大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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緊急事態

 ヴァールを乗せた車はすぐさまフィンランドにおける、WSO支局へと辿り着いた。

 元よりヘルシンキ内にあるがゆえに空港もこの地にあるそれを選んだのだ、迅速な目的地到達は当然の話である。

 

 辿り着くや否や、急ぎ足で彼女はリムジンを降りて施設内へと入る。

 ダンジョン探査の依頼を見繕うために何人もの探査者がロビーを訪れていたが、その誰もが突然現れたチェーホワ統括理事に目を剥いていた。

 

「み、見ろよオイ、ソフィア・チェーホワだ……! "永遠の探査者少女"だ!」

「なんかVIPが来るとは聞いてたけどよ……さっきのわけわからん電波ジャックもこれ絡みか? スタンピードを人為的に起こしたとか言ってたけど」

「12年前にもあったんでしょ、そういうの。戦争の合間に、変な奴らがモンスターをダンジョンから出してたっていう」

「モンスターハザードだな。能力者大戦の影に隠れちゃいるが、当事から探査者やってるベテラン連中にとっては忘れられない出来事だろうぜ」

 

 ヒソヒソと、語らう探査者の若手達を横目にヴァールは颯爽と歩く。WSO発足から12年、彼女はすでにある種の神秘的存在であり世界的な権威であった。

 能力者大戦の終結に向けて世界中で活躍した功績を基盤に、統括理事就任後も常に政治的な主導権を握り世界の趨勢を牽引してきた。

 

 彼女こそ大ダンジョン時代そのもの、彼女こそは永遠の探査者少女──と。

 まったく姿を変わらない不老とすら言われる容姿も相まって、ソフィアは世界中から畏怖混じりの敬意と応援を受ける立場となっていたのである。

 

 しかしそんな彼女は今、何やら急ぎ足で施設の最奥、WSOフィンランド支局の責任を担う局長の元を訪れようとしている。

 先程の不可解な事件もあり、かつ昨今この地域で頻発しているスタンピードへの緊張もある。探査者達は、そこはかとない不安に襲われていた。

 

「ここだな──失礼する! 予定より早いが緊急事態だ、ダンバートン局長はいるか!」

 

 一方のヴァールは目的地たる局長室に辿り着き、ノックをしてからすぐにドアを開けた。

 本来ならばもう少し時間が経ってからの訪問で、かつ局長の歓迎と案内を受けて訪れる予定だったのだがもはや一刻の猶予もない。

 

 人為的スタンピード……モンスターハザード再び。

 大胆にもテレビをジャックしフィンランド中に犯行声明を出した形になる件の連中、テロリストへの対策を即座に練らねばならない今、形式や格式張ったことなど言っていられない!

 

 扉を開けた向こうの部屋、広々とした空間のデスクにはフィンランドのWSO支局長、ダンバートンが座っている。

 ブロンドの髪を丁寧に整えた40歳頃の男性だ。スーツ姿でビジネスマンと言った様子だが、今は険しい表情ですぐさまヴァールに反応して立ち上がっていた。

 彼もまた、事態の喫緊さに気づいていたのだ。

 

「お待ちしておりました、チェーホワ統括理事! さっそくですが今しがたのテレビを用いた犯行声明について、話し合う必要があるようですね……ウェインさんとエミールくんもすでにこちらにおります!」

「えれぇことになっちまいましたねヴァールさん! こりゃさすがにシモーネがどうたら言ってらんねえや、すぐさま連中をとっ捕まえねえとやべえですぜ!!」

「正論だけど酷い!? は、はじめまして統括理事、レベッカさんの弟子のシモーネです! よろしくお願いします!!」

 

 同時にデスクの前、大きなソファテーブルを挟んで並ぶソファに座っていた女性二人も立ち上がった。

 先日にもヴァールと話していたレベッカ・ウェイン。そしてその弟子であるシモーネ・エミールだ。

 

 縦にも横にも大きなサイズの師匠と、裏腹に140cmと少し程度の小柄な女性だ。年の頃24歳で、くすんだグレーの髪を三つ編みにした、そばかすが特徴的な顔つきだ。

 昔ながらの友人であり同志とその弟子。平時での対面ともなれば穏やかに語らう時間もあったろうがもはや事態はそれを許さない。

 

 理解しつつも早口で名乗ったシモーネにうなずき、ヴァールは簡素に答えた。

 

「ソフィア・チェーホワだ、よろしく頼むエミール。すまんがさっそく先程起きた犯行声明と、そこで判明した人為的スタンピードについて対策と作戦を練りたい。本来予定していたスケジュールはすべてキャンセルとし、以後はここヘルシンキ、WSOフィンランド支局施設を当面の間の対策本部とする」

「了解です、統括理事。直ちに全職員ならびにフィンランド全探組および登録探査者にその旨通知いたします」

「レベッカとエミールもひとまず会議に参加してもらうが、場合によってはすぐさま出撃してもらうことになる──あれほど大胆な真似をしでかした連中だ、矢継ぎ早に何かしでかしてこないとも限らん」

「任せてくださいなァ! おうシモーネ、いきなり盛り上がってきたぜぇオイ!!」

「あ、あはは。ま、まあ頑張ります、ハイ」

 

 即断即決で対策本部を構築、ダンバートンと連携してフィンランド国内への各種通知の指示を出し、同時にレベッカ、シモーネにも実働の可能性を示す。

 突如として引き起こされた混乱、そして勃発するだろう二度目のモンスターハザード。それに向け、ヴァールは静かな無表情の中に闘志を燃やし対応をし始めていた。

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