大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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能力者解放戦線

 ヴァールが宣言したとおりの二日後。彼女は業務のいくつかの引き継ぎや予定の調整をしっかりと整えて後、一路飛行機でフィンランドへとたどり着いていた。

 すでにレベッカは先に現地入りしている……国内のWSO支部施設にて落ち合い、しかる後に本格的なスタンピード頻発事件についての調査を行うのだ。

 その予定だった。

 

 しかし状況が変わったのは、都市ヘルシンキにある空港に到着してすぐのことだ。

 空腹を満たすため、なんの気なしに立ち寄ったカフェでサンドイッチとコーヒーを飲食していたところ、備え付けのテレビが明らかな異常を映し始めたのだ。

 

『──今この時よりしばらく、こちら国営放送は我々がジャックした。我らは能力者解放戦線! 繰り返す、我ら能力者解放戦線が、フィンランド国営放送を一時ジャックしている!!』

「なんだ? ……どういうのだ?」

 

 白黒テレビ、ブラウン管の味わいある画面が映すのは武装した一団。本来であればニュース番組を報道するのだろうデスクを堂々と乗っ取り、勢いも激しくカメラに向かって叫んでいる。

 異様な光景だった。最近になって各国で普及、あるいは試験運用され始めているテレビだが、このような悪ふざけめいた番組を流す例はアメリカなど一部の大国を除いてなかったとヴァールは記憶している。

 

 ましてやたしかフィンランドは今年、まさに1957年にこそ国営放送によるテレビの試験運用を開始している。国の運営で、最初の年で、いきなりこのような質の悪いジョークはするまい──

 そう結論づけつつも、彼女は珍しく動揺していた。静かに絶句しつつ、近くの女性店員に問いかける。

 

「これは……すまないが、これは何かのそういう番組なのか? ワタシは今しがたスイスから来たのだが、フィンランドのテレビはこうしたコメディショーもすでにやっているものなのか?」

「い、いえ! そんなはずは、だっていつもニュースと、後はちょっとしたトークショーばかりやっているような……は、始まって本当にひと月も経ってないようなものですよ!?」

『誇らしくも開設されたばかりの、フィンランド国営放送を少しばかり拝借することを国および国民のみなさんには謝罪したい。しかしこれは極めて重要でかつ、大切な主張なのだ! しばしご清聴いただければ、そのことはすぐに分かるものだと確信している!』

「…………テレビ乗っ取り? そんな馬鹿な、冗談の類ではないというのか」

 

 パニックに近い女性店員の受け答えと、やはりテレビに映る武装集団の主張。その内容から、これがジョークでもコントでもないことを芯から理解してヴァールは思わず立ち上がった。

 見れば店内、少なからずの客も店員も揃って動きを止めてテレビに釘付けだ。間違いなく、元々の予定にない何かが起きている。

 

 ヴァールもまた、テレビに目を向ける。フィンランドに到達した途端に起きたこの異様な事件。

 第六感というほどでもないがなにか胸騒ぎを覚える。これは……映っている集団は、今彼女がここにいる理由と無関係でない。そんな気がした。

 

 そしてその予感はすぐに確信へと変わる。

 リーダーらしき男が、それを裏付ける発言をしたのだから。

 

『単刀直入に言おう……ここ最近、北ヨーロッパ全土で起きているスタンピードはすべて我々が引き起こしているものだ! 我々は能力者解放戦線! モンスターをダンジョンから引きずり出す手法を確立している者達である!!』

「……何!? なんだと、何を言った今、この男は!」

『そして北欧に混乱を撒き散らすその理由はたった一つ! 能力者を支配的に運用しているWSOの解体および悪女チェーホワの打倒! そして真人類たる能力者による世界の支配と、それを前提とした新秩序の確立だっ!!』

「何を馬鹿なことを……!?」

 

 スタンピードを人為的に引き起こしているという、自白にも似た宣言。そしてWSOの解体とソフィアの打倒、世界征服という目的の主張。

 男が次々と語るその内容は、ヴァールをして唖然とさせるだけのインパクトがあった。当然他の者達もみな、愕然として開いた口が塞がらない様子でただ、テレビを見つめている。

 

 大変なことが起きた。ヴァールは直感的にすぐ、店員に注文分の支払いを済まして店の外を出た。フィンランドのWSO支部が手配してくれていたリムジンとSPとも落ち合う頃合いだ──すぐに見つけ、駆け寄る。

 ソフィアの容姿は特徴的で、すぐに向こうも彼女に気づく。屈強な肉体をスーツに包んだ彼らも異様な騒ぎには気づいていたようで、すぐにリムジンのドアを開け、ヴァールを迎え入れた。

 

「チェーホワ統括理事! お待ちしておりました、ですがこの騒ぎは一体!?」

「何か、テレビ放送が発端のようですが……!」

「スタンピードを引き起こしている集団によるテレビジャックだ! すぐにレベッカならびにWSOの責任者と合流する! いきなりですまないが直ちに出発してくれ! ────12年ぶりの、二回目のモンスターハザードだ!!」

「!? 飛ばします、ご容赦を!!」

 

 言うや否や、すぐさま理解してSP達も車に乗り込み、目一杯のアクセルを踏み込んだ。

 緊急事態だ。まさかと思っていたことが、早々に裏付けを取れてしまった。それも最悪の形で。

 

 ヴァールは内心で歯噛みした……モンスターハザード。

 能力者大戦の裏で引き起こされた人為大災害たる12年前の戦い。あれと同様のことが今、まさに勃発したのである。

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