大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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嫉妬の芽生え

 無事に合流したソフィア、エリスとレベッカ、シモーネ。

 これをもってパーティを結成して今後、港町へ向かいそこからエストニアへと逃げたらしい能力者解放戦線の男を追うことになるのだが。

 その前に食事も終えた四人は、一旦村内の宿を借りて休憩することにしていた。

 

 女四人で一つの部屋に泊まる。WSO統括理事としてそれはどうか、せめてソフィアだけは個室にすべきではないかとレベッカの弟子、シモーネは言うのだが当の本人がそれを固辞した形だ。

 この旅は犯罪者を追いかけて捕らえ、その末に第二次モンスターハザードたる今回の事件を終結させるためのもの。長期戦が予想される旅路において、余計な費用を使ってなどいられない。

 

「い、良いんですか統括理事? 休んでる間にも、敵はどこかに逃げ回ってると思うんですけど……もう夕方なので時間帯的にはわかる話ですけど、せめて港町にまではどうにか無理にでも」

「そうねえ。それもありだけれど、酔っ払って使い物にならない今のレベッカちゃんを連れ行くのは少し怖いかしら。それに件の男の足取りは追跡班のエージェントが逐一追ってるわ。今のところエストニア内を転々としているようだし、私達も海を越えれば一目散に追いかければ十分、追いつけるはずだし少しは余裕を持って行きましょう?」

「た、たしかに……浅慮でした、失礼しました」

「酔っ払いの使えねえ呼ばわりは否定しろや、シモーネェ! つうか最初からこの村で一泊するっつう話だっつーとろうが、土壇場になって言うんじゃねえや!」

 

 それゆえに部屋内で休みがてら、軽いミーティングを行う四人だがここでもシモーネが懸念の声をあげた。こんなところで悠長に休むべきでなく、すでに夕暮れだがせめて港町目掛けて今からでも進むべきではないかという進言だ。

 一理ある。ソフィアはその言にうなずきながらも、しかし他ならぬシモーネの師であるレベッカの状態を引き合いに出した。先程まで散々に酒を飲んでいた彼女を連れて暗くなりゆく街道を行くのはリスキーに過ぎる。

 

 レベッカとしては最初から合流したら一泊して、翌朝に動くつもりでいたのだから、弟子の不安や懸念など何を今さらという話でしかない。すでにここまで来たのだから、一々もしものことを考えてヤキモキしても仕方ないだろう。

 そんな思いからシモーネを一喝して、レベッカは水を飲んだ。飲み過ぎを心配したエリスが先程、持ってきてくれたのだ。

 気遣いのできる嬢ちゃんだと感心しながらも、ソフィアの言葉に追従する。

 

「ソフィアさんの言う通りで、私らの他にも当然動いてる味方がいるんだ、心配すんな。そうでなくとも少なくともエストニア行ったってのは分かってんだから、そっから先の行き先も多少は絞れるってもんよ。なあエリスちゃんよう、お前さんはどう考える?」

「私は……私も同感ですし、どうあれ敵がモンスターハザードを引き起こしている連中だと言うのなら、確実にどこかで騒ぎを起こすでしょう。少なくとも故郷の村近くで起きたスタンピードは……村を襲った男による犯行でしたから、間違いない話です」

「っ……」

 

 話の流れでレベッカに意見を求められたエリスもまた、確信に近い感覚で今、追いかけている男やその一味とは必ずまた相まみえるだろうと信じていた。

 村を襲ったあの男。名前も分からない輩だったがその性根が恐るべき残酷さと残虐さを備えているのは、実際に交戦したエリスには身に沁みて分かっている。だからこそ、あの男は逃げ回るなかでも必ずやスタンピードを起こすだろうと思えるのだ。

 

 あの男に殺された隣人を想い、膝に置いた手に力を込める。次に会ったらきっと容赦はしない、必ずや倒しきって捕らえて、法の裁きを受けさせる。

 犯した罪に、等しき罰を。探査者としてのエリス・モリガナの根幹にある正義と信念の詰まった言葉を、小さくつぶやく。

 その姿を見ていたシモーネは、にわかに俯いて唇を噛んだ。内心にて、紛うことなき嫉妬の念を抱える。

 

 

(なんなのこの子っ……! 統括理事はおろか師匠にまで気に入られてる感じで! こんなぽっと出、私がホントはそこの位置なんじゃないの!?)

 

 

 ──シモーネ・エミールにとって、今回の事件は己の立場や実力、名声を飛躍的に高める絶好の機会だった。

 北欧最強の探査者の弟子として、WSO統括理事とともに第二次モンスターハザードという災厄的事件を解決する若き英雄となるための、謂わばステップアップとして事件を捉えていたのだ。

 無論、探査者としてモンスターから命を護るという正義感や使命感もある。あるが、それ以上に自分の存在を世界に知らしめるという欲望も、たしかに強く持っているのだ。

 

 そんな彼女が望んでいたポジションに、なぜだか見知らぬ女が湧いて座っている。信じがたいほどの美貌に加え、話半分だが自分など比較にならないほどの実力さえ備えて。

 いきなり挫けた栄光へのロード。シモーネはそれがどうにも認め難く、良くないことと承知しつつもエリスに暗い感情を向けないわけにはいかないのだった。

 

「……………………」

「? ええと、エミール、さん?」

「っ。う、うん、何かな? あとシモーネさんでいいよ、エリス」

「あ、はい。あの、何か考え込んでいらしたようですので」

「なんでもないよ、なーんでも! それより、そうと決まればゆっくり休まないと! ねえ師匠、統括理事!」

「んん~? おう、そうだなぁ!」

「しっかり休みましょう。明日にはいよいよ、エストニアに向かうのですから」

 

 ドロドロとした内心を隠して、明るく振る舞うシモーネ。

 そんな彼女に誰も気づくことなく、一同はひとまずの安息を迎えたのであった。

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