大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

224 / 230
大魂道

 1960年初頭から今現在に至るまで、中部地方で頻発するスタンピード。その勢いはまるで衰えることを知らず、もう同年10月を迎える頃になってもなお、各県で三日に一度は起きている有様だ。

 それゆえ岐阜においてもモンスターがダンジョンから這い出ているという報せはすぐに全探組に寄せられ──権藤武虎率いるWSOスタンピード鎮圧グループは出撃したのである。

 

「モンスター! ここから先は一歩たりとて通さないぞー!! うはははくらえぇ《槍術》、飛騨一閃ンッ!!」

「グォロロロロロアッ!?」

「まだまだぁ! 続けて連撃・木曽二段ンンッ!!」

「うごぎょろぱぁぁっ!!」

 

 鋭い槍の横一薙が複数体まとめてモンスターを切り裂く。続けざまのコンビネーションとして放たれた縦二連斬が、残るモンスターを引き裂きトドメとする。

 探査者、早瀬光太郎の息をつかせぬ連携技だ。半年ほどで急激に実力を伸ばしてきた彼は、ヴァール直伝の技術や精神性、および場数を踏んだことによる度胸もあって、もはやスタンピードなど慣れきった様子で果敢に責め立てていた。

 

 ここは岐阜県北部の住宅街付近。発生したと報せを受けて急行してみれば、30体ほどのモンスターが発生源と見られる山中のダンジョンから住宅地に向けて進撃しつつあるのを確認し、即座に斬り掛かった形だ。

 もちろん仲間とともにだ……光太郎も憧れている地元の英雄とその娘、二人ともそれぞれスタンピードに対して行動を起こしていたのである。

 

「《サクリファイス》! モンスターはこちらに、住宅街から離れさせます、お父様!」

 

 華のスキル《サクリファイス》。発動とともに周辺のモンスターの狙いを華自身に向けさせる一種の囮効果を持つそれを発動させて、彼女は住宅街に魔の手を伸ばさんとしていた敵の群れを一気に彼女自身に集中させた。

 淡く、白い光の波動を放つ華が光太郎の目を一瞬だが惹く。惚れ惚れするほどに美しいその姿に、しかしモンスターが一斉に襲いかかる様は血の気が引く光景だった。

 

 しかし。そこを守護者のように娘の前に立つ父がいた。

 権藤武虎──この国の中部地方における、英雄である。

 

「ああ。そして引き離したところを私が殺る──ぬううううっ!!」

「た、武虎さん!? ……なんだ、あの光は」

 

 彼は武器を持たず、徒手空拳での戦闘を常とするらしい。

 スーツ姿ながら筋骨隆々の体躯にして構えを取った男の、裂帛の呼気とともに身体そのものから力の波動が放たれるのを光太郎は見た。

 全身から立ち上る緑色。

 

 風のように煙のように武虎に纏わりつくそれは、物理的な圧力さえ伴うように光太郎には思えた。

 いや、事実伴っているのだろう。彼に構わず前進するモンスター達が、その緑風に巻き取られて身動きが取れなくなっていっているのだから。

 信じがたい現象に、光太郎は思わず叫んだ。

 

「あれは……スキル!? まさか噂に聞く魔導系とか魔法系とかってやつ!?」

「否。光太郎少年、我が技法はスキルにあらず──ふうっ! はぁぁぁぁぁっ!!」

「グゲゲゲガアアアッ!?」

「きろりろきろりろりゃあああっ!?」

 

 探査者の目から見ても不可思議な現象。何もないところに風を、しかも緑色の風を発生させて纏うなど、実際に見たことはないが噂で聞く魔法スキルあるいは魔導スキルでもなければ考えられない。

 そう思っての光太郎だが、他ならぬ武虎自身から申告があったことで混乱する。そもそもスキルではない、そんなことがあり得るのかと愕然としたのだ。

 

 その間にも緑の風を拳に纏い、武虎は力一杯に前方へと正拳突きを放つ! 瞬間、彼の拳から放射状に放たれるプラズマ!

 稲妻めいた轟音を立ててのそれがモンスターの群れを縦横無尽に突き刺し、襲っていく……オーケストラのように響く断末魔の叫び。破壊力さえ伴っているのだ、彼の風は。

 

 スキルでないのにこのようなことが、起きるはずがない。

 さすがに常識的に考えて、スキル以外にこんな力はありえないと光太郎は愕然とした。

 

 彼自身も近くのモンスターを槍で突き刺し光へ還しつつ、未だ《サクリファイス》を使用中の華の護衛に回る。

 近くまで来た彼に胸の鼓動を高鳴らせながらも、華は父の力を説明し始めた。

 

「早瀬さん、父の言うとおりです。あの人は攻撃的なスキルを持っていません、あの力はスキルじゃないんです」

「そ、そんな! そんなことがあり得るんですか!?」

「少なくとも父に限っては。本人も詳しい正体を分かっていないみたいなんですけど、その……まるで魂の奥底から力を引き出しているような感覚だそうで、その力を父はこう名付けました」

 

 ────それはスキルではない、しかしスキルと同質のエネルギー。各々が持つ魂から力を引き出して、特殊な事象を様々に巻き起こすスーパーパワー。

 かつて第二次モンスターハザードの首謀者、オーヴァ・ビヨンドが用いていた未来予知能力とも同類の……超能力。

 

 権藤武虎は生まれながらにしてその力を備えていた。ステータスに目覚め探査者として活動する前から、彼自身の特性として超能力による戦闘法を確立していたのだ。

 そして探査者としてレベルによる身体強化をも経た現在。彼はまさしく英雄と呼ぶにふさわしいだけの実力を、ヴァールやエリスにさえ匹敵するほどの戦闘力を、独力で身につけていたのである。

 

「────"大魂道"。それすなわち大いなる権藤の至り。そうとも光太郎少年、華。これこそが私、権藤武虎のみが持つ最強の力だ。能力者だからでない、この私だからこその権藤の真髄である」

「だい、ごん、どう……」

 

 その名を大魂道。大いなる権藤の魂が生み出した、権藤が行く道そのものと武虎は自認している。

 緑の風がすべてを薙ぎ払う。正拳突きにてモンスターを著しく戦かせた彼は、そしてエネルギーを纏った拳をさらに振り回して鏖殺へと至るのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。