大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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運命の出会い

 レベッカとシモーネの師弟が湖畔にて戦いを終えた頃合い。同国フィンランドの別の地域では、ヴァールがモンスターの群れに対して孤軍奮闘していた。

 森の中だ。鬱蒼と広がる緑の木々に、けれど無数の人でも獣でもないモノが蠢くのを……彼女は自前のスキルを用い、薙ぎ倒す勢いで進撃している。

 

「《鎖法》、鉄鎖乱舞!!」

「ぐぎゃああああっ!?」

「くぐげげげげえええっ!!」

「ぴぎ! ぴぎー!?」

「ちいいっ……! まったく、群れてくれる!」

 

 悪態をつきながらも放つはスキル《鎖法》。

 世界中でも唯一無二、ヴァールにのみ与えられたスキルであり、12年前の第一次モンスターハザードにおいても彼女を当時最強の能力者たらしめた力である。

 

 その名のごとく鎖を操り敵を討つスキルなのだが、他のスキルと異なり武器として使用する鎖をオートで発動させる、極めて特殊な効果。

 もはや手足を操るように自由自在な鎖を縦横無尽に花咲かせ、ヴァールは森林内のモンスターを次々撃破していた。

 

「連絡ではたしか、この付近の村を護るべく現地の探査者が一人、持ち堪えているのだったか……! ワタシでもうんざりするこの環境でこの数を相手にするなど命取りだ、急がねばまずい……!」

 

 モンスターの群れ、スタンピードを相手取ることにはなんら問題のない彼女だったが、それでも焦りととも鎖を操る手を早めていく。

 そもそもこの地を訪れた理由が関係していた。スタンピード発生の報と同時に、近くにいた探査者が一人、近隣の町村を護るために孤独に防衛戦を繰り広げているというのだ。

 

 探査者として、モンスターから罪なき人々を護るために力を振るう、これは当然の義務ながら素晴らしい心構えだ。しかし孤立無援のなかで戦いを挑むのは無謀を通り越した蛮勇でしかない。

 ゆえにヴァールは、勇敢かつ正義に満ちたその探査者に敬意を払いつつも、けれども無茶な行為については助け出してからしっかり叱りつけねばならないとすぐさま《空間転移》を用いて現地に急行したのだ。

 

 そうして今、モンスターを確実に減らしながらも彼女は件の探査者の下に近づきつつあった。

 自分の他にも、戦闘を行っている気配を感じる──《鎖法》の範囲外のモンスターが少しずつだが数を減らしているのだ。すなわちそこで英雄的探査者がいるのだろう。

 

 何があっても救わなければならない。

 ヴァールは右腕から放っていた鎖を解き、左腕を前に突き出し叫んだ。

 

「どういった人物か知らないが、絶対に助け出す……! 人々のために力を尽くし命を燃やす者こそ、これからの時代を担っていくべき者なのだから!」

「ぴぎぎぎぎぎぎっ!!」

「ぐぎゃぎぎゃきゃきゃきゃー!!」

「ゆえに! そこをどけモンスターども!! 我が罪業の鎖、その身に受けて輪廻へ還るが良い────ギルティチェイン・インピーチメントッ!!」

 

 ──彼女の《鎖法》には二種類ある。右腕から放つ細く小さく連射力に優れた鉄鎖と、左腕から放つ極めて太く大きく威力の高い、けれど一度放てば再度の発動にラグのできるギルティチェインと。

 普段遣い、そして多数を相手にした時に使うのは鉄鎖だ。連射も可能で発動も早く扱いやすい、いわば使い勝手のよさが売りだ。

 

 だがギルティチェインこそは、一度放てば現状必殺の威力を誇る、彼女の切り札とも言える鎖だった。

 それを今、このタイミングで使用するというのは畢竟、一気呵成に敵陣をかき乱し突き抜け、探査者の元へと向かうという強い突破への意欲と意志の現れだ!

 

 第一次モンスターハザード後に編み出した、インピーチメント……ギルティチェインを同時に何本も発現し、鉄鎖よりも狭い範囲ながら複数の敵を一網打尽にする技を放つ。

 途端、左腕から無数の太い鎖が射出されて前方の敵に次々と突き刺さり、突き抜けていく。致命傷を負ったモンスター特有の光の粒子が粉雪のように舞い上がり、ある種の幻想的な光景にさえ場を演出する。

 

 そんななかで。ヴァールはそして、その探査者を見た。

 ──息を呑むほどに美しく、けれど窮地に立たされていたその、少女を。

 

 青い髪を腰まで伸ばし、先端を紐でくくっている。地元の村娘のような素朴なシャツとスカート、ブーツ姿だが、今はモンスターに追い詰められていたのかいくらか破け、そこから血を流している。

 顔立ちも、あまりその手の審美に疎いヴァールをして美しいと思わせるほどに整っている。迫る死の恐怖からか涙に濡れた大きな目は髪の色以上に蒼く、肌の色は雪のように白く、けれど不健康ではない程度に血色も良く。

 

 まさか、こんな可憐な少女がたった一人で今まで、この近辺をモンスターから護っていたのか。

 無表情ながら唖然とする思いで、けれどヴァールはどうにか少女に話しかける。

 今しがた彼女の周りにいたモンスターもすべて蹴散らした。もう心配はいらないのだと、安心させるために。

 

「間一髪だったか……無事か? 探査者のようだが、よくここに至るまで持ちこたえてくれた」

「ぁ、あ……あなた、は?」

「ソフィア・チェーホワ。国際探査者連携機構の統括理事をしている。お前の名前は?」

「ぁ……エリス。エリス・モリガナ……です。ソフィア、さん」

 

 声までも涼やかで凛としていて美しい。心地よい声音で、少女──エリス・モリガナは対外的なものとしてソフィアを名乗ったヴァールに答えた。

 涙に濡れていてもなお、強く正気を保った顔つき。手にしたナイフからも、彼女こそが件の探査者であると強く確信できる。

 

 ヴァールはひとつうなずき、そしてエリスに手を差し伸べた。

 近くのモンスター達もほとんど蹴散らした、あとは少しばかりの残党を倒せば、ひとまずこの地は安全を取り戻すだろう。

 もうひと踏ん張りする前に、これだけは伝えておきたいと彼女は言うのだった。

 

「そうか、エリス。お前がこの村を守っていてくれたのだな。感謝する……立派な姿だった」

 

 労う言葉。無茶を叱りつけることさえも忘れてヴァールはただ、目の前の少女を慰撫する。

 無表情ながらも優しい声色に、エリスは呆然としたまま。それでも静かに、ありがとうございますとだけつぶやくのであった。

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