」

「《鎖法》。チェーホワ統括理事は鎖を振るう謎のスキルを用いるというのは噂されていたが、そのスキルのことだったか」

「レベル500台って、そんな。武虎様以上のレベルだなんて」

「鮫島少年、そこは引っかかるところでないはずだ。しょせん地元で粋がっているだけの私より、世界規模で大ダンジョン時代のおこりから奮闘してきている統括理事のほうがはるかに上回っているのは当然だろう」

 

 まずはヴァールから自己申告がなされる。レベルはまさに圧巻の500台、間違いなく1960年現時点における最高最強の探査者と言える。

 加えて一点物と言われる超レアスキル《鎖法》の存在も武虎の気を引いた。かねてより統括理事が鎖を使う、というのは世界的に噂されていたものの、いざ本人の口から聞かされたのだから感嘆するほかない。

 

 鮫島や華も、はたまた富山からの新参である相田でさえも改めて驚くなか……次いで語るのは、そのヴァールの戦友であり弟子と言える、妹尾万三郎だった。

 

「次は私が。妹尾万三郎、レベル300、歳は41。戦闘スタイルはナックルダスターを装着してのボクシングスタイルです、よろしく」

「妹尾万三郎教授……! モンスター学の権威としても名高い方とお会いできて、こ、光栄です! あの、教授の著書"モンスター学基礎講座"、"エンドレス伝説"、"ユニークネーミングモンスターのススメ"、どれも読ませていただいてます!」

「姫様!?」

「おや、それはなんともありがたいやら面映ゆいやら。浅学ながらモンスターに心魅せられた男の、心ばかりの書籍に目を通していただいているとは光栄の至りだとも」

 

 妹尾も探査者としての実力ではヴァールに次ぐ、つまり武虎にも近しい立ち位置だ。レベルもついに300の大台に乗り、肉体的な全盛期は過ぎ去ったが未だ戦闘者としては一流の水準を誇ると言えるだろう。

 しかしてそんな妹尾に対して、前のめりに食いついたのがまさかの武虎の娘、華だ。どうやら妹尾が専門分野としているモンスター学について興味を持っているらしく、あまつさえ彼の著作のいくつかを挙げるほどの関心ぶりを示している。

 

 無論、教授としての側面と探査者としての側面は分けている妹尾だが……こうも反応されては嬉しくないはずもない。どこか照れたように鼻を掻いて笑う彼に続いて、今度は相田が名乗りをあげた。

 

「んじゃあ、年功序列的に次は私だわさね。相田ひとみ、レベル120。歳は29、戦闘スタイルはナイフ持って《気配遮断》で相手の死角に回り込んでぶっ刺す暗殺者スタイルなのよさ。サブスタイルで空手も修めてるから真正面からの殴り合いもある程度ならいけます。あ、ちなみに目標兼好敵手は京都の御堂将太さんなのでよろしくなのよさ!」

「ほう、御堂将太か。関西どころか日本の探査者界隈にあってもかなりの影響力を誇る男だな。探査者としての実力も高いがそれ以上に、彼が投資した事業はそのことごとくが大成功を収めている。それゆえ実業家、投資家としても高名と聞くが」

「加えて美人で幼馴染の嫁さんと仲睦まじく過ごしてるなんて、何もかもに恵まれた人物だわさ! 正直妬ましいし嫉ましい! ああ、私も男前で金持ちで強くて頼れる幼馴染の男を持って家庭を築きたいなあ!! どっかにそんな都合のいい幼馴染落ちてないかしら!」

「むう……実現した暁には、幼馴染の定義を根底から覆すだろう願望だな。むう」

 

 名乗りというより、途中から御堂将太への嫉妬と羨望が前面に出た雑談めいている。毎度のことなので慣れているヴァール、妹尾、光太郎はともかく武虎、華、鮫島は呆気にとられるばかりだ。

 特に武虎は律儀なもので、懸命に話を合わせようとするもあまりに意味不明な願望を前に、いよいよ言葉を失ってしまっているほどだ。

 

 さすがにこれは気の毒だと、半ば気遣うように最後に残った一人、光太郎が手を挙げる。身の丈ほどの槍も当然傍らに置いての自己紹介。

 ある意味ではこの場で一番の注目度だろう、新進気鋭の若手探査者。そして出会い頭に権藤の姫君を口説いてみせた少年の、初名乗りである。

 

「え、えーと最後は僕ですね! はじめまして先ほどは失礼しました、早瀬光太郎15歳です! レベルは84、戦闘スタイルはこれこのとおりの槍使い! ソフィアさん、ヴァールさん、妹尾教授の下で遮二無二特訓中です、よろしくお願お願いしまーす! うはははははーっ!!」

「……ふん。なんだ、まだレベル100にもいってないじゃないか」

「余談だがこちらの早瀬は我々の下で修行を始めてわずか4ヶ月のうちに、レベルを40以上も上昇させている努力家だ。体格からも分かるとおり基礎的な身体能力も高いため、舐めてかかると多少のレベル差などあっさりひっくり返されるぞ」

「っ…………!?」

 

 相変わらずの勢いと熱意。そして豪胆さと爽やかさで高らかに笑ってみせる光太郎に、武虎と華の親子の口元が緩む。

 反面、そのレベルが唯一100未満であることに鮫島が冷笑すれば、それを聞き逃さなかったヴァールによるフォローが入る。

 

 彼女としては数ヶ月もの間、この地方の探査者達へのテストケースも兼ねて鍛えている光太郎を軽んじられては困るのだ。その上、先ほどの一件で鮫島弥助という少年が無闇に光太郎へ敵意を燃やしていることも把握している。

 だからこそのこれは、ある種の忠告であり釘刺しでもあった。言われて言葉に詰まる鮫島に、光太郎は変わらず朗らかな笑みを向けていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。