大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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レベッカの花道

 自然公園──読んで字のごとく自然豊かな緑に囲まれた広い土地は、今や阿鼻叫喚の地獄と化している。

 地上にまで出てきたモンスターが数十匹、暴れているのだ。どこから現れたのかも分からない怪物達は、目に付くものすべてに危害を加えていた。

 

「うぐるぁぁぁぁあああっ!!」

「きききききぃぃぃぃぃっ!!」

「ぐげげげっ! ぐげっ!! ぐけげげげげーっ!!」

「なんて数……! 私が出くわしたスタンピードよりも、なお多い!」

「ちいっ! 味方も持ち堪えてるみてぇだが、こりゃやべーなオイ!」

 

 獣、鳥、あるいは鎧。様々な形と種類をしたモンスターが視界を埋め尽くすほどに群れているのを見て戦慄に震えるエリス。

 一方でレベッカは、さすがに何度となく経験してきたゆえか冷静に周囲を見回した。この地獄を公園外にまで及ぼさないように奮闘している現地の探査者達、ならびにWSOのエージェント達を探し当てたのだ。

 

 別の方角からモンスターを相手取っている。微かに肉眼で捉えた彼らの様子は、見るからに劣勢だ。

 であればもはや一刻の猶予もない。レベッカもエリスも、冷静に闘志を燃やして敵の群れへと突撃した!

 

「エリス嬢ちゃん! 相手できるやつだけ相手してくれや!! ──かかってきなッ化物どもーっ!!」

「分かりました! 行きます、モンスターッ!!」

 

 ことここまで来ては複雑なことなど何も無い。やるべきは眼前の敵を一体でも多く倒し、苦戦している味方の力となること。そして何より、自然公園の外へとモンスターを一匹たりとて逃さないこと!

 その気構えでレベッカは手にした剣を振り回し、エリスもナイフから放出したエネルギーブレードで突貫する。実力差のある二人だが、こと探査者としての使命をまっとうする点においてはお互い認め信ずるに足るタッグの攻撃だ!

 

 まずはレベッカがその巨躯、その剛腕に目一杯の力を込めて剣を振り抜いた。

 第一次モンスターハザードから12年の歳月のなかで完成させた、彼女の技だ。

 

「《剣術》──ヘビースラッシュ・ハートブレイカーッ!」

「ぐぎぇぇぇぇぁっ!?」

「おぶぉぉぉおああああ!」

「ぴるぴるぴるぴるぴるるるるー!?」

「喰らえってんだよこのレベッカ様の豪快剣技!! 第一次からこっち、私ゃ鍛えに鍛え抜いたんだよォォォッ!!」

 

 大斬撃。モンスターを一匹ばかりか複数体まとめて引き裂いてなお余りある勢いと威力の剣技とともに、断末魔の叫びをあげる敵にも負けない大声でレベッカは吼えた。

 これしきのスタンピード、この程度の災厄で怯むことはないのだと、他ならぬ自分自身に訴えかけるような雄叫びだ。

 

 12年前の第一次モンスターハザード。そこでレベッカはモンスターばかりか犯罪能力者複数人と戦うなかで一つの挫折、敗北を味わった。

 "最強の能力者"を目指し犯罪組織・委員会に雇われる形で交戦したワルド・ギア・ジルバという男に二度も完膚無きまでに叩きのめされたのだ。

 

 一度目は酒の席を奇襲されたということで言いわけも立ったが、二度目に至っては戦場で組み合った結果、鎧袖一触とばかりに退けられてしまった。

 結局共闘していたカーンと二人、ワルドの隙を突く形で相討ちに近い勝利を辛くも手にしたというのが、第一次モンスターハザードにおける彼女の最後の戦闘の記憶だった。

 

 勝ち気で気が強く、自他ともに認める北欧最強の能力者たるレベッカとしては悔しい記憶。その払拭のため、戦後に故郷のノルウェーへ戻った彼女はこれまでにも増してダンジョン探査とモンスター相手の死闘にのめり込んだ。

 もう二度と、二人がかりでなお納得いかない辛勝を得るしかないような無様は晒さない。その一心でひたすらに己を高め続けたのだ。

 

 そして気付けば36歳。探査者としては脂の乗り切った、ピークを少しずつ過ぎて行っているような頃合い。

 なんの因果かそのタイミングで再びこうして起きた第二次モンスターハザード。これこそは神と運命の計らいなのだろうと、彼女は考える。

 

 

(さすがにもう年だ。ヴァールさんじゃあるめぇしいつまでも暴れ散らかしてられるほど、このレベッカ様もタフじゃねえ……弟子もちょうど育ってきたんだ、そろそろ落ち着く頃合いなんだろうさ)

 

 

 脳裏に過るは、やはり引退の二文字と弟子のシモーネ・エミール。全盛期も終えつつある己と、まだまだ未熟ながらもこれから育っていく期待の弟子だ。

 世代交代の時が来たのだろう。聞けば盟友シェン・カーンも最近は一族の後進に後を託しつつあると聞くし、同じく妹尾万三郎も今やすっかり日本で教鞭を執る教授様、一線を退いて弟子の育成に心血を注いでいるのだという。

 

 自分もそのように、先達として後進を見守る時が来たのだ。いつまでも前線に居続けられない、どこかで一区切りつけなければならないということなのだろう。

 そんな矢先に起きたこのハザードは、さながら最後の花道のようではないか。被害者達のことを思えば不謹慎すぎてとても口にはできないが、本音のところではタイミングの良さに何か、巡り合わせのようなものを感じるレベッカだ。

 

「だからこそ無様は晒せねえッ!! このレベッカ・ウェイン様の集大成を! テメェらモンスターどもと裏で糸引いてるクソボケどもに見せつけてやるぜゥオラァァァァッ!!」

 

 ──この騒動を機に、きっと自分は引退する。

 そう決心と決意を秘めた戦いだ。一分一秒、一瞬一撃そのすべてに探査者人生を込めてみせる。

 その勢いで剣を振るうレベッカは、ともに戦うエリスにその偉大な背中を見せつけながらも、モンスターの群れを薙ぎ倒して行くのだった。

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