猛烈。あるいは激烈。
そう評するに足る勢いでモンスターの群れを薙ぎ倒し進撃するレベッカの背中に、エリスは勇気づけられる思いでナイフを握る手に力を込めた。
話に聞く北欧最強レベッカ・ウェイン……いくらか接してみて彼女には、豪胆な印象と同時に根底にある優しさと強さがたしかにあるのを感じ取ってきた。
間違いなくヴァールやソフィア同様、偉大な先達なのだ。
そんな大人物とともに戦うこの戦場、力の限りを尽くすことこそエリスにできる精一杯だ!
「《念動力》!! 犯した罪に、等しき罰をッ!!」
「ぐるげぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!?」
伸ばしたエネルギーブレードでモンスターを引き裂く。レベッカの剛力による斬撃に比べるとさすがに勢いはないが、それでも鋭い一撃は確実に一匹一匹と敵を減らしていく。
まとめて豪快にすべてを薙ぎ払うレベッカと、丁寧に繊細に敵の急所を突くエリス。レベルの差、実力差は大きいものの戦闘スタイルとしては対照的かつ、噛み合うものであった。
そしてそれは、レベッカにとってはひどくやりやすいものだ。
自身の斬撃の派手さは、それゆえに討ち漏らしもいくらか出てくる。そこをエリスがフォローしてくれるのだから、彼女としては後顧の憂いなく前だけ向いて攻撃していられるというものだ。
迫るモンスター達にむしろ駆け寄って放つ大斬撃。まとめて複数匹を光の粒子へと変えていく女傑は後ろでナイフを懸命に振るう少女をチラと見、独り楽しげにつぶやいた。
「動きはまだまだ。そんでも威力は抜群だし咄嗟の反応も良い……何より今やるべきことってのをよーく心得てやがる。こればっかりはシモーネにゃないセンスだな」
「でぇぇぇいっ!! えいっ! やぁっ!!」
「そんでもって────良い顔してんだよなあ! まるでヴァールさんが側にいてくれてるみてぇだ! もしくはカーンさんとか妹尾教授とかよう!!」
必死の決意。この公園から一歩たりとてモンスターを出さず、かつ味方の探査者達に加勢してみせるという使命感をその瞳に宿し燃やすエリスの表情は、レベッカにとって何より信頼に値するものだ。
かつても何人かいた。師匠同然のヴァールであるとか、兄弟弟子とも呼べるシェン・カーンや妹尾万三郎だとか。
第一次モンスターハザード以前からの付き合いである彼ら彼女らもまた、今のエリスのような眼差しで敵と相対していたものだ。そして自分自身も、また。
だからこそそうした顔つきや目の輝きは、レベッカには何千何億の言葉よりも信じることができるのだ……彼女からすればそれこそが"正義の信念"を体現しているものなのだから。
「若手がそんな顔して後詰めを担ってくれてんだ! 安心できるぜ──しかし、エリスの嬢ちゃんッ!!」
「ッ! なんでしょうか、レベッカさん!!」
「このまま突っ切りゃあ、そろそろ味方の探査者まで辿り着く! んだけどよ、なんだか様子がおかしいぜ!! 見えるか、モンスターの向こう側だッ!!」
「えっ────確認します! やあっ!!」
頼もしさを感じながらもしかし、戦うレベッカは敏感に違和感を覚えた。並み居るモンスターも相当に数を減らし、もうすぐそこまで現地の探査者達を捉えていたところだ。
何やら様子がおかしい、人間同士で向き合っている。交戦している? 一瞬で嫌な予感を膨らませた彼女がエリスに呼びかければ、丁寧にレベッカの討ち漏らしを処理していた彼女は《念動力》で自身を操り、天高くに舞い空からその光景を見た。
たしかに変だ、五人がかりで一人の人間と向き合い、武器を構えている。お互いにモンスターと戦いながらも相手を警戒しているふうにも見える。
殺気立っているのはモンスターとの戦いの最中ゆえとも言えるが、しかしこれでは三つ巴のようだ。人間同士でぶつかり合うことこそしていないが、空気感としては一触即発にも近い剣呑さが流れているようにエリスには見えたのだから。
明らかに異様だ。もしかしたらと浮かんだ推測を、レベッカの近くまで着地してすぐに伝える。
「複数人がたしかに睨み合ってますね……! 五人と一人、お互いモンスターに襲われてはいますけど仲間でもなさそうです! まるで敵対者同士が、割って入ったモンスターを相手にしつつ警戒しているみたいな印象を受けました!」
「だよなあ! こいつぁもしかしたらもしかするぜ嬢ちゃん、なんせスタンピードを引き起こすっつっても、モンスターを意のままに操るなんてのはできてなさそうなんだからよ、奴さんらも!」
「それは……つまり、どちらかが能力者解放戦線の!?」
「メンバーの可能性アリってこった! だったらやるこたぁ一つだッ! このまま突っ切って直接確認するぜっ!!」
探査者であればとにかくモンスターを相手に奮戦しなければならないこの局面。にも関わらず睨み合いを続ける意味などただ一つ。どちらかがモンスター同様、探査者にとって敵対的であるということ。
すなわち能力者解放戦線。人為的にスタンピードを引き起こす悪辣なる者の一員だということなのだ。
驚くエリスに叫び、レベッカはさらに速度をあげてモンスターを薙ぎ倒して突き進む。数の多いほうと少ないほう、どちらが味方でどちらが敵かは到着してから見定める。
どちらにせよ敵と定めたほうは逃さないだけなのだ……エリスもまたモンスターとの乱戦のなか、能力者解放戦線のメンバーと思われる輩とも相手取る可能性を感じつつ、レベッカの背中を追った。