大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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あまりにも特異な探査者

 山賊バット複数体を、少々の傷を負いつつも独力で倒しきったエリス。その姿を見ていたレベッカ、シモーネ師弟は揃って彼女の強さ、現時点での力量を推し量っていた。

 特に最後に見せた動き──背後からの避けられないだろうタイミングの攻撃でさえ、紙一重で回避してみせたあの動作に、強く興味を惹かれていたのだ。

 

「あの嬢ちゃん、たしかに言いやがったな《念動力》ってよ。つまりあのわけ分かんねー動きはスキルによるものってかい」

「そう、なりますね……じ、自分の身体に直接スキルをかけて動かした、みたいな感じでしょうか」

「だろうなぁ……」

 

 さすが歴戦の師匠とその薫陶を受けた弟子なだけはあり、エリスの謎の動きのタネもすぐさま明かしてみせる。とはいえ、それそのものの異様さには正直なところ、圧倒される想いを抱くしかないでいた。

 《念動力》とは一般にサイコキネシスめいた動作をするスキルだ。手を翳した物体を自在に動かし浮かし飛ばし、敵を攻撃したり自らを防御したりすることに用いるものとされている。

 

 レベッカやシモーネ自身、過去に知り合いの探査者に同スキルの保持者と親交を持っておりそこからの経験則で当初、エリスの動きを見測ろうとしていた。

 だが現実は無茶苦茶の一言に尽きた……エネルギーブレードももちろん、《念動力》を自らの身体に直接かけて操ろうなどと聞いたこともない話だ。

 

「敵モンスターにもかけて足止めしたりはできるんだから、理屈の上で言えばそりゃあ手前にもかけられるんだろうがよ。よくやるよそんな、一歩間違えりゃ何が起きるか分からねえようなことをよう」

「ナイフに《念動力》のエネルギーを収束させるやり方も意味不明です……あんなの普通じゃありません。そりゃ、攻撃力が高いのは認めますけど」

「まぁな。威力だけならシモーネどころか、このレベッカ様の斬撃すら超えちまってるぜ、ありゃあよ。まあ、言っちゃなんだがそれだけしか強みはねえが。この戦いについていけるラインではあるだろうけどよう」

「他の立ち回りは普通でしたもんね……うーん」

 

 エリス・モリガナという探査者の異質さ。スキルの異常な使い方を評価するものの、けれど裏腹の弱みや未熟さも当然師弟は把握していた。

 少なくとも現時点では、彼女はやはり若手あるいは新米だ。立ち回りも動き方も、レベッカはもちろんシモーネから見てもまったく頼りないものに見える。

 

 《念動力》を用いた戦法こそ特筆すべきものがある大きな長所だが、裏を返せば所詮はスキル頼りともいえる。

 つまりは根本的なところで力量が乏しいのだ、それが現実だ。レベッカとしては一応、これから先のこのパーティの戦いについていける最低限度のラインは超えているとみなしたが……シモーネのほうは師より見る目が厳しく、現状ではエリスの参戦は認めたくないという思いが強い。

 

 そんな弟子に、それでもとレベッカは続けて言った。その視線の先にいるのはもちろんエリスと、もう一人──

 彼女を介抱し労うWSO統括理事、ヴァールであった。

 

「そのへんの基礎部分はどうとでも補えるもんではある。少なくともヴァールさんは手ずからフォローやサポートする気満々だぜ、ありゃあよ」

「──まずまずの動きだったが、もう少し周囲に気を配れるならばより良い形に持っていけるだろう。《気配感知》は常に意識しておけ、あれは戦闘時にこそ活かしようのあるスキルでもあるのだから」

「は、はい!」

「そして《念動力》による攻撃も回避も見事ではあった。だがそれに頼り過ぎな印象も深まる。武術の類を習ったことはないようだが、そこはワタシが手ほどきしよう。体系化された立ち回りを会得すれば一気に動き方も変わるはずだからな」

「ありがとうございます、頑張ります!」

「……………………みたい、ですね」

 

 よっぽど入れ込んでいるのか、エリスにさっそく指南や指導を開始している姿にレベッカは感心しつつも驚いていた。

 自身やかつての戦友シェン・カーン、妹尾万三郎ら相手にもここまで熱の入った対応はしていなかった彼女が、その三人よりもはるかに未熟な少女探査者にあそこまで期待しているというのは意外極まりない話だ。

 

 一方でそんな二人を見るシモーネは、やはりどうにも湧き上がる嫉妬と羨望を自覚しないではいられない。

 自分のほうが探査者としては強いのに。年上で、能力だって上なのに。なのにエリスのほうが統括理事の気を引いている。それはどうしても納得いかないことだ。

 

 それだけの何か、大きな可能性がエリスにあるのだろうか? 内心に抱く感情は二人異なれど、その疑問は共通している。

 今の一戦だけでは見定めることは到底できない。戦力として仮にでも認めたレベッカはともかく、シモーネのほうはどうにかしてここで離脱してもらっても良いのではないか、という想いが──そこに個人的感情がないとは言えない──拭えない。

 

「……とりあえずは探査の続きを見させてもらおうや、シモーネ。私としちゃ、将来性も込みでなんだかんだついてきても良いんじゃねえかって思うんだが、一応な」

「はい……そう、ですね」

 

 どうあれダンジョン探査は始まったばかりだ。結論を出すにはまだ早すぎる。

 そう語るレベッカにシモーネもうなずく。けれどその視線の先にいるエリスには、やはり隔意に近い嫉みの色は宿っていた。

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