探査者の指導教育グループにヴァール、妹尾、相田、鮫島。
スタンピード鎮圧に武虎、光太郎、華。
これをもって合流したての二パーティは分割され、それぞれの目的に向けて邁進していくこととなる。形としては光太郎と鮫島をトレードした形になるが、さらにもう一人追加人員があることをもヴァールは武虎に向け、説明していた。
「鎮圧グループのほうにはあと一人、先ほども少し触れたが中国の探査者シェン・ラウエンが来日次第合流して追加される。3年前の第二次モンスターハザードの際に北欧でともに戦ってくれた折り紙付きの実力者だ、戦力として大いに期待してくれて良い」
「助かる。ついでという話ではないがそのラウエン氏にはぜひ、娘の華の指導もお願いしたいところだ……私はどうも、指導者や教育者としてはあまりに不向きだからな」
「ああ、そのへんちょっと聞きたいんですよ武虎さん。まあ、いわゆるこの地方における権藤武虎信仰についてなのですが」
「む……」
中国からの追加戦力シェン・ラウエン。彼も来日した暁には鎮圧グループに加わることになると告げれば、武虎はむっつりした厳しい顔にも満足げな色を浮かべ、ボソリと小さくつぶやいた。
指導者や教育者として不向き。己を指してそう自嘲する彼に周囲が連想するのは、否応なしにこの地方の探査者達の姿だ。
誰あろう目の前の、権藤武虎こそは地元の英雄として人々の憧憬を集める一廉の人物だ。しかし探査者達はそれが行きすぎるあまり、外部からの改善なしにはスタンピードへの対応さえ心許ない有様となってしまっている。
そのことについて妹尾が軽く触れれば、短く武虎は呻いた。あからさまに困ったように眉を寄せ、弱々しく、どこか言いわけめいたことを口にし始めたのだ。
「言いたいことは分かる、妹尾教授……統括理事もだ。中部地方の探査者達の現状は、父平之助からも聞いているか知らんが私にとっても極めて予想外だった。まさかここまでとは」
「そのことについて別段責めるつもりはない。結局君に憧れたのは各々の判断であり、その結果として他の地域に比べてもあまりに質が低い探査者層となったのもその延長でしかない。地元の英雄として名を馳せるだけの功績を示しただけの君に、責任はないとも」
「そう言ってもらえるとありがたい。だが、だからこそお二人およびWSOには期待している。この地の探査者達を、より良い方向に改善していってくれることをな」
「なるほど。あなた自身としてはそう考えているのですね。自身への憧れが行き過ぎている者達には、ぜひともそれを改めてほしいと」
「無論だ。私自身、何度かどうにかできないかと行動や言行に起こしたことはあるものの……ご覧のとおりの無骨者、そもそも彼らが見習ってしまう程度には単独行動を旨としてきたため、なかなか効果が出ず終いで諦めていたところはある」
忸怩たる、と言わんばかりに言葉を重ねる武虎。彼自身、地元探査者達に影響を及ぼしてしまう程度には単独での戦闘を好む無頼漢なのだが……
とはいえそれは己個人のスタンスでしかないとも考えており、それゆえ後輩達がすっかりそれを見習うようになったことには正直なところ、苦い想いを抱えていたようだ。
そうした吐露を受け、ヴァールも妹尾も特に武虎を追及することはない。見るからに口下手で不器用そうなこの男に、大多数かつ不特定の"地元の英雄に憧れる若者達"を説き伏せるなどというのは、はっきり言えば期待するだけ無理な話だろう。
だからこそのWSO、だからこその今回の指導グループなのだ。経緯は分かったとうなずき、ヴァールが締めくくる。
「それでは今後、我々は今言った二手に分かれて探査者の教育とスタンピードの鎮圧、捜査に入る。リーダーはそれぞれワタシと武虎が担い、折に触れてミーティングを行うなかで全体の情報共有および報告連絡相談を密とする……妹尾、相田、鮫島。よろしく頼むぞ」
「ええ、お任せください」
「頑張りますわさ!」
「…………よろしく、願います」
今後の方針の明示。そして指導グループのリーダーとしてメンバーを確認する。妹尾と相田は特に異論もなさそうで元気に応じているが、やはり鮫島が問題児のようだと彼女は内心で評価した。
出会い頭のトラブル。光太郎の言動にも反省すべきところがあったにせよ、しかし鮫島の物言いは差別的かつ蔑視が過ぎた。あの調子では他の者に対してもどう出るか知れたものでなく、そうなるとさらなるトラブルを呼び込みかねない危険性をも孕んでいる。
現地探査者への教育という括りには、当然ながら相田と鮫島も含まれている。
であればこの機に彼のそうした気質にも何かしらの改善策を施せるよう、後で妹尾とも話し合う算段をヴァールはつけていた。
「鎮圧グループたる我々は、とにかくスタンピードが起きたら現場に急行してモンスターの掃討にあたる。現地探査者達もいるだろうから、光太郎少年。君がここまでに学んだ動きや考え方を見せていってもらいたい」
「────わ、分かりました! 不肖、早瀬光太郎! 未熟も甚だしい身の上ですが粉骨砕身、頑張らせてもらいます武虎さん!!」
「良い返事だ、期待が持てるな。華、お前も無理はしない範囲で引き続きやっていってくれ。光太郎少年から、多くのことを学ぶようにな」
「は、はい。よろしくお願いいたします、早瀬さん」
「う、うん。よろしく、あの、華さん」
一方でスタンピード鎮圧グループ、リーダーの武虎が光太郎と華に話しかける。
期待の少年と愛娘──何やら珍妙な初対面にも関わらず二人とも意識し合っている様子だがそれも良いだろう。武虎は光太郎を、立場を超えて人間として好感を持てていた。
光太郎もまた、力強い返事をしつつも華と顔を見合わせて緊張を隠せない。
憧れの英雄、権藤武虎とその娘、華。思いがけないパーティを組むことになったが、だからこそ精一杯頑張らなければならないと、彼はどこか気恥ずかしい照れを覚えながらもその心を燃え上がらせていた。