大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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裏切りの英雄

「なぜ、ここにいるヴァール。なぜ、そこな青髪の女とともに行動している」

 

 ────まったく、予想だにしない事態だった。目の前の光景を見て男は思う。

 戸惑う女二人。どちらも見目麗しい少女の姿だが、どちらもとてつもない強さを秘めた能力者であることに、声をかけた彼はすでに気づいている。

 

 青髪の女は言わずもがなだ。暗殺能力者をまとめて三人、こともなげに退けたというからにはその腕前は隔絶したものだろう。だからこそ自分は呼ばれたのだし、だからこそ自分はここにいるのだ。

 そしてもう一人。こちらも言わずと知れている。すでに行動をともにして少し経つなかで具に確認してきたその実力は、さすがの世界的英雄だろう。

 

 男──権藤武虎は、だからこそ深い疑問と焦燥を抱いた。

 青髪の女。そしてもう一人、WSO統括理事の裏人格ヴァール。接点がないと思われていたはずの二人が、なぜここに。

 よりによってこの、スタンピード発生拠点にいる。

 

「その声、は」

「何者ですか! 私に差し向けた刺客ですか、また!」

「結果的に言えばそうなる、青髪。ずいぶん暴れまわってくれているようだが、少々やりすぎたということだ……しかし重ねて言うぞ。なぜお前までここにいる、ヴァール。そこの女と知り合いだったとでも言うのか」

「…………権藤、武虎。お前こそなぜこんなところにいる。それに今、エリスの言ったことは……権藤財閥が、黒幕と言うのは」

 

 珍しいほどに驚愕しているヴァール。気づいたエリスがその横顔を見、次いで武虎の名を聞き彼を見る。

 この中部地方で人知れず活動していたエリスも当然、その名は耳にしていた。地元の英雄、そして権藤財閥会長の息子。

 

 ゆえにかの財閥が今回の事件に深く関与していることを突き止めた時点で、向こうが武虎を差し向けてくる可能性も当然考慮に入れていた。入れていたが、しかし──

 すでにヴァールとも、ソフィアとも知己だったのは予想外だった。それもこの感じ、下手をするとパーティメンバーないしそれに近い立ち位置にいる。

 

 つまりヴァールの視点からすると、味方だと思っていた者がまさかの反旗を翻していたことになる。

 その心労を慮りつつ、エリスは告げた。

 

「ヴァールさん……はい。たしかに私は、権藤財閥と会長・権藤平之助が今回の件でこの国の裏社会中の反社会的勢力をまとめているという情報を掴みました。あの男が、その息子の武虎ですか」

「馬鹿な……何のためにだ!? 君を疑うなどしないが、しかしこれは、あまりにも……権藤平之助にしろ権藤武虎にしろ、むしろ我々の側に立ってくれていたのだぞ!」

「…………それそのものが、フェイクだったということでしょう。面従腹背。表向きはWSOに与しつつ、裏ではその動きを逆手に取って自分達に有利な形でスタンピードを進めていた。違いますか!? 権藤武虎ッ!!」

 

 完全に想像の埒外にあった可能性。権藤平之助と権藤武虎、あるいは権藤華まで入るかもしれない。畢竟、権藤財閥全体の背信行為。

 端的に言うならば、裏切りだ。WSOや全探組と歩調を合わせつつ、その立場を利用して情報を先取りして自分達が有利にことを進めていた。会長とその息子が率先して、スパイ行為を行っていたことになる。

 

 あまりのことに信じがたいと呻くヴァール。無表情なその顔が、微かに目を見開いて見えるあたり相当な衝撃だったのは想像に難くない。

 この人を、ここまで信じさせておいて裏切った……! エリスにとってはもはやそのことだけでも大罪に値する。すかさず武虎へと叫べば、男は厳しい顔つきにあからさまな敵意と警戒を乗せつつも肩をすくめた。

 

「違わないな。大した事情通ぶりだ小娘、能力者としてだけでなく諜報員としても一級と見るが。WSOもとてつもない隠し札を持っていたものだな」

「武虎、お前は……! 最初からワタシ達を欺き、撹乱する目的で接近してきたのか!? 華も、鮫島もか!」

「……いいや。誓って言おう、華と鮫島少年は違う。あくまで私と親父殿が主犯であり、あの二人は実際のところ何も知らんよ。今ここで私がこうしていることもな。特に華は、ただ利用されているだけだ」

「何を……利用だと」

「あの子の未来のために私はここにいる。あの子を護るためなら、私は何でもやる。親とはそういうものだ。亡き妻とは別のところへ逝くことになったとしても……それでも私は、私の娘を護らねばならん」

 

 武虎の言葉が、まるで理解できない。ヴァールをもってしても情報が足りない。

 最初から敵だったとして、それがなぜ華を護ることにつながるのか。何やら事情があるのかも知れないが、それがなんなのか。あまりにも真相が分からない。

 

 しかしてヴァールにもエリスにも、目の前の男が並々ならぬ覚悟と滅私の姿勢でここに臨んでいることだけは理解した。

 彼の身体から吹き出す緑の風。彼だけが持つ異能、ステータスやスキルに依らないスーパーパワーの威力がそれを、嫌でも彼女らに痛感させたのだ。

 

「大魂道……か! 貴様、本気でやるつもりか、ワタシ達と!!」

「無論。つもりとしては青髪の女、エリスというのか? 彼女だけを相手取る予定だったがな。ここにいるからには仕方ない、まとめてここで仕留めてみせよう」

「舐めないでください、権藤武虎! 《念動力》、エネルギーブレード!!」

「くっ……《鎖法》! どうあれそういうことならばワタシとて容赦はせんぞ!! 貴様を捕縛して、平之助含めた権藤財閥の企みを明かしてやる!」

 

 その力、権藤武虎の大魂道が発露するなか、ヴァールもエリスもそれぞれに構えた。臨戦態勢。

 事情がどうあれ、内心の驚愕がどうあれやることは変わらない。敵首謀者と思しき者を捕縛し、そこから真相に至り事態の解決を急ぐ。

 

 であるならば今、武虎が自ら出てきて自白したのは助かるとすら言えるだろう──武虎自身もまた、気持ちを切り替えていた。

 重ねていうが予想だにしない展開だが、こうなれば是非もなし。二人まとめて仕留め、もうじきに始まる"蜂起"をより自分達に有利に進めてみせよう。

 そう考えて、一歩前に出るのだった。

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