大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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レベッカとシモーネ

「はい──はい、分かりました。そうしましたらこっちも港に向かいますから、そこで落ち合ってパーティ結成といきましょうや。ええ! よろしく!」

 

 フィンランド南西部にある都市の、ホテルの一室にて。

 北欧最強の探査者である女傑レベッカ・ウェインは電話の向こう側の相手に目一杯の大声で応えて受話器を下ろした。

 縦にも、横にも大きい傑物だ。この地で発生していたスタンピードを鎮圧して今、彼女は弟子のシモーネ・エミールとともに宿にて滞在しひとときの憩いを過ごしていた。

 

 そんななか、掛かってきたのは彼女にとって恩師であり友人とも言えるソフィア・チェーホワ……その裏人格ヴァールからの電話だ。

 珍しいこともあったものだと受話器を手に取り話を聞けば、何やら数日前、フィンランドの片田舎の村にて今回のモンスターハザードの首謀組織の一員と交戦したのだという。

 

 結果として深手を負いつつもそこ戦闘員は逃走。遅れて来たWSOのエージェントが血痕などから追跡した結果、港町近くの草原までは辿れたがそこからは痕跡が消されているのを確認。

 おそらくは仲間と合流して最低限の止血の後、逃げたものと思われる。しかして近くの港から怪しい風貌の男が二人、船に乗ってエストニアへと発ったところまではどうにか掴むことができたのだった。

 

「この国のスタンピードもひとまずは落ち着いた、となりゃいよいよ攻勢だァ。ヴァールさんと落ち合い、ナンタラ言うふざけた名前の組織のボケカスどもを追ってエストニア行くぜ、シモーネ」

「能力者解放戦線ですよ、レベッカさん……それにしてもさすがですねえ統括理事は、さっそく敵組織の構成員を追い詰めるだなんて」

 

 粗雑な物言いの師匠に苦笑いしつつも、ヴァールの手際に感心する弟子のシモーネ。

 いつものクセでそばかすをポリポリと掻きつつ、さすがは"永遠の探査者少女"だと憧れと尊敬の念を抱く。

 

 しかしそれを受けてレベッカは首を左右に振った。ヴァールから一応のことのあらましは聞いていたのだ。敵の、二刀流の男と交戦し追い詰めたのは彼女ではないと。

 レベッカとしても予想外の話だった……能力者解放戦線に対して初撃とも言うべき痛打を与えたのは、まさかの現地で活動していた探査者だというのだから。

 

「いや、やったのはヴァールさんじゃなくて地元の探査者らしい。ほれ、お前言ってたろ? スタンピードから近くの村や町を護ろうとしてたっつー、気合の入ったやつだよ」

「えっ……!?」

「どうも掘り出し物を見っけたみてぇだぜ、ヴァールさんがあんなに手放しで誰かを褒めるところなんて初めて見たよ私は。エリス・モリガナってぇ名前の、まだ18歳の小娘らしいが」

「じ、18!? わ、私がステータスを獲得した時よりも若いのに、そんな……」

 

 信じがたい話に慄くシモーネ。スタンピードに単身立ち向かっただけでも命知らずの無謀だと言うのに、あまつさえ敵組織の一員とも交戦するなど、慎重かつ冷静な彼女からしてみれば絶対にしないことだ。

 そんな愚行に手を染めたにも関わらず生き延びて、挙げ句敵首謀者をも退けたという。自分よりも6歳ほども年下の、まだ子供と言って良い娘が。

 

 あり得ない。

 いくらなんでもそれはおかしいと、シモーネは半笑いで師の言葉に反論した。

 

「そ、それは〜……さすがに統括理事のジョークだと思いますよ、レベッカさん。そんな若い子が一人きりで、スタンピードから地域を護って敵能力者までやっつけるなんてありえませんって〜。意外と変な場面で下らないこと言うんですねえ、チェーホワさんも。あっははは!」

「アホかァ! ソフィアさんでもヴァールさんでも、こんなことで下らねえジョークなんか吐かすかアホンダラァ!!」

「ひっ、ひぇええっ!!」

 

 途端に返ってくるのは、大喝。尊敬するソフィア、ヴァールを疑る弟子に、レベッカが怒りの叱責を浴びせた形だ。

 部屋中に響く怒号。身体ばかりか声さえ大きな女傑の本気の怒声に、思わずシモーネは身をすくませた。さながら小動物が百獣の王にちょっかいを掛けて、怒りを買った時のように小刻みに震えて怯えている。

 

 その様を見て、少しばかりクールダウンするレベッカ。弟子の失言は師として叱らねばならないが、さりとて冷静に、何がいけないのかはしっかりと示さねばならない。

 ふう、とため息を吐いて数秒。改めて落ち着きを取り戻したレベッカは、シモーネに滾々と諭すのだった。

 

「あのな。ちょっと有望な後輩見るとすぐそうやって下げにかかる、器の小ささはおめえの一等しょーもねえとこだぜシモーネ」

「あ、あう……で、ですがそのう……」

「相手を下にすりゃテメェは上になれんのか? 違うだろ、テメェが上ぇ目指して頑張るんだろ。そのモリガナ言う娘がどんなもんかは知らねえがヴァールさんの言うこった、よっぽどの探査者なんだろうよ。シモーネの気持ちも分からんでもないけどね、そんな相手がいるんならちったぁ足引っ張ることじゃなくて切磋琢磨しようって気になれよ、なぁ」

「……………………は、はい」

 

 言葉は荒いが正論だ。少なくとも言われているシモーネ自身にもそう思える程度には、レベッカの言には説得力がある。

 これについては今までも時折、指摘されていたことだ。シモーネ・エミールは実力のある若手探査者ながら、自分より年下の者に対してはどこか傲慢な狭量さを見せる傾向にある、と。

 

 それはおそらくは自分への自信のなさ、コンプレックスから来ているものなのだろうとレベッカには予想できているのだが、だからこそ口で言ってもなかなか改善の見込めない部分で、それがこの弟子の数少ない、けれど明らかに大きな欠点だ。

 もちろん、長所も多くあるのだが……だからこそ惜しい点だと、可愛い弟子に肩を竦める師匠である。

 

「ったく。ヴァールさんはそのモリガナってのを連れて来るそうだぜ。つまりこの戦いにおいてはオメェが先輩になるんだ、あんまり舐めてかかってると私より先にヴァールさんなりソフィアさんなりに言われちまうぞ」

「う。や、やっぱり怖いんでしょうか、統括理事」

「怖くねえのにやってられっか、あんな役職! 甘ったれてねぇでせめて猫かぶりの仕方くらいは身につけとけってんだァ!!」

「は、はいぃ!!」

 

 どうにも甘さの抜けないシモーネに再度、喝を入れる。

 気になるモリガナという探査者もそうだが、どうにも大変なパーティ結成になりそうだと、レベッカは内心でため息を吐くのであった。

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