大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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罪の鎖

 カーンとレベッカが辛くもワルドを打ち倒している頃。ソフィア・チェーホワの裏人格たるヴァールはすでに、誰より早く敵組織の本陣営にまで攻め込んでいた。

 進路方向上にいるモンスター達を軒並み、その右腕の《鎖法》により叩き潰し強引にルートを確保しつつも……

 首魁たるアーヴァイン・マルキシアスの元へと進撃していたのだ。

 

「ひいぃぃぃっ!? 来る、やつが来る! チェーホワが、チェーホワの鎖がやって来るっ!!」

「お、落ち着いてくださいリーダー! ま、まだやりようはあるはずです」

「ワルドはどうしたっ!? 高い金を払って雇ったのに、なんでアイツがチェーホワを仕留めていない!? 何をしているんだ、あの馬鹿はっ!!」

 

 エアーズロック付近、地下を密やかに掘削して作られた委員会の拠点。蟻の巣めいた構造のその地下アジトの一番奥の部屋で、アーヴァインは側近に怒鳴り散らしながらも恐怖に慄いていた。

 最初から勝ち目は薄い、それは分かっていたがあまりにもあっさりと劣勢に持ち込まれた、そのことに焦りと苛立ちを隠しきれなくなっていたのだ。

 

 元よりアーヴァイン・マルキシアスとはこうした男だった。平時はそれなりにリーダーらしい鷹揚さを持つものの、ひとたび非常時となれば途端に落ち着きをなくす。

 人を、組織を率いる上では長所にも短所にもなり得る素養ではあったのだが……ことここに至り、完全に追い込まれてしまった現状においてはただただ、無意味な八つ当たりとしか周囲にも思われないものでしかない。

 

 彼の部下にあたる側近達もまた、そうした彼の姿にどうしようもない諦念さえ抱きつつ。

 けれど努めて冷静に、リーダーの問いかけに答えた。

 

「ワルド・ギア・ジルバは……シェン・カーン、レベッカ・ウェイン両名と交戦の後……や、敗れた模様です。ワルドは、負けました」

「ふざけるなぁぁっ! 妹尾込みで三人がかりを倒した男が、なんで一人抜けたら負ける!? シンプルに理屈としておかしいだろうがぁぁっ!!」

 

 委員会はスタンピード発生セクション、最後の希望。用心棒として雇った"最強の能力者"ワルド・ギア・ジルバの敗戦を耳にして、いよいよアーヴァインは暴れ散らす。

 彼にとってワルドは対ソフィア・チェーホワにおける切り札だ。かつて見てきたいかなる能力者よりも強い男をもって、あの憎き能力者同盟盟主を封殺する。そのつもりだった。

 

 だがいざ決戦となるや否や、ソフィアに向かったはずのワルドはなぜかカーンとレベッカを相手にしている。

 それでも数日前には容易く一蹴できた者達だ、容易く始末してくれるのかと思いきや、まさかの敗北ときた。

 

 なぜ? 疑問が焦りと怒りとともに募る。

 アーヴァインは苛立ちのままに、監禁部屋から連れ出して人質にしようと考えている、男──妹尾万三郎の顔を蹴り上げた。

 

「ぐうっ!?」

「妹尾ォ! 貴様まさか味方の足を引っ張っていたとでも言うのか!? ──どうなんだ、ええっ!? 日本人ッ!!

「がっ!? ぐあっ、げうっ!!」

 

 全身を、能力者でも破壊できないほどの強度を誇る鋼鉄製のロープで縛り上げた彼を蹴り倒す。まったく身動きが取れない妹尾が地べたに倒れれば、そのままアーヴァインは何度もその顔を足蹴にし、踏み躙っていく。

 腹立ち紛れでのサディズム。一廉の能力者であり学者らしいこの若者を痛めれば痛めつけるほど、彼の溜飲は下がり頭は冷えていく心地になる。

 

 ひとしきり暴行を加え、荒く息を整える。

 やっと冷静さを取り戻したアーヴァインが、自らの爪を齧りながらも側近へと告げた。

 

「ふーっ、ふーっ!! ……仕方ない。一矢すら報えぬならばこれ以上ここにいる意味もない。拠点は放棄し、急ぎ委員会と連絡を────」

「そうはいかん。貴様らは、貴様らだけは断じてこのまま逃がしはしない」

「っ、なに!?」

 

 せめて最後にソフィア・チェーホワへと痛撃を与えんがための決戦。であれば、それが叶わぬのであれば素直に逃げの一手を打つ。

 判断自体は、ことここに至ってからのものであるならばそう間違ってはいないのだろう。目的達成が困難になった時点で即座に撤退する、これ自体は真っ当なものだ──当のソフィアが、今まさにアジトの最奥に足を踏み入れる際でなければの話である。

 

 不意な声にアーヴァインと側近二人が部屋の入口を見る。そこに立つは場所と状況に似つかわしくない、可憐な少女が一人。

 無機質な無表情。ゴシックロリータ調のドレスに身を纏う、西洋人形のように愛らしく美しい姿。

 

 能力者同盟盟主ソフィア・チェーホワ──その裏人格ヴァール。

 世界大戦を終結まで導き、今また人為的スタンピード事件の解決にも主導的な役割を果さんとする委員会の怨敵が、そこにいたのだ。

 そしてすでに臨戦態勢だ。スキル《鎖法》の鎖は、右腕に顕現している!

 

「ソッ……!! ソフィア・チェーホワッ!!」

「今助けるぞ、妹尾──《鎖法》鉄鎖乱舞!」

 

 ついに現れた、不倶戴天の能力者!

 アーヴァインが叫ぶと同時に、ヴァールは右腕からスキルで顕現した鎖を部屋中に解き放った!

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