大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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終戦

 花咲くように、ぶちまけられた鉄鎖乱舞。《鎖法》による鎖はアーヴァインも側近もまとめて関係無しに部屋内に展開されたが、唯一ヴァールが明確に、狙い定めて放った一点がある。

 捕縛され、今しがたまで暴行を受けていた妹尾万三郎──彼を縛っていたロープを寸分の狂いなく貫き、拘束から彼を解き放ったのだ。

 

「妹尾! 動けないなら動けないで良いが、動けるならこちらへ来い!」

「ヴァール……さん。う、動け、ます……! 自分で、動けます!」

 

 見るからにダメージを負った妹尾に、無理して動くように言うつもりはないがここは決戦の場だ。できるなら自力で合流するよう彼女が告げれば、呻きながらも彼はそれに応えた。

 ふらふらと、よろめきながらどうにか立ち上がる。足取りは頼りないが行動不能とまではいかない様子に、内心安堵するヴァール。

 

 しかして鉄鎖乱舞を受けた部屋内、あちらこちらに鉄鎖が張り詰められる中だ。妹尾もゆっくりとしか移動できない。

 ヴァールの見立てでは側近二人は捕まえた。しかし肝心のアーヴァイン・マルキシアスは未だ手応えがない。

 やつは、どうなった? ──答えはすぐに分かった、妹尾めがけて襲いかかる、彼自身の叫びによって。

 

「逃がすかァ!! 妹尾、せめて貴様だけでもぉッ!!」

「っ────先程は、よくも」

 

 手にした剣で、アーヴァインは妹尾の心臓めがけて突きを放っていた。いや、もはや体当たりに近い決死の突撃だ。

 彼自身、ことここに至っては勝ち目などないと分かっていたのだ。だからこそせめて、最後に嫌がらせめいた悪意をもって、ソフィア・チェーホワを支える三幹部の一角を道連れにしてやろうと思ったのだ。

 

 相手はレベッカ・ウェイン、シェン・カーンに比べれば明らかに武闘派ではない学者の妹尾。しかも先程までに甚振っていたこともあり、かなりの深手を負ってふらふらの体だ。

 こいつくらいは殺れる、こいつくらいは殺らなければならない! そう確信した決意の一刺しは……しかし。

 

 しかし、揺らめく妹尾の身体から突如、放たれた右ストレートによってその勢いごとへし折られた。

 顔面に、拳が刺さる。

 

「が、あ、う!?」

「よくも、やって、くれた──!! 《拳闘術》!!」

 

 短く呻くアーヴァインに、続けて妹尾は怒涛の連打を放った。

 左手を蛇のようにしならせてのスネークジャブ。右腕の大砲ストレートスティンガー。さらには左腕でのモールアッパー、右腕を振り下ろし気味に上から貫き落とすチョッピングマンティス。

 

 いずれもボクシングに近い拳の放ち方、まさしく拳闘術。レベッカやカーンには劣るもののそれでも常人を越える身体能力の持ち主の拳が次々と的確にアーヴァインの顔面、それも急所を穿つ。

 激怒していた。妹尾がである。何もできずに捕まった己にも、若造扱いして歯牙にもかけなかったワルドにも。捕縛後に暴行してきたアーヴァインにも当然怒っている。

 

 つまりは自分さえも含めた不甲斐なさ、情けなさへの憤り。学者として暴力には否定的な態度を取る妹尾だが、ここまでやられては激昂のままに拳を振らずにはいられなかったのだ。

 

「私がボクサーでないことが不幸だったな、アーヴァイン・マルキシアス……!!」

「がぎゃっ!? ぐげ、けげっ!?」

「スポーツアスリートのプロフェッショナルとしてのボクサーならば、決してこのような暴力に拳は使わない! だが私は能力者だ! リングの外で、モンスター相手に生命の張り合いをする者相手にここまでやればどうなるか……! この後に息があるなら、しかと心に刻みつけるが良い!!」

「やめっ、やべげっ!? やべべぶべーっ!! ばいっだ! まいっだーっ!!」

 

 自身も相当なダメージで意識が朦朧としている、けれど激しい猛烈なまでの怒りが身体を動かし、ひたすらに攻撃を仕掛ける様子はさながら鬼神か。

 これにはアーヴァインもすっかりと逆に心を折られ、殴られ変わっていく顔で泣きながら降参を宣言するしかない。死んでも良いから殺してやる、とは言ったものの、やはり殺意に晒され殺されそうになれば生命は保身を選択するのだ。

 

 必死の命乞いだが、妹尾はもはや聞く耳を持たない。怒りに任せて振るう拳、このままいけばアーヴァインを本当に殴り殺してしまうだろう。

 ゆえに──それを止めたのは、やはりヴァールの鎖だった。《鎖法》が、彼の全身を巻き付けて縛り止める。

 

「っ…………! ヴァール、さん……」

「止めろ、妹尾。お前の怒りは理解するが、私刑を許すわけにはいかない。アーヴァイン・マルキシアス以下委員会のメンバーは法の裁きを受けなければならない」

「…………し、失礼、しました。ここまで、するつもりもなかった、の、です、が……」

 

 赦しがたい者であっても、人であるならば人として法の裁きを受けさせなければならない。

 今や国連組織たる能力者同盟の一員である以上は当然のスタンスであり、いくら耐え難い仕打ちを受けたにせよ、それを理由に復讐を認めるわけにはいかないのが現状のヴァール、ひいてはソフィアの立ち位置だ。

 

 それは妹尾も当然理解していた。ゆえにすぐに冷静さを取り戻し、激情に身を任していた己を戒める。

 と、同時に蓄積したダメージをも自覚し、彼はついに意識を手放してしまった。見ればアーヴァインも気絶している。

 

 鎖に繋がれたまま気絶する妹尾と、殴られるままに昏倒したアーヴァイン。

 なんとも締まりの無い終わり方だが……それでもこれにて決着は着いたかと、ヴァールは無表情のままにひとつ、うなずくのだった。

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