意外にも美食家としての側面を見せるラウエンも交え、そうして始まる宴。
朝倉夫妻の厚意により買い揃えられた寿司と酒、ジュースに誰もが舌鼓を打ち、楽しく話に興じるひとときだ。
とりわけ話題に上ったのが、最近特に実力を伸ばしてきている光太郎についてだった。
来日して間もないラウエンも彼にいくらか指導を始めている今、改めてそのパーソナリティに注目が集まっていたのだ。
「ほう! すると光太郎はその若さで独立して探査活動を行い、それでいて出身の孤児院に資金援助を行っていると。立派な行いだな……率直に敬意に値する!」
「へっへっへ! でしょうラウエンさん? それに光坊のやつぁね、こんな年寄りにも親身になってくれてねえ」
「近所でも人気なんですよ、光ちゃんは! 老若男女問わず親切で、優しくて……だから最近だと探査者のなかでも活躍してるって話でしょう? もうそれが私らには嬉しいったらなんのって」
「うははははは……いやあ、照れるなあ!」
光太郎が、15年前の能力者大戦において発生した孤児であること。そして探査者となった今、独立して探査活動を行いつつそこで得た資金によって世話になった孤児院を支援していること。
そうした身の上話はラウエンばかりか、この馬にいるほとんどの者にとって初耳だった。あらかじめ知っていたのは先日、朝倉夫妻からそのあたりを聞いた妹尾や前からの友人である相田くらいだろう。
これにはラウエンも心底から感心した目を向け、隣に座る華も神妙に、それでいて真摯な眼差しを光太郎へと向けている。
その様子に内心複雑な鮫島でさえも、自分より一歳年下の少年が、探査者活動をしつつもなおこのような長屋で質素に暮らしている理由を察し、理解を示していた。
「なるほどな、正直に言えば不思議だったんだ。探査者はダンジョン探査の報酬で大体の場合儲かるだろうに、それがなぜ、その、あー」
「こういう長屋暮らしなのかってことでしょ、弥助。いやあ、これはこれでなかなか楽しいもんだよ、うはは! 鶴爺亀婆みたく、近所の人達とも仲良くなれるしね!」
「……そうか。こればかりは認めるよ、お前はすごいやつだ。私は生まれつき上流階級だからこの手の苦労は知らないし、親にも愛された。だからってどちらが上とかでないけれど、僕にできないことをしてきたお前のことは、立派な人だと思うよ」
「うは、うはは、うはははははは!! そ、そう? いやあ、なんともはや、うはは! 酒が進むなあ、ジュースだけど!」
「どっちだよ未成年。紛らわしいことを言うのはやめろ」
ひたすらに褒められ、さすがの光太郎も顔を真っ赤にして豪快に笑い、オレンジジュースを呑むばかりだ。とりわけ鮫島にまで讃えられたのが、喜ばしいやら照れくさいやらの少年心である。
最初こそ華を巡って諍いが絶えない間柄で、今でも一方的にライバル視されることに戸惑う心地はあるものの……なんだかんだで切磋琢磨しあえる同年代を得たことは、光太郎にとって良い刺激になっていた。
そんな二人を微笑ましくも見つめていた華は、不意に懐からロケットペンダントを出し、開いた。なかには家族の写真がある。
権藤武虎、権藤華、そして権藤春子。5年前に死んだ、武虎の妻であり華の母親だ。
横目にした光太郎が、微かに息を呑んだ。武虎からすでに話は聞いていた、父娘にとって未だに最愛の人。もう会えない人。
「華、それは……」
「はい、お母様です。なんだか光太郎さんのお話を聞いていたら、無性に顔が見たくなって。その、なんというか……こんなにすごい人が、私のお友達なんだよって。そう、伝えたくなって」
「そっか。そのうちさ、いつか、この騒動が解決できたらさ。お墓参りとか、させてほしいな」
「もちろん! 一緒に行きましょう、その時は父や祖父も一緒に。ああ、きっとそうなったら素晴らしい日になるわ」
愛しむように写真を見る、華に寄り添う光太郎。二人の姿はまるで番の鳥のように自然で、それゆえに大人の目から見ても素敵な、尊いものに映る。
鮫島だけはどこか切なげに、しかして納得した様子でもあったが──朝倉夫妻も妹尾もラウエンも、若き少年少女の仲睦まじさに目を細め、半ばそれを肴にして寿司と酒にと舌鼓を打つ。
ただ一人、相田については別だが。彼女はそんな二人を見て、やっかんだように目を据わらせて日本酒を飲む。
コップに手酌で注ぎ、すさまじい勢いでだ。そちらもそちらで唖然とする一同を意にも介さず、彼女は呻くように呪詛めいた言葉を口元からこぼしていった。
「ケケーッ! あぁあぁお若い二人はよござんすねえ、それにひきかえワタクシメと来ましたら、とんと色恋沙汰ニャア縁がのうござんしてっとくらぁ!」
「そ、相田さん?」
「クソーッ! どっかに野生の京都の御堂が転がっちゃってたりしないかなぁーっ!! ぶっちゃけると私アイツ好きなんだよなあー! 前に一度富山に来たアイツを見て惚れたは良いものの、とっくの昔に幼馴染とくっついてるんだもんなぁーッ!! ────おい。そのへんどうなんだ男衆。お前らこそ浮いた話ねえのか、おい」
「相田さん!?」
酒に任せて普段は決して口にしない、禁断の恋情を口にする相田。その上で絡み酒めいて妹尾やラウエンに話しかけていく彼女に、歴戦の探査者達が揃ってたじろぐ。
ちなみに妹尾もラウエンもすでに妻帯者だ。特に妹尾は愛妻家で、子沢山の大家族をも構築している。
まして京都の御堂こと御堂将太についても多少知る彼としては、なんとなし話は分かるがそれは相手が悪いよと引きつり笑顔でまあまあと執り成すしかできない。
ラウエンに至ってはそもそもこの手の話が苦手ゆえ、豹変した相田に恐れをなしたのもあり、少し距離を置いて朝倉夫妻や鮫島をも交えて話に興じる始末だ。
それもこれも小さな卓袱台を囲んでのどんちゃん騒ぎ。明日からはまたモンスターから人々を護る日々が始まる彼ら探査者の、束の間の休息の風景。
しかし──光太郎達にとって、今日この時がこの家における最後の日常の風景となる。
待ち受ける運命の時は、未だ誰にも知る由のないことであった。