大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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見えてきた探査者達の改善

 一方でその頃、岐阜市内の全探組施設は模擬戦施設にて。

 妹尾万三郎は相田ひとみ、鮫島弥助をはじめとする現地探査者達に対してのレクチャーを引き続き行っていた。

 

 ひとしきり、模擬戦を終えてからのことだ……探査者達を二つに分けての試合形式。

 指導するようになって数ヶ月が経つ今、妹尾の目から見てもそれなりに彼らの改善が見えてきていたのである。

 

「うん、かなり良い感じだね。みんな連携を意識して動けていたし、周囲もきちんとよく見れていた。教え始めた頃とはまるで雲泥の差だよ」

「本当ですか、教授!」

「や、やったぜ! いやあ、最近明らかにダンジョン探査が捗るようになってたもんなあ、俺ら!」

「パーティ組んだりもして、集団で動くようにもなったものね! いやーすごいわ、私ら!」

 

 掛け値ない褒め言葉に浮かれ喜ぶ探査者達。この場にいる何十人か、あるいはいないが影響を受けているそれ以上の探査者達の誰もが、最近になって大きな変化を受け入れてきている。

 WSOによる指導。連携やコンビネーションの重要性と周囲との調和、協調……孤軍の英雄、権藤武虎への信仰のあまり失われていたそれを教え込んだことで、これまで酌むことのなかったパーティを組んでのダンジョン探査やスタンピード対応などを行い始めたのだ。

 

 そうなると当然、探査の効率も上がる。モンスターの撃破効率も高まる。そして何よりスタンピード鎮圧の速度も速まる。

 妹尾にとっても意外なことだったが、彼ら中部地方の探査者達は一度味を占めると従順なのだ。ヴァールともども力を示したことで二人は彼らから認められ、大人しく言うことを聞かせられるフェーズへと至っていた。

 

 すなわち、いよいよ中部地方の探査者達がWSOの指導下に入り、ほかの一般的な探査者のスタイルに改善しているのだ。

 これは喜ばしいながらも反面、やはり釈然としない呆れる気持ちがあるのを妹尾は自覚している。

 指導を終えてからの休憩。そこで彼は、ここ数ヶ月特に指導しているパーティメンバー、相田ひとみと鮫島弥助を相手に苦笑いとともにこぼしていた。

 

「長野と富山も言わずもがなだし、岐阜以外にも石川、福井、新潟、愛知などの探査者もずいぶん大人になったと聞いているけれど……なんというか分かりやすく実力主義だね、改めて。強い者に従うというのでは、あまりよくない側面もあるんだよなあ」

「あ、あはは……まあまあ教授、この際それは言いっこなしですわさ! 何しろWSO以上の強者はそうそういないし、となると結局ここの探査者がWSOに従うことになったってのは変わりないんだわさ! ね、鮫島の坊っちゃん!」

「僕は従ってませんが。たしかに統括理事や教授の仰ることも一理あるとは認めますが、それでもやはり武虎様の姿こそが至高にして究極の探査者の姿勢です」

 

 相田はもちろんのこと、鮫島もそれなりにWSOの言うことを聞いて精進している。しているのだが、やはり少年心に憧れの英雄を差し置くことに反発心は根強いようで、どこか不貞腐れたように唇を尖らせている。

 彼の場合、光太郎への敵愾心もあるだろう……権藤華を巡っての恋の鞘当て。これまでも幾度となく彼女を巡って光太郎と彼は模擬戦で衝突し、一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

 とはいえ妹尾が見るに、そのなかで鮫島が少しずつだがたしかに光太郎と交流を重ねているようにも思える。

 このあたり、光太郎のほうがどうも大人というか大器だということだろう。あからさまに敵意を抱いている少年さえ受け止め、理解しその上で自分の意志を貫こうとしているのだから。

 肩をすくめて少年へと言う。

 

「それはそれで一つの意見だ、好きにすればいいけどね……とはいえ結果としてスタンピード鎮圧が迅速になってきているのも事実だ。そこは認めるべきだね」

「むむむ……」

「あんたも大概頑固だわさね、坊っちゃん。ところで教授、ヴァールさんはいつ戻ってくるつもりなんです? もう一週間ほど姿を見ていませんけども」

「うん? ああ、まあもう少しかかるだろうね。統括理事としての業務につき仔細は私も知らないのだけど、あの立場ともなれば毎日ものすごい業務量だからね、本来」

 

 複雑な少年心をからかいつつ、相田はこの場にはいないもう一人の指導者について質問した。WSO統括理事ソフィア・チェーホワの裏人格、ヴァールである。

 約一週間前。シェン・ラウエンの到着と合流をもって彼女はパーティから一時離脱していた。WSO側のほうで緊急事案が発生したとのことだが、そういうこともあるだろうなと妹尾としては思うばかりだ。

 

 この地に来て半年以上、もうじき年を跨ぐほどにまで長期滞在している。そのこと自体が本来ならばあり得ないのだ、統括理事という世界を牽引する立ち位置から言えば。

 それだけ第三次モンスターハザードについて彼女が危惧しているという表れでもあるのだが、さりとて他の業務も無視できない以上、どうにも負担が重くのしかかっている節は彼にも見受けられていた。

 

「あまり、無理はしてほしくないんだけれどね。けれどそのへん、ヴァールさんばかりかソフィアさんも大概頑固というか覚悟が決まってるから……」

「今、統括理事はホテルに缶詰ですか? それほどの業務をこなしつつ、スタンピードの調査にも手を出しているんですかね。その仕事ぶりには、さすがに頭が下がります」

「まったくだ。しかし一応、今は山梨のほうに足を伸ばしているようではあるよ。同時並行的にアレコレしなきゃいけない、あの人こそは世界一忙しい御人なのかもしれないね」

 

 さしもの鮫島も、ソフィアとヴァールの仕事ぶりにだけは敬意を抱かずにはいられない。妹尾もそれに賛同しつつも今、まさに山梨県へと向かっている彼女の身を案じる。

 一体向こうで何をしているのか知れないが、どうか心身の安全を最優先にしてもらいたいものだ、と。そう願うばかりであった。

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