大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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強襲

 モリガナ家の居間にて、エリスは手当を受けて温かいスープを飲んで、そこでようやくひと息つけることができた。

 スタンピードを食い止めるために村を飛び出てからほぼ半日。終わり際にまさかのWSO統括理事の救いの手があったことさえ含めて、とにかく目まぐるしい一日だったと振り返る。

 

 

(ソフィア・チェーホワさん……ううん、ヴァールさん。WSO統括理事が二重人格だなんて話、聞いたことないけどたしかに写真の人だもの。それに探査者証明書もしっかりソフィア・チェーホワと記載されていたし。それなら、そういうことなんでしょう)

 

 

 シャワーにて身を清め、全身を包帯で包み。ボロボロのシャツとスカートを新しいものに着替えて。

 傷が染みるもののそれでも気分としてはスッキリとした頭で考えるのはやはり、ヴァールのことだ。

 

 今彼女は仲間と連絡を取ると言って家を出たが、この村は愛する地元ながら田舎も田舎、都会からは遠く離れているマイナーな土地だ。

 村長の家くらいにしか電話施設もないのでそちらへ行ったのかもしれない。いずれにせよしばらくは戻ってこないだろうと考え、彼女は思考に没頭した。

 

 第二次モンスターハザード解決に協力してほしい──と、ヴァールはたしかにそう言ってきた。自身の力が必要なのだと。

 WSO統括理事という世界的英雄からそのように見込まれるのは光栄ながらも、どうにも過大評価な気がして仕方のないエリスだ。

 

 ゆえにそのような鳴り物入りの形で協力するのはどうかと思うのだが、とはいえスタンピードをどうにかしたいという思いに変わりはない。

 彼女はヴァールの見立ての通り、正義感の強い性格だった。スタンピードから周囲の村々を護るために単身戦いを挑んだのも、つまるところ探査者として以前に力ある者として罪なき人達を護りたかったがゆえなのだから。

 

 だからこそ気になる。モンスターハザード、すなわち人為的な連続スタンピード発生事件が今後もこのフィンランドで起きるというのであれば。

 周囲の人達を本当に護るというのであれば、根本解決を図るべく先の提案に乗るべきなのではないだろうか?

 

「…………これがモンスターハザードだって言うなら。人為的に引き起こされてるって言うなら。誰かが止めなきゃいけないのは、分かる話だけれど」

「エリス……チェーホワさんの話を気にしているのか? あまり親としては、家族としては無理をしてほしくないんだけれど」

「そうよ、エリス。今日だってあなたが一人で飛び出していった時、どれだけ心配したことか! アーロやアイナだって、泣きじゃくっちゃって」

「う……ごめんなさい、不安にさせちゃって」

 

 ぽつりとしたつぶやきだったが、エリスの言葉を家族は敏感に聞き取って心配げな視線を向けた。

 娘の正義感、信念の強さは重々承知だ。親としては誇らしくさえあるその清らかさだが、それがゆえに自ら死地に赴くというのでは話が別だ。

 

 たとえWSO統括理事の誘いであったとしても、正直なところエリスは無関係な立ち位置だ。

 できることならこのまま事件にかかわらず、危険なことはこれきりにして、平穏無事に家族みんなで暮らしていきたい──それはモリガナ家一同の総意であった。

 

 エリスもそこまで家族に心配されては、これ以上の無理無茶をする気もない。そもそも、彼女にとって一番優先すべきはやはり家族なのだから。

 やはり、ヴァールには悪いが謹んで断るべきか。そんな想いが首をもたげた、その時であった。

 

 家の外から、複数名の悲鳴が聞こえたのだ。

 

「う、うあぁぁぁあぁぁぁぁっ!?」

「な、なんだ!? 何をする、やめろぉーっぐあーっ!?」

「お母さん、お父さん!? や、やめて、止めていぎゃあぁぁあああっ!!」

「────ッ!?」

「エリス!?」

 

 単なる叫びではない。断末魔のソレだ……即座に、直感的にとてつもない事態が起きていることを察してエリスは咄嗟に飛び出した。

 思考による動きではない、完全に本能的なものだった。"手を拱いていては家族が危ない! "という、心底からの恐怖がもたらす警告による動きだった。

 

 家族の声をも置き去りに、愛用のナイフを手に取り家の外に出る。瞬間、目に入ってくる地獄。

 近所の夫婦が血塗れになって倒れている。死んでいる。その娘もまた、首と胴体が切り離されて息絶えている。鮮血が、血溜まりとなってその周囲に小さな池さえ作っている。

 

 あまりのグロテスクさに息を呑むエリスだったが、それでも込み上げる怒りでもって心の怖気を抑えてソレを為した者を見た。

 モンスターではない、人間だ。アジア系の顔立ちで、両手に一本ずつ剣を持っている二刀流剣士。

 年はエリスよりいくらか上に見える、20代前半といったところか。残虐な殺人をしてなお楽しげに、嘲笑うかのような笑みを浮かべるその男に、エリスは激昂して叫んだ。

 

「あなたはっ! なんてことをっ!!」

「あぁん……? なんだよ、田舎娘。盛りのついた雌犬じゃねえんだ、そうキャンキャン吠えるなよ」

 

 だらりとした長身で、上から見下ろすようにエリスを見るその男。今まさに三人もの尊い命を奪ったのだろう両手の剣に付いた血が、先端から滴るのも構わずヘラヘラと笑っている。

 何者であっても絶対に赦せない。エリスは怒りのまま、ナイフを片手に突撃した。

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