大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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フィンランドからエストニアへ

 そうしてエリス達一同は、予定通りにフィンランド南部の港町へと到着。近場の喫茶店で軽くモーニングを食べた後、フェリーに乗ってバルト海はフィンランド湾を渡航。

 エストニアの地へと渡ったのである。

 

「わー! わー!! こ、これが船、すごいー!」

「うふふ、あらあらエリスちゃんたら子供みたいにはしゃいじゃって」

「内陸の村からほとんど外に出たことがないってんなら分かる話ですぜソフィアさん。さっきも街の大通りに面食らってましたし、マジに田舎上がりなんだなぁエリスちゃんはよう」

 

 数時間の船旅ながら、そもそも海を見ることさえ初めてのエリスが、さらにそこを実際に渡るのだからはしゃがないわけもない。

 フェリーの縁の手すりを掴んで、雄大な海と壮大な空。そしてそこを進む船と風を受ける己に、彼女はすっかり興奮していた。

 

 内陸の寒村、その周辺だけが彼女の世界だったのだ……それが先程の港町もそうだが、まったく未知なる光景を矢継ぎ早に見せられては、元より好奇心旺盛な彼女としては歓喜に叫ぶしかなかった。 

 その姿を見て、ソフィアはもちろんのことレベッカも素直に微笑ましく笑うばかりだ。

 

 犯罪者を追うシリアスでハードな旅路ではあるが、さりとていつでもどこでも気を張っている必要もない。

 歴戦の二人ゆえに、こうしてどこか牧歌的な雰囲気のままのどかで平和なはしゃぎ方をするエリスの存在は、一服の清涼剤さながらに穏やかな気持にさせてくれるものであった。

 

「えーと、ええと。今から行く町の全探組の場所は、と。あっ! それと宿の場所と近くの酒場も調べておかないと。統括理事がご一緒なんだし、失礼のないようにパーフェクトな下調べは必要だもんね」

「シモーネよー。そんなに気ぃ使うもんじゃねえよ、滅入っちまったらどうするつもりだあ? 宿だ酒場だ飯だ全探組だ、そんなもんは着いてから確認すりゃ良いんだよ時間がねえわけでもあるめぇしよう!」

「えええ!? そ、それはさすがにまずくないですかレベッカさん!?」

 

 一方で事前に仕入れておいたエストニアのガイドブックにて、今から向かう対岸の港町のマップや予約している宿、近場の酒場、全探組施設の位置などを確認しているのがシモーネだ。

 彼女としては、せっかくWSO統括理事との旅なのだ。しっかりと完璧な段取りで快適に過ごしてもらい、そうして自身の有能さをアピールしたいという思惑がある。

 

 とはいえそんな気遣いを毎度毎回、今から行くだろうあちらこちらの土地土地でやるつもりならばそれはさすがに無理だと、師匠のレベッカが諌めた。

 仮にも弟子だ、その秘めた野心や上昇志向については把握しているが、さりとて優先順位を履き違えてまでそれは求めるべきものではない。

 

 今、このパーティに必要なのはお偉方への接待でもおべっかやお世辞などでも快適な旅へのエスコートなどでもない。ただひたすらに実力と正義感、使命感だけだ。

 むしろそれを弁えていなければ、ソフィアはどれだけ歓待されても評価をすることはないだろう。実際、レベッカの隣で彼女は苦笑いしつつもシモーネに助言している。

 

「お気遣いは無用よ、ありがとうねシモーネちゃん。物見遊山なわけもなし、旅の合間にふとしたことで楽しみを覚えるならまだしもそれを主たる目的にするのは、ね」

「あ、あうあう……し、失礼しました……」

「そんなに落ち込まないで? あなたの真心は分かっているから。どんな時でも他者を思いやる、その優しさは探査者以前に人間として立派よ。偉いわ」

「あ、ありがとうございます! へ、へへへぇ……!」

 

 ソフィアとしても犯罪者を追って捕らえ、その先にある能力者解放戦線の撃滅が目的であるこの旅に娯楽など求めてはいない。

 そんなことに気を揉む暇があるならば、休める時には少しでも休み、来る戦いに備えて英気を養ってほしいとさえ思う。

 

 それゆえにシモーネにやんわりとアドバイスはしたのだが、さりとて若き探査者の気遣いをあからさまに無碍にするのも悪い。

 状況にそぐわないだけで、彼女の真心は間違いなく他人を思いやっているのだから。

 

 だからこそ微笑みかけ、シモーネを受け入れつつその意は拒む。そうまでされればシモーネも、どこか残念そうにしつつもホッとしたように笑ってガイドブックをしまってくれた。

 と、そこに粗方はしゃぎ終えたのか冷静さを取り戻したエリスが戻ってきた。先程までの自身を顧みて少し恥ずかしいのか、顔を赤らめつつ言ってくる。

 

「あの、陸地が見えてきました。あれがエストニアの港町みたいです……今のところ予定通りのペースですね。ここから宿を取って、全探組に?」

「ん、おう! 今朝にも言ったがエリスちゃん、おめーさんの力試しだからそのつもりでいてくれよ。ヴァールさんの言葉だけじゃ信じられねえってわけじゃねえんだが、これからともに戦うかもしれねえわけだしな。悪いが頼むわ」

「わ、分かりました! お眼鏡に適うよう、精一杯頑張ってみます!」

 

 見えてきた陸地。その報告と今後の予定について相談すれば、レベッカは不敵に笑ってエリスの肩を叩いた。

 今日はここから、宿を取って後に軽くダンジョン探査を行うのだ……新たな、そして未知なる仲間であるエリスの実力を探るために。

 

 場合によってはその探査の次第をもって、故郷に帰るべきだと言うことにもなりかねない重要なテスト。

 エリスもそれは把握しており、絶対に失望させるわけにはいかないと気炎を吐くのであった。

 陸地は、もうすぐだ。

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