モンスター相手に並び立つ大暴れぶりのラウエンと武虎だが、彼らに続けて戦う光太郎も素晴らしい成長具合を発揮していた。
ヴァールの下で修行を始めてもう半年ほど。あと一ヶ月もすれば1961年を迎えようという今の頃合いで、彼はさらに実力を伸ばしていたのだ。
「うおおおおおっ!! 《槍術》、飛騨一閃! 連撃・木曽二段ッ!!」
「────!」
「ぐぇぴぇーっ!!」
裂帛の槍の一薙。続けて放つ斬撃二撃。すっかり馴染んだ光太郎の十八番の槍技だが、その冴えには磨きがかかり一撃ごとにモンスターがまとめて薙ぎ払われている。
ヴァール仕込みの技術と戦闘時の思考法が、持ち前のフィジカルとメンタルとに追いつき、いよいよ真価を発揮し始めていたのだ。
当然、当初最大の問題点であった連携の拙さも克服されている。彼は先ほどから、ラウエンと武虎の討ち漏らしを丁寧に倒し尽くしていた。
これが存外、前で暴れる2人にとっても心地良い動きなのだ……後顧の憂いなく倒せるというのは、非常にやりやすいものである。
しかも並行して光太郎は、後方に控えてスキルを使う華をも守っていた。
《サクリファイス》。発動すれば周囲のモンスターをまとめて惹きつけるというターゲット集中効果により、彼女に迫るモンスターを一網打尽にしているのだ。
すっかり馴染んだ、光太郎と華の基本戦法であった。
「華!! 危ないと思ったらすぐに下がって、君にはモンスターの毛筋一本すら近づけさせないけどねっ!!」
「大丈夫よ、光太郎さん! あなたが前にいてくれるなら、私はどこまでも安心して《サクリファイス》を使えます!」
「────うははははははっ!! だったら僕も、華が後ろにいてくれるから覚悟して戦えるんだ! 君を護るためなら、どこまでも力が湧いてくるんだーッ!!」
組み始めて早数ヶ月、光太郎と華はすっかり互いを名で呼び合い、心通じ合う名コンビともなっている。
その親しみぶりと来たら今も各地で活動中の知り合い達や現地探査者達が揃って目を丸くするほどで、とりわけ仲間の相田ひとみや鮫島弥助などは、何やらひどく悔しげにしながらもヴァールや妹尾の下で修行に明け暮れている始末だ。
何より華の父、武虎が意外にもこうした二人を強く祝福していた。折に触れて光太郎と交流し、華の付き添いなどを頼み、戦闘時にあってこの通り暴れ倒す自身の後ろにて二人、息の合った動きで討ち漏らしを仕留めてもらっているのである。
そんな彼は今も後方、光太郎と華をちらりと見て薄く笑った。
「…………ふ。やはり光太郎少年は華とよく馴染んでくれているか。彼ほどの男に釣り合う我が娘を、今はただ誇るべきだな」
「権藤武虎! あの少年、早瀬光太郎くんをずいぶん買っているのだな。たしかに実力はたしかなもので、しかもまだまだ秘めたる大器を感じはするが!」
「ああ、ラウエン。彼はやはり立派だ、我が娘があのようにまで懐くのも無理からぬことだ。好感の持てる未熟というのは、ある程度年のいった中年には必要以上に眩しく映るのもあろうがな」
モンスターを蹴散らすさなか、背中合わせに雄々しく立つラウエンに話しかけられる。精悍な顔つき、まなざしにはたしかに興味と好奇心がある。武虎ほどの男が、未だ青二才の光太郎をなぜにそこまで買うのかと聞きたげな様子だ。
苦笑いを軽く浮かべる。自分でもなぜそこまであの少年を評価しているのか、なんとも不思議だったからだ。
なるほど腕は良い。成長速度からも将来性はあるし、時には何か得体の知れない力を彼から感じることがある。それこそ自身の大魂道にも通じるようなものを、光太郎からは感じ取れるのだ。
そして何より性格も好ましいものがあり、かつ華も彼を明らかに好いている。早晩、想い通じあう仲になるだろうというのは、武虎ばかりか周囲誰もが予想するところだ。
だがそれだけではないのだ。
胸に宿す大きな期待を、彼は少しだけラウエンに打ち明けた。
「……早瀬光太郎という男は、きっと今でなくとも将来、大人物になる。そんな匂いがする」
「ほう?」
「一代にて我が権藤財閥を築きし風雲児。我が父、権藤平之助。敬愛する親父殿の、若く最盛期だった頃の姿と同じ匂いがしているんだよ、ラウエン……いきなりのことでよく分かるまいがな。時々あの少年から、たしかに王者の覇気を感じ取れるのだ」
目を細めて想う、昔日。今となっては見る影もない父親だが、かつて武虎が幼い頃にはたしかに、権藤平之助は日本国における英傑だった。
一代身を立て財閥を築き上げる。政界、経済界に大きく寄与し、強烈な人脈を作り勢力を広げた。そのこともあり今ではさながらフィクサー、日本を牛耳る大経済人だ。
そんな父の若い頃、武虎が見たあの雰囲気に光太郎は酷似していた。見る者すべてを巻き込んで大きく渦巻き光を放つ竜巻、そんな勢いのある爽快さと豪快さ。
まるで日輪のようだった父の覇気。それと同じものを、あの少年に見て取れるのだ。
…………翻っては今の、好々爺の仮面とその下の腐敗した老爺を思い浮かべつつも。武虎は続けて語った。
周囲のモンスターはもう、すべて光となっている。
「光太郎少年の纏う気風は、たしかにあの頃の、私が憧れ追いつきたいと切望したあの背中とよく似ているのだよ。それだけでも私は彼に期待できる。彼ならばと、そう信じられる」
「ふむ……偉大なのだな、あなたの父親は。私も直接の父ではないが血の繋がりがある初代里長、シェン・カーンが同じような憧れだ。いつか私も、始祖カーンのような男に出会える日が来ると良いのだがな」
強く光太郎を信頼する言葉に、どこか羨望を覚えるラウエン。
彼とて初代里長を信奉しているのだ、もう今は亡き偉大なる始祖と同じ空気を纏う者が現れたならば、あるいは彼とて武虎のようにその者に相当な期待を寄せるかもしれない。
見れば光太郎と華もそろそろ、モンスターを討伐しきる頃合いだ。
日増しに強くなっていく少年の姿を眺めながら、武虎とラウエンは満足げにうなずいていた。