大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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来日!シェン・ラウエン

 1960年も年の暮れ、12月初旬。

 いよいよ年越しも近づいてきた頃合いの長野市全探組施設に、一人の男が佇んでいた。

 

 大陸風の民族衣装に身を包んだ、中国籍の男だ。年の頃27歳、肉体的にも精神的にもいよいよ成熟してきた、武術家である。

 筋骨隆々の肉体に、無骨ながら柔らかみを帯びた優しげな眼差しの瞳……質実剛健と裏腹の流水が如き寛容さも持ち合わせ始めている彼の名は、ラウエン。

 

 シェン・ラウエン。

 3年前には第二次モンスターハザードにて英雄的活躍を見せ、今では故郷中国の山奥にあるシェン一族の里において二代目里長を務めている男が、日本を訪れていた。

 もちろん今現在起きている事件、第三次モンスターハザードに参戦するためである。

 

「────シェン・ラウエン。よく来てくれたな、歓迎するぞ」

「おお! これはソフィア様、いえヴァール様ですね今は。お久しぶりです、ご無沙汰しております」

 

 そんな彼の下に現れたのはWSO統括理事ソフィア・チェーホワ。いや彼女の裏人格ヴァール。傍らには仲間の妹尾万三郎や現地探査者の早瀬光太郎も付き添わせている。

 かねてより待ちかねていた頼れる仲間の来日を、心からありがたく思いつつの出迎えであった。

 

 特に光太郎からしてみれば、以前から軽く話を聞かされていた御仁とついに出会った形になる。

 3年前の英雄。何やら特徴的な武術を使うそうで、体術面においては右に出る者がいないほどに極まっているとか。

 ぜひとも身体の動かし方について教えてほしいなあと、この頃にはすっかり人に教えを請い、学ぶことを喜びとしつつある光太郎だ。

 

「妹尾教授もご無沙汰しております! ここからはこのシェン・ラウエンも微力ながらお手伝いさせていただきましょうッ!!」

「やあ、相変わらず元気で良いねラウエンくん。君がいれば百人力だよ、よろしく頼むよ……そして」

「そして……話はソフィア様からも聞いています。早瀬光太郎くん、だったかな」

「は、はいっ!!」

 

 そんな少年に、妹尾との挨拶も終えたラウエンが目を向ける。武虎よりははるかに若く、しかし武虎にも似た覇気ある視線に光太郎の身が強張る。

 しかし負けていられない、少年はこういう時に気圧されているばかりではいけないことをすでに知っていた。同じく最近芽生え始めた意志、己の魂から生ずる意気を込めた面持ちで相対する。

 

 しばらくの顔合わせ。お互い、具に相手を観察する。

 少ししてラウエンがふ、と表情を緩めた。シェンの武人としての顔つきから、人を導くシェンの里長らしい穏やかさに切り替えたのだ。

 その立場に就いて数年。3年前にはなかった柔軟性の発露である。

 

「……良い面構えをしている。未熟なりにどこまでもまっすぐ道を駆け抜けんとする、日輪のごとく眩い眼差しだ」

「あ、ありがとうございます!! 早瀬光太郎です! ソフィアさん、ヴァールさん、妹尾教授に探査者としての本当の強さを教えてもらっています!! よろしくお願いします!」

「言葉に籠る気迫も良い。さすがにソフィア様達に目をかけられているだけはある……シェン・ラウエンだ。見ての通りの無骨者だが、きっと私も何かしら君やこの地の探査者達に伝えられること、力になれることがあると思う。よろしく頼むよ」

「はいっ!! 勉強させてもらいます、ラウエンさんっ!!」

 

 若く、向こう見ずですらある情熱の面持ち。かつて少年時代には己も持ち合わせていたのと同じものを放つ光太郎に、ラウエンは目を細めた。

 そうだ、かつては自分もその熱に浮かされ、その熱のままに師たる初代里長シェン・カーンに指導を請うていた。学んでいた。

 

 それが今ではこちらが教える側になったのだ。時間の流れとはまったくもって数奇なものだと、数年前に病に侵されこの世を去った先代里長を想わずにはいられない。

 シェンに限らず、人の営みとはこれすなわち積み重ねか……内心にてどこか納得して、彼はヴァールに尋ねた。

 

「素晴らしい若者ですね……それでは私は彼や地元の探査者達に指導を? スタンピードへの対処とも聞いていますが」

「ああ、すまんが両方を任せたい。元はこの地の英雄、権藤武虎やその娘、華および早瀬と組んでスタンピード鎮圧に専念してほしかったのだが、状況が少し変わってな」

「ふむ?」

「……WSO側の急な用事ができてしまい、ワタシがしばし君達と別行動を取らざるを得なくなった。そう長くはかけないつもりだがその間だけ、早瀬や地元探査者達の指導を妹尾と君に任せたいのだ」

 

 ラウエンのこの地での役割について、当初予定していたものと異なる説明をする。ヴァールとしても申しわけない気持ちはあったものの、どうしてもこうせざるを得ない事情があるのだ。

 ある意味ではラウエンや妹尾にも関係しているだろう。3年前に行方を眩ませたかつての仲間、エリス・モリガナがこの近辺にいるという情報を受けての別行動だ。

 

 陰ながら、人知れずスタンピードを鎮圧しているらしい、そしておそらくはWSOも未だ知り得ていない何か情報を掴んでいるかもしれないエリスを……

 その身柄、安全の確保さえ視野に入れつつ、どうにか探し当てて事情を聞き出したい、と。そのためにヴァールはあえて、単独での行動に踏み切ろうとしていたのである。

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