妹尾が岐阜にて指導を行い探査者達を鍛え上げ、光太郎がスタンピード鎮圧のなかでその実力に磨きをかけていくなか──
同じ頃の1960年12月上旬。ヴァールは山梨県は青木ヶ原樹海の入り口にて一人の少女と邂逅していた。
この3年、ずっと探し回っていた少女だ。かつて自分が見出し、鍛え、ともに戦い──追い詰められていたことに気づくことができないまま、見失ってしまった少女。
出会い頭に互いをたしかめるように一戦交えてから、彼女らは静かに言葉を交わしていた。
「──エリス。エリス・モリガナ。君がまさか、今回のモンスターハザードに馳せ参じてくれるとは思っていなかった。正直なところを言えばな」
「そう、かもですね。ですがどんなことであれ、これは最初から決めていました。たとえどこにいようと何をしていようと、モンスターハザードが起きたならば必ずそこへ向かうと。苦しむ人々を見過ごせませんし、あなたの力にもなりたいですし、ね」
エリス・モリガナ。第二次モンスターハザードの英雄、初代聖女。3年前の最終決戦の際にスキル《不老》を得てしまい歳を取らない体質となり、そのことで世を儚んで仲間達や家族の前から消息を絶ってしまったもう一人の永遠少女だ。
そんな彼女だが、再度のスタンピード多発騒動が起きている現在にあっては数ヶ月前から来日し、誰にも悟られぬままスタンピードを鎮圧し、しかもそれを引き起こしている何者か達を単独で追跡していた。
その姿が断片的に映った写真を、たまたまソフィアが入手したのがこの再会のきっかけだった。彼女は即座にエージェントをもってエリスの居所を捜索、山梨近辺を拠点に活動していることをどうにか突き止めた。
そうして青木ヶ原樹海に向かおうとしているところを把握し、先回りして単独でヴァールがやってきたのである。
「助かる……本当に助かる。エリス、しかし今一度確認するが、故郷に帰ることも今の仲間達とは合流するつもりもないのだな? ワタシとしてはもはや君の意思を尊重するばかりだが、それでも」
「ごめんなさい、それだけは……私は陰ながらあなたのお手伝いをするためだけにここにいます。ある程度でもそれができればまた、一人ひっそりと旅に出たいのです。それに今さら行方不明の女がノコノコと不老になって現れたって、仕方がないでしょう?」
「…………そうか。ワタシはそうは思わないが、しかし君がそう言うのであれば、ワタシは……」
応答を経て無表情のまま、しかし微かにうつむくヴァール。本音を言えばヴァールとて、エリスを保護し故郷へと帰したいのだ。
もっと言えば今回の事件でも、大手を振って仲間や探査者達に彼女を紹介し、誰よりも優しく誰よりも立派なこの少女を日の当たる場所に戻してやりたい。
だが、それを他ならぬエリス自身が強く拒否していた。
不老という、あまりに不自然な存在となったしまった自分は世間にいるべきではないと……断言されてしまったのだ。
そしてそうなると、そもそもその《不老》について罪悪感が根深いヴァールとしては断る言葉を持てないのだ。
ことここに至り、ヴァールは彼女の得たスキルがどういう類のものかを推測できていた。本来あってはならない事象が彼女に振りかかり、その対応として発現したのがソレなのだろう、と。
そしてそのきっかけはおそらく第二次モンスターハザードの戦いのなか。ヴァールが彼女をスカウトし、北欧全土を引き連れて戦わせたことなのだろう、と。そこまで読み切ってしまっていたのだ。
こうなるともう、ヴァールはエリスに何を強制できる立場でもない。少なくとも彼女自身にとってはそうだ、なぜならば彼女を永遠に陥れてしまったのは他ならぬ自分なのだから。
大ダンジョン時代を牽引するという大義のために、自分が彼女を終わりない地獄に突き落としてしまった──そんな強い後悔が、たしかにその心に刻みつけられていた。
「エリス……ワタシは」
「そんなことより。正直、このタイミングで捕捉されるとも思っていませんでしたがこれはこれで都合良しとしましょう。ヴァールさん、今回の騒動について私が得た情報がいくつかあります」
明らかに感傷的な面持ちのヴァールに、心を痛めつつもエリスは強引に話を打ち切った。この問答はもはや平行線、続けるほどにお互い苦しみ傷つくだけだと、目を逸らしたのである。
代わりにより重要な、今まさにこの地で起きている悲劇を阻止するための話を展開する。
まさに都合の良いタイミングだった。エリスとしても予想外ながら、よくよく考えてみればこれ以上ないほどの絶好のタイミングでの再会だろう。
はるか広がる富士山麓の樹海を見据え、彼女は闘志を放ちながらもそれを口にした。
彼女の得た、今回の騒動の裏で糸を引く何者かについての報せである。
「WSOがどこまで掴んでいるかは分かりません……が。私は少なくともこの国の裏社会に潜む反社会的勢力が多数と、それをまとめる元締め組織がスタンピードを引き起こしているところまでは突き止めました」
「っ!! ────元締めか。反社会的勢力が絡んでいること、さらにそれらをまとめる何かがあることはこちらも把握しているが。さらに詳しいところまで君はすでに、突き止めているのだな?」
「ええ。そして私は今からこの樹海のなかにあるらしい、その者達のアジトに潜入しようと考えていました。おそらくそこに、組織の正体に至るための決定的な証拠があると見越して」
驚きに目を見開くヴァール。エリスは単独行動ゆえの機動力でもって、WSO以上にことの真相へと近づきつつある。
であれば、彼女もさすがに精神を切り替えた。感傷よりもなお優先すべきは敵の正体、謎の組織の真実を入手することだからだ。
揃って樹海の先にある何かを睨むように見つめるヴァールとエリス。
かつての大戦における英雄二人の、知られざる戦いがここに始まろうとしていた。