武虎チームがスタンピード鎮圧に精を出すのと同時刻。岐阜県岐阜市内にある全探組施設においては、こちらはこちらでヴァールと妹尾が悪戦苦闘していた。
現地探査者への教育指導だ……長野、富山を経てこの県でも同様に彼らへの改善を施そうとしていたのである。
無論、実力行使の形でだ。案の定、探査者達は指導という言葉に強く反発して力を見せろと言ってきたのだ。
施設内にある模擬戦用ルームにて、実戦ではないもののそれなりに真剣味を帯びた戦いが繰り広げられていた。
「やれやれ、まったく野蛮極まりない──《拳闘術》、スネークジャブ・サウザンドヴァイパー!」
「うおおっ!? こ、この教授先生馬鹿強え!?」
「あべればっ!? ──た、ただのジャブでなんでこんな威力!?」
模擬戦用のボクシンググローブを装着した、妹尾の腕が千の蛇が如くうねり走る。彼の十八番、牽制から攻撃まで広い用途で用いるスネークジャブの対多数戦モードだ。
しなる鞭めいた拳が、数人がかりで攻め込んできた現地探査者達を打ちのめす。ジャブだけあって威力は低く、グローブによって低減されてもいるがそれでも探査者の拳。最低限相手の心をへし折るだけのダメージは期待できる。
統括理事の実力はすでに、長野と富山の探査者達を瞬殺したという噂とともに岐阜県の探査者界隈にも広く知れ渡っている。ゆえに彼らもヴァールのほうは舐めてかかってなどいないわけだが……
逆に妹尾に関しては教授という肩書が先行していることもあり、またこの地に来てから未だ模擬戦などを行っていないこともあってあからさまに低く見積もって突っかかる者達がそれなりの数いた。
そんな彼らの現状がこれだ。
強かに叩きのめされ、地に伏せる前衛を目にして後衛の探査者達が驚愕に染まった。
「こ、これが余所者の探査者の実力とでも! しかも統括理事どころか学者の片手間で探査者やってるようなやつだぞ!! い、いくらなんでもここまでの差があるものなのか!?」
「いやあ、本来ならばここまで一方的に複数人まとめて殴り倒せるほどではないよ、さすがに。ただね、君達があまりになっちゃいないからこうなってるところはある」
「な、何を!?」
「各々好き勝手に無軌道に、互いのことなど考えず遮二無二突っ込んできたらそりゃあ、狙いも獲物も選り取り見取りってものだろう? 今日日、ここまで連係も何もない探査者も珍しいよ」
肩をすくめる妹尾。彼としてはもう少し苦戦するかと思っていたが、思いのほかやりやすい連中だったことに助かりつつも、こんな連中をこれから是正していくのかという暗澹たる気持ちもあるという複雑な内心だ。
実際、本気でよく連携されていたらさしもの妹尾も苦戦しただろう。あるいは敗れかねず、後ろに控えるヴァールに助力を乞うたかもしれない。
それだけの人数差があったのだ。それが蓋を開けてみればこれだ。
連携も何もなく各人バラバラに動き、互いの動きを阻害し合って挙句喧嘩まで始める始末。
当然そうなれば注意もフットワークも散漫になり、そこを一方的に殴りかかるなど大した手間でもなかった。
弱い。個々人の戦闘力はともかく、群体としての実力があまりにも低い。
これまでの長野、富山でも同じ感想を抱いていたが、ここもそうなのかと。分かってはいたものの落胆を隠せない妹尾だ。
「もったいない、実にもったいないんだよ君達。うまくやればこんなロートルなんて一方的に叩き伏せられるものを、みんなして自分のことしか考えていないからこんなザマになる」
「くっ!? か、返す言葉もない!」
「あ……あんたの言うとおりにやれば、俺達はあんたに勝てるってのかよ……!?」
「もちろん。統括理事ほどの人になると数の暴力などさしたるものでないけれど、私くらいならばそれはそのまま絶対的有利となるからね。そろそろ理解したまえ──君らは権藤武虎にはなれない。けれどしっかりまとまれば、彼に負けない群体として人々を守れる」
「…………!!」
数に頼んで襲いかかってなお、完封負けする屈辱。荒療治ではあるがそれをもって眼の前の探査者達の、目の色が変わっていくのを妹尾は見た。
根深い権藤武虎信仰──孤高に孤独にひたすら強さを磨き一人で戦った、かの英雄のスタイルに憧れ影響を受け続けた中部地方の探査者達の病因。それに今、ほんのわずかだがヒビが入ったのだ。
道程は長いだろう。長野や富山においても未だ、教育指導は道半ばだ。強情に以前からのやり方を固持するものも少なくない。
それでも、こうして示していくなかで理解してくれる者もたしかにいるのだ。であれば、この地だけでなくこの日本国の今後のことも考えて決して投げ出すわけにはいかない。
「さて、ここからか……少しずつでもやりましょうかね。ヴァールさんもヴァールさんで、問題児の相手をしているみたいだしね」
小さくつぶやき、少し離れた区画で並行して模擬戦をしているヴァールを見る。
あちらはあちらで難儀な話だ……富山から連れてきた相田ひとみ、および権藤武虎の付き人である鮫島弥助の二人を相手取って、同じく指導としての己が実力を示しているのだから。