鮫島の意見は一蹴され、引き続きヴァールと武虎が主体となってグループ分けがなされていく。
とはいえ両者の見解はおおむね一致しているものだ。それぞれに思うところを述べ、どちらのグループに誰を入れるかを話し合う。
「教育グループのほうはワタシ、妹尾は確定として残り一人、二人はほしい……そして現地探査者の教育という性質上、そちらの華ないし鮫島弥助のどちらかはこちらにつけたい」
「ならば鮫島少年を同行させてほしい。今しがたの言動で私もいい加減、彼は人として成長する必要があると痛感した」
「…………武虎様!?」
「弟子に取るなど柄でもないが、熱望されたゆえこれまでは付き人扱いで方々連れ回していたが。それで身につけたのは戦闘力ばかり、精神面がまるで未熟なのだ。これを良い機会として、鼻っ柱をへし折ってやってほしい」
「了解した。鮫島弥助もいろいろと指導すべき点は多そうだからな、こちらでも面倒は見ておこう」
さっそく、先ほどから問題発言ばかり繰り返す鮫島が本人の希望と裏腹にヴァールの元へ回された。武虎なりに若き付き人への期待と、それとは裏腹にいい加減少しは大人になれという苛立ち交じりの配置である。
武虎としては、鮫島弥助という少年の性根はそう悪くないと思っている……思っているがそれでも、武虎と華に傾倒するあまり人としての成熟がこの数年、まるでないままここに来てしまっていることはハッキリと危惧していた。
因果な立ち回りとなってはいるが、これも彼には良い機会だろう。そう思っての、ある種の気遣いなのだがそんなことは鮫島自身に伝わるわけもなく。
愕然と武虎を見る彼は、震える声で小さくつぶやいた。
「な、なら、せめて姫様は……姫様も、こちらにいるべきだ……」
「鮫島少年はそちらに預けるとして、華はこちらに欲しい。親の欲目抜きにしてもこの子の本領はモンスターとの戦闘時に発揮されるからだ」
「ふむ、分かった。であればこちらからも早瀬、相田のいずれかあるいは両名を鎮圧グループに同行させたいが」
「早瀬少年で頼む。相田がどうこう言うわけでなく、私自身が彼の実力を見てみたいのだ……統括理事自ら手塩にかけた教え子。この中部地方の探査者達の、新たな範たるべしと鍛えられている若き獅子の姿には、かねてより興味と好奇心がある」
「えっ!! ……ぼ、僕が権藤さん父娘とご一緒!?」
対してまさかの人選に、驚きの声をあげたのが光太郎だ。武虎とともにモンスター退治というのは腕が鳴るし光栄の極みだが、娘の華とも一緒というのは正直なところ、意外な想いがある。
鮫島ともどもヴァールの下で、現地探査者達と一緒に指導を受けるものと思っていたのだ。そこは鮫島の発言や意志がどうの以前に、そちらのほうが良いのだろうと考えていたがゆえに。
しかし武虎たって希望で華と光太郎が鎮圧グループに集まるという。翻れば教育グループのほうはヴァール、妹尾、相田そして鮫島の四人ということになる──ここで一旦、光太郎がヴァールの下を離れるのだ。
この数ヶ月間、ひたすらに自身を鍛え導いてくれた恩師を見る。やはり常と変わらぬ無表情の彼女は、一つうなずき武虎へと答えていた。
「良いだろう。早瀬もこの頃は、WSOの想定する標準的な探査者としての思考や実力をつけてきている。もちろんまだまだ伸びる余地はあるが、このあたりで一度ワタシ達の下を離れて活動してみるのもアリだな」
「助かる。華、お前のほうはこれで問題ないか? あれば相田に交代してもらうことも視野に入れるが」
「い、いえ! あの、その。は、早瀬さんが良いです。あの、すごく良い人だし、さっきも私を褒めたり、助けたりしてくれて……う、嬉しかったです、から!」
「は、華さん……!」
「姫様!?」
父に話を向けられた、娘の華からも前向きな意見が出てきたことで話は完全にまとまったと言える。権藤父娘と光太郎という、ある意味異色の組み合わせが成立したのだ。
愕然と呼ぶ、鮫島には少し悪い気がした華だったが……さりとて光太郎を見て、胸に宿る温かな感情を思えばこれで良かったと率直に思える。
引っ込み思案なりに勇気を出してよかったと、紅潮する頬を自覚しつつも彼女はホッと一息吐いた。
──先ほどの初対面で、いきなり可憐と言われたことはたしかに驚いた。驚いたのと同時に胸が高鳴った。
初めて見るタイプの少年である光太郎に、感情を強く揺さぶられたのだ。
権藤財閥の御令嬢として生まれ育った華は、探査者になる前はもちろんのことなった後でも蝶よ花よと愛でられ育てられてきた。
それゆえ出会う人間は揃って上流階級の者達ばかり。探査活動でさえ武虎の下、他の探査者と関わる機会が極端に少ない生活を送ってきたのである。
そこに現れた光太郎という男は、そんな華にとって衝撃的だ。鮫島のように洗練された姿や所作、顔立ちではないものの野生的な、それでいて温かみのある立ち居振る舞いをしている。
何よりその言葉、声、姿に宿る力強さ! 彼女の知る誰よりも男らしい父、武虎にも並ぶのではないかと思ってしまうほどの覇気ある姿は、鮫島はじめ貴族然とした上流階級の子息達には決してない美しい生命力の発露だ。
もっとこの人を知りたい。たとえそれで幻滅することがあっても、それでももっと学びたい。そんな想いでまっすぐに、勇気を出して光太郎を見る。
力強い彼が、その眼差しに思わず頬を染める姿さえ愛らしいと感じつつも……華もまた、頬を染めながら光太郎に微笑みかけていた。