大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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能力者同士の戦い

 通常、ステータスを得た者……すなわち能力者同士の戦闘行為は忌避される傾向にある。

 探査者はモンスターを倒すためにある、という共通認識が広く世界的に浸透しているため、明文化するほどの問題が能力者大戦以降、起きていなかったというのが大きい。

 

 しかし時折、散発的に能力者同士の喧嘩であったりなどで衝突が起きることもあり、そこはソフィアやヴァールはじめWSOからしても悩みどころではあった。

 探査者制度がようやく世界各国で足並み揃えての落ち着きを見せてきた今、さらに追加であれこれと規制を敷くのは混乱の元になりかねないという思いもあったからだ。

 

 また、探査者として活動している者は職業柄、荒くれ者が多数いるものの倫理的にはそれなりに高い者が多いのも関係していた。

 能力者大戦以降の教育の賜物だ……誰も好き好んで人間を相手にスキルを用い、殺し合いなどしたくないのである。

 

「でぇぇぇぇやぁぁぁぁぁっ!!」

「ほーう? 威勢のいいお嬢ちゃんだな、田舎娘ェ!」

 

 今、まさにナイフを振りかざして狼藉者に斬りかかるエリスとてそれは同じ想いだ。

 手にした力はモンスターから大切な人達の生命を護るためにある。そう信じている。

 

 だがそれでも目の前の、二刀流のアジア人の男は許せずにエリスは戦いを挑まずにはいられなかった。

 殺された3人は、エリスの近所住まいのよく見知った一家だった……なんの罪もない、善良な人々だったのに!

 

 怒りと悲しみが込み上げてきて、エリスは我武者羅にナイフを振るっている。殺意なくとも害意のある、手足の腱を狙い撃ちした攻撃だ。

 赦せない、けれど殺したいわけでもない。だからこそせめて動きを封じて逮捕する! そんな気迫の篭った連撃を放ちながら、叫ぶ。

 

「なんであの人達を殺したんですかっ!? どうしてあんな、惨いことをっ!!」

「目について障ったからだ。いわゆる目障りってやつだなぁ……お前も障るか? 田舎娘ェ」

「くっ!?」

 

 高らかに嘲笑しつつも激昂するエリスのナイフをいなす、男は能力者かどうかも定かでないが、戦士としては明らかに彼女より格上だ。

 二刀流、両手に一本ずつ持った剣は余裕を持って振るわれてそれでもなおエリス相手に優勢を保つ。目の前の少女を完全に舐めきった余裕の斬撃は、否応なしに現状の実力差を示していた。

 

 それでも。

 それでもエリスに退く気はない。

 失われた命達の無念を、踏みにじられた家族の怒りをせめてこの男に刻まなければ──!

 その想いが、彼女にさらなる猛撃を行わせていた。

 

「《念動力》!!」

「おおう? スキルを使うか田舎娘。お前、能力者……探査者だったか!」

「この、くらいなさいっ!!」

 

 虎の子のスキル《念動力》を使っての、一撃必殺狙い。手にしたナイフの刃がエネルギーに包まれ、幻想的な光を放つ。

 今のエリスにとって明らかに格上だった、ゴールデンアーマーさえも容易く切り裂いてみせた異常極まる威力のスキルだ。スキルに詳しいヴァールですら絶句せしめたこの力であれば、あるいは男にも匹敵し得る。

 

 スキルを用いた途端、異質な危険性を直感してか男はニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。ひどく酷薄で、残虐性に満ちた笑顔。

 これまではまさしく猫が戯れてくるようなもので、愛撫を受けるかのように付き合ってやっていたのだが……スキルを使ってきたならば、ここからはお互いに本気だ。

 

 エネルギーブレードが迫る。

 それにも動じず男は、二刀流を振り回して高らかに叫び、斬撃に立ち向かっていった。

 

「おもしれー女だ……興奮してきたぜ田舎娘ェッ!!」

「っ!」

「《剣術》二刀流、隼ァ!!」

 

 瞬間、流れるように剣閃が走った。まさしく隼のように滑空する斬撃と男の動きが、エリスのナイフを滑らかに避けてさらにその喉元と胴体へと迫る。

 男もまた、能力者だった。迫る刃を視認しながらも極限の中でそんなことを考えながら、タイミング的に間に合わずに直撃すると冷静な頭で考える。

 

 避けられなければ喉と胴体を切り裂かれる。おそらくは致命傷だろう。つまりこのまま行くとエリスは死ぬのだ、先ほど惨殺された一家のように、鮮血を撒き散らして、あるいは首さえ飛ばされて。

 させるものか。少女の生命力、生存本能がフルブーストした。スキル《念動力》を自身の肉体に総動員させて、己自身を操り無理矢理にでも動かす──!

 

「っ、甘い!!」

「────何ぃ?」

「犯した罪にっ……等しき、罰をっ!!」

 

 刹那に切り替わる動き。少なくとも男から見て、目の前の田舎娘の動きが極端にスイッチするタイミングがあった。

 確実に殺れたタイミング。身動きできないはずの間合いで、しかし女は突然ありえない動きをしてみせたのだ。

 

 首への斬撃を、身体全体を逸らしてギリギリのところで回避。

 同時に胴体への攻撃も、手にしたナイフのエネルギーブレードがいつの間にか防いでいた。男にとっても不可解すぎる動きで、彼女は死地を凌ぎきったのである。

 

 そして胴体に差し向けた剣を受け止めたナイフが、その超威力をもって剣を切断する。

 返す刀だ……本能的に危険を感じとってどうにか少しだけ、ほんの少しだけ身体を側面へ逸らした男の肩口を、エネルギーブレードが通り抜けて貫通した!

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