大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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逃げるわけにはいかない戦い

 ついに明らかになった敵組織、権藤財閥を中心とした反社会的勢力による連合──反能力者連合。

 よもやこの数ヶ月、行動を共にし心強い仲間と思っていた者さえその一員だったことに衝撃を受けたヴァールだったが、すぐに我を取り戻して無表情のまま、強い敵意を武虎に向けた。

 同時にワームホールの向こう、地獄絵図と化した長野市内を横目にし、静かに問いかける。

 

「反能力者連合……大ダンジョン時代以前からの復讐者と貴様は言うが。こんなことをして何になるというのだ、貴様らのクーデターもどきが本気でうまく行くとでも?」

「さあな。少なくとも親父殿は本気でやり遂げる腹積もりのようだがそんなことはどうでも良い。しかしヴァールよ、こんなところで悠長にしている場面ではないことが分かったはずだ。さてどうする……? ワームホールを潜って人々を守るか? それかそこな青髪とともに、引き続きこの権藤武虎を相手取るか?」

「言われるまでもない。エリス」

「分かっています、ヴァールさん」

 

 名乗った割には、告げた割にはどこか淡々と興味関心のない素振りの武虎。そこにあるたしかな違和感をしかし、この際ヴァールもエリスも気にせずお互いを呼んだ。

 第二次モンスターハザードでの絆は健在だ。お互い、考えることなど分かりきっている。あるいはこれが今生の別れとなるかもしれないが、それでも優先すべきものが二人にはある。

 

 平和と秩序の維持。人々の生命を守ること。

 ──そして倒すべき悪を前にして立ち向かうこと。戦い抜くこと。その二つだ。

 ならばこそ、それらがそれぞれに目の前にある今。その二つを同時に選ぶのが彼女ら英雄なのである!

 

「むう?」

「権藤武虎。あなたの当初の予定とやら通り、ここからは私一人がお相手しましょう。ここであなたを仕留められれば、それだけでもその反能力者連合なる組織には痛手でしょう?」

「そしてワームホールの先、戦禍に晒される町と人々はワタシが対応する。エリスが今、ここにいてくれるからこその選択だ……舐めるなよ武虎。彼女はこの大ダンジョン時代にあって、ワタシがソフィアに並び信頼し尊敬する戦友なのだ」

「…………そう来るか。あなたにそうまで言われるとはそこの青髪、あるいは私の手にも余るやもしれんな」

 

 信念を貫く眼差し二つに晒され、武虎は気圧されかねない己を奮い立たせるべく唇を噛んだ。

 わかっていたはずだ、ものが違うと。ソフィアもヴァールも地元の英雄ごときでは太刀打ちできる器ではないのだと。

 

 今しがたの戦闘ではたしかに拮抗できていたが、それもじきに覆されただろう……大魂道など攻撃にすべてを注いだ一芸特化でしかないのに、利便性に優れた鉄鎖で防がれていては世話がない。

 そして横のエリスなる青髪の小娘も、また。よもやナイフ一つ備えた華奢な身体で、あろうことか渾身の一撃と並び立つとは思いもしないことだ。

 

 二人同時を相手にしては確実に負ける。その確信がある武虎には、ヴァールの離脱はありがたい話ではあった。

 ついでにもう一つ、恥知らずを承知でワームホールを潜らんとする彼女に声をかける。

 

「ヴァール。もはや我らは敵だがそれでも、これだけは知っておいてもらいたい」

「なんだ」

「華も、鮫島少年も連合には本当に関係ないのだ。特に華はただ権藤に、親父殿に知らずと利用されているだけの被害者だ。どうか、あの娘を心ない誹謗から守ってほしい……というのは、それは光太郎少年がやることだろうがな」

「……貴様がどんな事情を抱えていようと、ワタシのやることは変わらない。あの二人の背後関係は当然洗い、連合とつながりがあるならば問い質すしつながりがなければ守る。貴様の意向や願いなどそこに関わることはないと知れ」

「それで良い。さあ、さっさと行って町を、人々を守れ。そして地元の英雄とやらは、ずっと諸君らを裏切ってきた薄汚い屑だと言うことを……愚かなまでにまっすぐなこの地の探査者達に教え、目を覚まさせてやってくれ」

 

 もはや返事もせず、ヴァールは空間転移した。最後に武虎を一瞥しての、訣別の瞬間。

 無念だ、と武虎は思った。心の底から無念だ。己になんのしがらみもなければ、きっと、彼女の下で正義のために戦えたろうものを。

 きっと、華や光太郎とも一緒に……素晴らしい日々を送れただろう、と。

 

 しかしそんなものは未練でしかない。エリスに相対する。

 こちらは武虎の物言いから察するところがあったのか見るからにどこか慈悲的、同情的だ。それでも油断することなくエネルギーブレードを構えながら、静かに問いかけてくる。

 

「権藤武虎。今からでも遅くはありません……馬鹿な行いに手を染めるのを止め、助けが必要ならば助けを求めるべきです。あなたはまだ間に合う、今ならまだ。もはや取り返しがつけられない、私とは違うはずです」

「……君がどのような事情を背負っているかは知らんが、その慈愛に感謝と敬意を。しかしてすまんな、引き下がれんのだ。私が引けば親父殿の悪意は、確実に私が護るべきものにまで及ぶ。この世には、たとえ分かっていても悪に屈するしかない愚かな弱者がいることを少女よ、君はどうか知っておいてくれ」

「あなたは……! そんな誤魔化しで逃げて、その結果人々が危機に晒されているのなら! 私はここで、あなたを倒します!」

「そうだ! それで良い、青髪! だが私はまだ倒れんぞ、負けるわけにはいかんぞ!! 誤魔化しでも逃げでも、我が大魂道だけは本物であると知るが良いッ!!」

 

 互いに一歩も譲らぬ叫び。片や尊き命と平和のために、片や誰より何より譲れぬもののために。

 かつての英雄二人──今は善と悪とに分かたれて。エネルギーブレードと緑の風がそれぞれ迸り、そして樹海にてまたしても激突した!

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