大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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エリス、合格(あるいは永い旅のはじまり)

 その後も快調にモンスターを倒していき、エリスは無事にダンジョンを踏破した。

 負傷こそ軽傷ながらありはしたものの、持ち前の《念動力》を随所に活用しての超威力の斬撃と緊急回避を惜しみなく活用しきった形だ。

 

 とはいえ一人で10体以上のモンスターを仕留めたのだ、体力的にはそろそろ限界に近い。

 ダンジョンコアのある最奥部の部屋内にて、コアを無事回収してエリスはようやく一息吐いた。軽く深呼吸して息を整え、ここに至るまでの同伴者であるヴァール、レベッカ、シモーネを見る。

 

「……終わりました。歴戦の探査者の方から見ると、拙い部分の多い動きだったかと思いますが、それでもこれが今、私にできる精一杯です」

 

 エリス自身にも、今の自分が実力的にはまったく3人に及ばない、比較的に言うなら素人に毛が生えた程度のものでしかないことは百も承知だ。

 だからこそこの探査においては今出せる全力で戦い、力を使い、モンスターを撃滅してみせた。それをもっての評価がともに戦うに足るものでないと示されたのなら、それも仕方ないと納得するためにも……力のかぎりを尽くしたのだ。

 

 そのことはヴァールにもよく伝わってきていた。レベッカやシモーネにもだ。

 そして健気なまでに精一杯戦い抜く姿に、未熟であるとか若手であるといった部分を超えた、一人の戦士として敬意を抱く。少なくとも心構えの上では文句なく探査者として相応しいものだと、やっかみを禁じ得ないシモーネですら感じ入るほどであった。

 

「よくやった、エリス。お前は立派に探査をやり遂げたのだ、そのことをまずは誇って良い」

「ああ、お疲れさんエリスちゃん。何はさておきアンタの奮闘ぶりにゃ、心揺さぶられるものがあったぜ。おうシモーネ、実力はともかくオメーはこの子の姿から学ぶべきだぜ。何かっちゃ余裕をぶっこく悪癖、この子を鑑にいい加減直しちまえや」

「うっ……そ、そればかりは言い返せません。お疲れ様、エリス」

 

 ゆえにまずは3人とも、見定めることとは別に何より先にエリスの健闘を讃えた。レベッカに至っては弟子シモーネの悪癖にさえ言及して見習うよう促すほど、彼女の姿に感銘を受けている。

 先輩達からの温かなねぎらいにホッとするエリス。だがすぐに油断しないと言わんばかりに顔を引き締めた。

 

 ここからが本番なのだ。今しがたの一連の戦いを評価してもらい、これから先の戦いに参加するに値するかどうかを決めてもらう。

 合格ならば晴れてヴァール達、対能力者解放戦線チームの仲間入りだ。件の故郷襲撃犯を追って、ひいては黒幕達とも戦い平和を守り抜くために力を振るうだろう。

 

 逆に不合格ならば……エリスの旅はここで終わりだ。エストニアの港町を軽く観光して、土産のいくつかを買って故郷に帰ることとなる。

 家族はきっと喜ぶだろう。それならそれでエリスとしては構わなかったが、大見得切って村を出たこともあり気まずさと恥ずかしさは募るだろう。

 そうした事情もあり、是が非にも合格したいところではあるのだが。

 

「さて……エリス・モリガナ」

「は、はい!」

「このダンジョン探査において君の現状の実力と戦法を見せてもらった。その上でレベッカ、エミールとよく話し合った結果だが……」

「……………………っ」

 

 三人を代表してヴァールが厳かに告げる。息を呑む緊張の一瞬、顔の強張るエリス。

 レベッカ、シモーネはいつも通りの様相で内心が読めそうで読めない。ヴァールに至っては常日頃から無表情で今もまったく淡々としている。

 

 こうなるとエリスとしてはもう、天に祈るような気分で結果発表を待つより外ない。

 まさしく《聖女》のごとく、両手を組んで祈る所作。神頼みの時を幾ばくか経て、そしてヴァールはあっさりと告げるのだった。

 

「──合格だ。君の力はこれから先の戦いにて必ず、ワタシ達の助けとなってくれる。あらためてこのパーティの一員として、ともに戦う仲間になってくれ、エリス」

「《念動力》頼りの戦法とか、それを差っ引いたら素人同然の動きやらとか課題は結構あるがよう。そんでもアンタの戦いぶりにゃ将来への大きな可能性ってやつを感じたぜ。弟子のシモーネと精々、切磋琢磨したってくれやなあ!」

「わ、私のほうが明らかに強いんですから切磋琢磨はおかしいですって! ……こほん! まあまあやると思うよ? エリスは。だから私達の補佐くらいならやれるんじゃないかな? ま、甘々ーに見てだけどねー」

「みなさん……! あ、ありがとうございますっ!」

 

 合格──すなわちエリスのパーティへの正式加入の決定。未熟なところは多々あるものの、それでも他の誰にもない一芸を持つ探査者たる彼女に、三人はたしかな期待と希望を見出したのだ。

 あらためて仲間として、より親しみのある態度で接するレベッカ。シモーネもやはり自身のほうが上だとマウントを取りつつも、けれどエリスを妹分のように扱い始めている。

 

 認められたのだ。補欠同然のような形でも、たしかにこれから先の戦いにも参加するよう求められたのだ。

 喜びと安心、そして誇らしさに体が震える。素晴らしい、尊敬すべき先輩達の期待を裏切ることは許されないとさえ思いつつ、エリスは深々と頭を下げた。

 背負った使命と責任感から、所信表明を行う。

 

「頑張ってお役に立てるよう、全身全霊で臨みます! 人々の平和を護るため、必ず能力者解放戦線を倒します!」

「よろしく頼む、エリス……だがあまり気負うな、仲間を頼れ。道中にてお前に戦闘の手ほどきも行っていくから、ゆっくりでいい、少しずつ強くなっていってくれ」

「はい……!」

 

 満足気にうなずくヴァールも、明らかにエリスに期待を寄せている様子。

 この人のこの期待を、裏切りたくはない──エリスは本心から、心の底からそう、強く思うのだった。

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