大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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1960年の冬、忘年会

 ヴァールがエリスと再会し、敵組織のものと思しき謎の施設を求めて樹海探索を開始した、ちょうどその日の夕暮れ。

 長野県長野市は昔ながらの長屋において、そこに住まう早瀬光太郎少年が、心通わせつつある権藤華やライバルの鮫島弥助、友人の相田ひとみ、そしてシェン・ラウエンと妹尾万三郎を招いていた。

 

 きっかけはスタンピード鎮圧を繰り返す日々のなかでのことだった。

 ソフィアが一時離脱するなか、鎮圧グループのリーダーを務めていた権藤武虎が、彼もまた所用につき一時離脱すると告げてきたのだ。

 

 

『そう時間はかけない、家のことだからな。長くとも一週間程度になるが……その間の鎮圧グループはラウエンに任せたい。妹尾教授は引き続き地元の若者達の指導を頼む』

 

 

 ────とのことで、武虎は急遽ながら一週間パーティから外れることになったのだ。

 現行パーティの中核を二人、欠く形となったパーティ。しかして光太郎はそんななかでも、自分達にできることをするべきだと音頭を取り始めていた。

 

 これもその一環だ。光太郎の家に集合し、ささやかながら決起集会を行い同時に親睦も図る。なんなら時節柄、忘年会も兼ねてのことでメンバーも特に異論なく招かれたのだ。

 そう大きくはない畳部屋にメンバーが六人。加えて光太郎を普段から支援してくれている隣人、朝倉鶴太郎、亀代夫妻も食事や飲み物を調達してくれていて、計八人での宴会である。

 

「いやはや、いつの間にやら光坊も立派になってまったく! 学者先生にWSOのお偉いさんの時点ですごかったが、そこに加えて友達もこんなにできるとはなあ!」

「忘年会も兼ねてということで、相も変わらない寿司にお酒、ジュースばかりで恐縮ですけどね。どうぞじゃんじゃんやってくださいな、みなさん」

「うははははははっ! 鶴爺亀婆の言うとおり、どんどんジャンジャンやっちゃってくださいな! みなさん今年は本当にいろいろ、お世話になりまして!!」

 

 老夫婦と光太郎、三人が勧めるのは以前ソフィアやヴァール、妹尾にも振る舞った近場の寿司店の桶寿司だ。

 今回は前にもまして買い込んでおり、卓袱台に一つ置かれているがその脇にはもう10個ほど、桶が高積みされている。

 

 ビール瓶日本酒の瓶、ジュース瓶もその桶の隣に山ほど並べられており、酒を嗜む妹尾やラウエン、相田にも嬉しい光景となっていた。

 対する招かれた側、華や鮫島達も丁寧に光太郎達へと相対する。今回ばかりは光太郎をライバル視する鮫島も自重気味だ。

 

「光太郎さん……お招きいただいたばかりかこんなにも立派な御食事を用意していただくなんて。本当に、ありがとうございます」

「……まあ、こればかりは素直にありがとうと言っておくよ、早瀬。上流階級として、心尽くしはありがたく受けるものだからな」

「へえー、アンタ案外それ相応にはまともなのねえ。善き哉善き哉、こういう御厚意はどうあれありがたく頂戴し、感謝することこそが肝要なのだわさ」

「相田くんの言うとおりだ。こうしてこちらを想って用意していただいた、それそのものが感謝と敬意に値するものだからね」

 

 普段から上流階級たる自負を隠すことなく、尊大な言動をしがちな鮫島だが、だからこその矜持を垣間見せた形になる。

 そんな少年に相田は感心し、妹尾も微笑み教授らしい含蓄ある言葉を交わしていた。

 

 かくして誰もがこの宴を楽しみにしているわけだが、とりわけラウエンなどは目に見えて期待に胸を躍らせている。寿司の並べられた桶を前に目を輝かせ、しかも手元にはビールと日本酒をすでに用意している。

 これこそ意外な姿だろう。旧知の妹尾が目を丸くして彼を見ていると、それにも動ぜずラウエンはにこやかに言ってみせたのだ。

 

「実のところ、日本へ赴くにあたってこうした食事が楽しみなところはあったんですよ、教授。何しろ普段のシェンの里での食事とは当然異なるわけですから、もう期待してしまって。用事で里から出る際にも、行く先々でその土地の料理を楽しみにしているほどでして」

「そうなのかい? 意外に美食家なんだねえ、君は」

「第二次モンスターハザードでの体験がきっかけですよ。北欧はスウェーデン、あるいはノルウェー……あそこで食べた食事は素晴らしかった、まさしく蒙が啓かれました。あれ以来、すっかり食に目覚めまして」

「ラウエン先生、結構あちこちこの辺の居酒屋に出向いてるのを見ますね! たまにご一緒したりもするんですよ僕、あ、もちろんお酒は飲みませんけども!」

 

 かつての戦い。1957年に起きた、北欧全土の第二次モンスターハザード。そこでの食事体験がラウエンを覚醒させた。

 素晴らしい食文化の彩りと味わいに、彼の味覚は一気に見せられたのだ。そしてそれ以来、何かの用で里の外へと出向く際には美食を楽しむようになっていた。

 

 それゆえ今回のスタンピード事件においても、もちろん探査者として星界拳士としての使命が最優先ながら、一方で……

 日本という独特な食文化を持つ国での、新たな美食体験に大いに期待を寄せていたのも実情だった。

 

 実際に来日して滞在中の今、長野ばかりか周辺県の居酒屋にも足繁く通っていることを光太郎の口から語られる。

 武術の達人の意外な側面。この場にいる誰もが意外な面持ちになる、ラウエンのパーソナルな部分であった。

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