フィンランドの片田舎の草原、森林に近い地域から海辺にある港町目掛けて車が走る。どのような道でも、たとえ道でない道でも問題なく走れるオフロード車だ。
この頃最新鋭のハイテクマシンが、エンジンから唸る轟音をあげて走る。その後部座席にて二人、エリス・モリガナとソフィア・チェーホワは並んで座っていた。
「わぁ……!!」
「うふふ、もしかして車に乗るのは初めて? だとしたら少しばかり無骨な風体で、ちょっと悪かったかしら。」
「そんなことないです、チェーホワさん! 乗るのが初めてどころか、車自体直接見るのが初めてなんです、私! それもこんな、大きくて力強い……すごい速さ!」
瞳煌めかせて窓から外、流れる景色を見てはしゃぐエリスにソフィアは微笑ましさを感じて顔を緩ませていた。
能力者解放戦線と思しき、村の襲撃者とその仲間を追って……港町から船便でエストニアへ向かうべく、またその途中で仲間と合流すべく、二人は一路進行していた。
見るからに美しく年若い少女が二人、並んで微笑み合って座る様は絵になる光景だ。
実際、車を運転しているWSOエージェントの男などはこれが使命を果たすための重要な仕事の最中だという自覚を持ちつつも、けれど正直なところ目の保養だと思わずにはいられないでいる。
街を歩けばさぞや人々の目を惹くだろう、美少女の二人はしかし、団欒もそこそこに真剣な面持ちで話し始める。
まずはソフィアが、何を置いても先に語らねばならない己の身の上を説明していた。
「ソフィアで良いわ、エリスちゃん……ややこしい話で恐縮だけれど、私という存在はこうなのよ。ソフィアである私と、ヴァールである彼女。二つの人格が一つの体を共有している、二重人格体質なの」
「本当にそうみたいですね……すみません、疑るつもりはないのですが、あまりに想像もつかなかったことで」
「気持ちは分かるわ。世の中、信じられないような真実や事実は本当に信じがたいものね、うふふふ!」
二重人格というカミングアウトに、正直なところ困惑が先立つと素直な気持ちを述べるエリスに、ソフィアは怒ることなく穏やかに笑って理解を示す。
その姿もまた、彼女が本当にヴァールとは異なる存在、異なる人格なのだとエリスに教えてくる。先に知り合ったヴァールではまず浮かべない表情を見れば、それはまさしく一目瞭然だった。
そこから少し深く話を聞けば、どうもソフィアとヴァールは互いの存在こそ認知しているものの、面と向かってのやり取りなどはできないらしい。
コインの表と裏が互いに重なることはないかのように、二人で一つのWSO統括理事はしかし、永遠に交わることのない一人と一人でしかないのだと言う。
「……なんだか、寂しいですね。御自身の精神とか内面でお互い、話し合いとかできたりしないんですか?」
「できないか試してみたけど無理だったわねえ。完全にスイッチのオンとオフみたいなものなのよ。私が表に出ている間はヴァールに意識はないみたいだし、ヴァールが表に出ている時は私に意識がない。眠っている間に時間が過ぎ去るように、私もヴァールもお互いを通り過ぎていくのよ。そういうものなの」
「ソフィアさん……」
それは、どこか寂しいもののようにエリスには感じられた。実際にソフィア本人も物寂しそうに微笑むあたり、彼女からしても己の半身とも言えるヴァールと交わる機会がないのは、切なく寂しいものなのだろう。
そもそもなぜ、ソフィアがそのような体質になったのか。生まれつきなのかそうでないのか。そのあたりは語られていないあたり、詮索すべきことでもないのかもしれない。
いずれにせよ言えることは、WSO統括理事には二つのもーどがあるということだ。表向きに活躍するソフィアと、裏向きに活躍するヴァールと。
それぞれ前者が政治関係、後者が戦闘関係と役割分担はしているようでそういった意味ではソフィアは二重人格体質を存分に有効活用しているとは言えるのだった。
「私についてはこのへんにして、次はこれから先の話をするわね。まずは港町へと向かう途中、私達はWSOの仲間と合流する予定よ」
「はい、さっきヴァールさんも仰っていました。頼れる方だと……どのような方なのですか?」
「ええ、とても頼りになる女傑って感じの子よ。このへんの探査者であるあなたなら、聞いたことあるかもしれないわね──レベッカ・ウェイン。10年以上もの間、北欧最強の探査者と言われているわ」
「……レベッカ・ウェイン!? すごい探査者さんじゃないですか!」
これから車に乗って向かう先、港町前にある合流地点で出会うという仲間の探査者の名前を聞いて驚くエリス。
北欧最強の探査者……そう呼ばれる女性がいて、その名がレベッカ・ウェインであることはエリスも知っていた。同じ地域に住む女性探査者として、同じ道を征くばかりか頂点にも立つという戦士の名はさすがに覚えているのだ。
さすがはWSO統括理事。さらりと出てくる人脈がとてつもない。
レベッカの存在も驚きだがそれ以上に、ソフィアの人脈の豊かさにあらためて圧倒されるエリスであった。