大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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酒呑みの女傑

 合流地点はエストニアへの船便を利用する港町から少し離れた、自然洞穴の近くにある小さな村だ。

 立地ゆえに港からの交易品などが流通しているらしいその村は、エリスの故郷と比べてもいくらか規模こそ小さいが繁栄ぶりで言えば比べ物にならない。村人ばかりではなく旅人や行商人が多く訪れているのがその証拠だろう。

 

 店も立ち並び、特に宿と料理店、酒場などが栄えているようだ。村民に話を聞けば、近くの洞穴からは鉱石も採れるようで……近年は採掘業者の出入りも始まっているとのこと。

 となればますます今後、栄えていくだろうことはソフィアにもエリスにも分かりきったことである。

 

 "今はまだ"小さいだけで、いずれは発展していって村から町へ、あるいは都市へと変貌していくのかもしれない──

 そんな予感を抱かせる、前向きな未来が見える光景が広がっていた。

 

「ええと、たしか……酒場で待っているとか言ってたわね、レベッカちゃん。行ってみましょう」

「は、はい。それにしてもすごい活気ですね。初めてです、こんなに人がたくさんいるの」

「港町はもっとすごいわよ? 楽しみにしておいてね、うふふふ」

 

 地元の村しか知らないエリスには、見るものすべてが未知なるもので好奇心が否応なしにくすぐられる。そもそも見知らぬ人が大勢いる光景そのものに馴染みがないため、ほとんどすべてが初見となるのだ。

 そんな彼女にソフィアは微笑んだ。たしかに賑やかさのある村だが、これから向かう港町やそこから船で渡るエストニアの都市部などは、さらに大勢の人々で賑わっているだろう。

 

 それを見た時の彼女のリアクションが楽しみだと内心で期待しながらも、レベッカとの合流ポイントである酒場へと向かう。

 場所のチョイスは向こうからだ……その時点で嫌な予感を覚えつつも村の一角、酒場の看板の見える店に入る。

 予感はすぐに的中した。酒場内のテーブル、見るからに特徴的な女が酒を呷って騒いでいたのだ。

 

「ダーッハッハハハハハハ!! ここの魚は美味いねえおい! さすが港町から近くて行商も多い土地柄だ、鮮度が違ぇな酒が進むわァ!!」

「れ、レベッカさん大丈夫ですか、これから統括理事とお会いするのにそんな呑んで……あ、お注ぎしますねウイスキー原液でジョッキになみなみっと」

「殺す気かァ!! 水なりソーダなりで割るかせめて氷入れろやァ!! 大丈夫だよソフィアさんならぁともかくヴァールさんだ、呆れられても叱られたりはしねえってーのォ」

「えぇ……?」

「あの子は……!」

 

 大きなジョッキのハイボールを一息に飲み干すのは、これまた大きな女性だ。

 2m近い筋肉の塊のような巨躯、縦にも横にも大きい女傑。そしてそのサイズに見合う勢いで串刺しにされて焼かれた魚を骨ごと喰らって豪快に笑う。

 

 そんな彼女の横にはエリスよりいくらか年上の、そばかすを掻く女が一人。レベッカの空になったグラスにウイスキーをなみなみと注いではやり過ぎたと怒鳴られている。

 こちらは小柄な体躯であり、エリスとそう変わらない背丈をしている。隣の巨体が本当に巨体なこともあり、どこかコミカルなやり取りも含めて凸凹コンビのようにエリスには思われた。

 

 そんな二人、とりわけ酒を呑む女傑を見て頭を抱えるソフィア。やはりというべきか、あれが、あの二人が合流予定のレベッカ・ウェインとその弟子なのかとエリスは身構えた。

 予想以上に圧が強めで怖い印象を受ける巨躯に、慄きを禁じ得なかったのだ。

 

「…………」

「それにしてもヴァールさんとパーティ組むたぁマジで12年ぶりだなあ! こないだ妹尾教授サマやらカーンさんとこの一族にも声かけたって聞いたし、またぞろ懐かしいツラも拝めっかもしれねえ! こればっかりは能力者ナンタラカンタラいうカスどもに感謝だぁなガハハハハハ! グビグビぷはー、ゲホッゲホッ酒キツっ!」

「あ、あはは…………ヒェッ!? あ、と、ソフィア、さん……!?」

 

 そんなエリスに配慮するかのように、ソフィアはつかつかとその二人の席へと近づいていった。

 女傑のほうは食に酒に話に夢中で気づいていないが、そばかすの女のほうは彼女に気づきすぐ小さく悲鳴をあげた。顔を青ざめて口を噤む。

 

 深々とため息を一つ。それからソフィアは躊躇なく、ジョッキを持つ女傑の耳を思い切り摘んだ。

 にこやかな笑顔を浮かべ、けれど額には青筋を立ててその耳元で笑いかけたのだ。

 

「レベッカちゃん? レベッカ・ウェイン?」

「…………っ!? え、な、ゔ、ヴァールさん……っすかあ!?」

「うふふ、分かってるクセにとぼけるわね? あの子がこんなふうに振る舞うかしら。それともお酒の飲み過ぎで私とあの子の区別もつかなくなったのかしら、ねえ?」

「い、いいいいえいえ! ち、ちょっとしたジョークですよ、そ、ソフィアさん……!! お、お久しぶりです、へ、へへへへ────すみません、失礼しましたぁっ!!」

 

 久方ぶりの、かなり本気めの激怒を受けて女傑──レベッカ・ウェインの酔いは即座に覚めた。まさかヴァールでなくこちらのほうで来るとはと、パニックに近い混乱のなかでそんなことを考える。

 電話でやり取りした朝の段階では、ソフィアではなくヴァールのほうが応対していた。それゆえてっきり合流も彼女がするだろうと高を括っていたのだ。舐めているという話ではないのだが、実のところソフィアよりもヴァールのほうが昔から他者に対して甘い対応を取るところがあると知っていたがゆえに。

 

 だからこそ酒まで呑んで、パーティ結成を盛大に出迎えてやろうとさえ思っていたのだ。それが蓋を開けてみれば背後から耳を引っ張るその人はソフィア・チェーホワ。穏やかで温和な態度の割に怒るとヴァールより怖い、本物の女傑の登場だ。

 これにはすっかり参ってしまい、レベッカは慌てて謝罪の言葉を並べ立てるのであった。

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