大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

61 / 175
予想外のスタンピード

 ダンジョン探査を経て、晴れて対能力者解放戦線チームの一員となったエリス・モリガナ。

 その喜びと使命感、責任感もそこそこにその日は探査を終えた後、エストニア港町の宿近くにある酒場で海鮮料理を楽しみ、ふかふかのベッドで暖かく眠り一夜を過ごしたわけであるが。

 

 翌日の朝、少しばかりの平穏な空気はすぐに破られることとなった。

 ヴァールの子飼い、WSOエージェントが宿に駆け込み速報を告げてきたのである。

 

「統括理事! 今しがたエストニア北部は北西、自然公園にてスタンピードが確認されたと現地調査員から電話通信がありました!」

「っ!? ……早いな、しかも予想外の位置だ」

「連中、素直に南下でもするのかと思ってたらこの近くをうろちょろしてるってんですかい!」

 

 急を告げる事態に、驚きを隠せないヴァールとレベッカ。それもそのはずで、二人は追跡中の敵の動きを、エストニアから南下してラトビア方面に向かうものと推測していたからだ。

 フィンランドに端を発する今回のモンスターハザード騒ぎだが、そもそも前提として北ヨーロッパ全土でスタンピードが頻発していたところに、能力者解放戦線がかの国でことを起こした形だ。

 

 つまりは北ヨーロッパ内であればどこであろうと、連中の逃げる拠点があるだろうとは元より考えられていたのだ。

 そこで件の襲撃者達がフィンランドを出国しエストニアに向かった以上、逃げ延びるなかで南下し、各国でスタンピードを引き起こしてさらなる混乱をもたらす可能性がある。

 そしてそれこそが考え得るなかで最悪のものとしてヴァールとレベッカは考えていたのである。

 

「捕捉が容易になったってのは良いのか悪いのか。いやそもそも、私らが追ってる連中とは別のやつがやらかしてる可能性もありますぜ、ヴァールさん」

「うむ。無論、別働隊による撹乱の可能性も考慮していたが……どちらにせよ起きている以上はこちらも対処せねばならん。現場近くに探査者あるいはWSOの戦闘要員はどの程度いる?」

「地方の探査者が6人とエージェントが3人、総出でどうにか自然公園内からモンスターを出さないよう食い止めています!」

「9人……でも食い止めるしかできないって、相当な数のモンスターじゃないんですかぁ!?」

 

 諸々の可能性を考慮するなかでエージェントが示した現状に、シモーネが悲鳴に近い叫びを上げた。

 10人近い探査者が総出で応対し、けれどモンスターを食い止めるのに精一杯という状態から敵の多さに思い至ったのだ。

 

 スタンピードを一人で食い止めたエリスという前例がいる分、余計に絶望感を抱く事実だ。単純に考えても通常のスタンピードよりはるかに規模の大きい、まさしく地獄の様相だろうと思えるためだ。

 そしてその思いはエリス当人も同じだった……死ぬ間際まで追い詰められたあの大災厄、あれよりももっと多く強烈な規模のスタンピードが、すぐ近くで起きている!

 

 周囲の人々や応対している探査者達を、今すぐ加勢にいかなければならないだろう!

 そう信じたエリスは、ヴァールに向けて強い眼差しを向けて願うように提案した。

 

「別働でもなんでも、私達が間に会えるのなら今すぐに向かうべきだと思います! 探査者が10人近くで抑え込むような量のモンスター……近郊が崩れれば周辺が地獄になります!」

「エリスの嬢ちゃんの言う通りですぜ! 私らが動かにゃ人が死ぬ、そんな時にあれこれまごついてる場合じゃないでしょう!」

「わ、わーレベッカさんはもちろんだけどエリスまで乗り気……もうちょい考えましょうよ、きっととんでもない数のモンスターですよ? いや、私だってそりゃー行くべきだとは思うけど、心の準備が……」

 

 気炎を吐くエリスに、レベッカもすぐさま同意して顔を見合わせうなずく。

 経験や年季、実力差を超えた探査者としての信念の共感……性格やタイプこそ違えど、この二人は有事の際、即断即決で直感と正義の向くままに駆け抜けるという一点で気の合う同士だと言える。

 

 反面、慎重派のシモーネは熱の入った師匠と後輩にブレーキをかける。気持ちは分かるが熱くなり過ぎで、そうなると命知らずな真似さえしてしまいかねないという危惧からの制止だ。

 話を聞いていたヴァールとしても、スタンス的にはシモーネ寄りだ。有事、緊急時だからこそ慎重かつ冷静に動かねばならない。

 

 だがエリスとレベッカの意見も同意できるものであり、何をおいてもまずは救うべきを救う姿勢は彼女が望む探査者像とも一致する。

 つまりはどちらのスタンスも、敬意と好感に値するものだ。それを踏まえた上でヴァールは瞬時に演算を行い結論を出し、パーティメンバーへと告げるのだった。

 

「心情の上ではエリス、レベッカに同意だがさりとてエミールの意見も重要だ、落ち着け二人とも。勢いづくあまりに無謀な真似までしては、それこそ混乱の元だ」

「っ……!」

「まずは現場付近まで向かいつつ少しでも情報を得る。エリスとレベッカ、お前達は先に行って現地勢に加勢しろ、ワタシとエミールは最寄りのWSO支部からもう少し詳細な情報を入手し、そこからスタンピード現場へ向かう」

「わ、分かりました!」

 

 それはある種の折衷案。すぐさま現場へ向かいたいエリス、レベッカを自然公園へと向かわせ、慎重に情報収集してから向かいたいシモーネと自身は一旦、WSO施設に寄ってから向かう。

 二手に分かれての作戦行動。それこそがヴァールの採った結論だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。