スタンピードを蹴散らして見えてきた、現地探査者の集団。たしかに様子がおかしく、モンスターを相手取りながらも警戒し合っている複数人と一人の睨み合いの様相を呈している。
複数人の探査者達と、もう一方、長い金髪を伸ばした男の両方を同時にレベッカもエリスも注視していた。
黒いローブを纏ったスーツ姿。手にした弓と矢が武器ということなのだろう、しきりに探査者パーティのほうに攻撃を仕掛けては、近くにいて襲いかかってきたモンスターをついでとばかりに射抜く。なんでもない一撃だが、狙いは正確無比な射撃だ。
対してそれに応戦しているパーティのほうは、どちらかといえばモンスターをこそメインターゲットにしている。剣や斧、槍で武装しつつ連携の取れた動きは熟練の、そして慣れたやり取り。
それらを見て取って、即座に判断を下す二人……レベッカは躊躇なくローブ姿の男の近く、モンスターを切り払いながら接近しエリスは複数人パーティのほうへ近づいた。
どちらもまずは誰何を問う。
「WSOはチェーホワ統括理事達からの助っ人だぁっ!! どういう状況だ、テメェなんでモンスターより人間のほうを狙ってやがる!!」
「……………………来たか、WSO」
「統括理事の指示を受け助太刀に来ました! ですがどういうんです、この土地の探査者の方々がスタンピードを食い止めていると聞いたのですが!」
「っ! 助かる、あっちの男が能力者解放戦線のメンバーだ! 近くのダンジョンから這い出てきたと思ったら、モンスターを大量に誘き出して地上にまで!!」
矢継ぎ早の質問に、けれど対照的な反応を返す一人と複数人。ローブ姿の男は静かにレベッカへと手にした弓矢を向け、パーティのほうはモンスターとの戦いの合間を縫って現状を端的に説明した。
その時点でもはや、事態の把握は容易だった。パーティのほうが嘘を吐いている可能性も考えられたが、ローブの男がレベッカにさえ殺意を向けていることがすべてを物語っているとエリスは考えた。
モンスターをダンジョンから引きずり出し、この地獄を現出させた悪魔のような輩……能力者解放戦線のメンバー!
警戒と危機感から敵へ目を向ける。エリスのやり取りを耳にしていたのだろうレベッカは、即座に男に切りかかっていた。
「テメェのほうかよ、やっぱりなァ!! 良い度胸してんじゃねえか、ノコノコと姿見せやがってよォォォッ!!」
「レベッカさん!」
「ふん、レベッカ・ウェイン……それによく分からんが小娘か。ウェインのほうは予定通りではある。さすがは閣下と言ったところか、たしかに御覧になった光景のとおりだ」
「ぬぁにを、ゴチャゴチャ吐かしてんだよコラァァァッ!!」
エリスが思わず叫ぶほどに鋭い斬撃。細身の長身であるローブの男よりも一回りも大きなレベッカだが、鍛え抜かれた肉体が繰り出す動きは体格差を感じさせないほどに早い。
しかし男はまったく動じることなく、そうした攻撃に対応した。手にした弓を手首のスナップで器用に動かし、レベッカの攻撃を一度、二度と軽く横合いから叩いて軌道を逸らしたのだ。
初見にも関わらず、動きを見切っている。
直感的に不利を悟りながらも、しかしレベッカは追撃を仕掛けた。斬撃の勢いのままにタックルへと移行したのだ。
縦にも横にも大きな巨躯が、自動車に近い速度で放つぶちかましはさながらブルドーザーだ。まともに喰らえばモンスターであってもただでは済まない。
いわんや見るからに細身の男ではひとたまりもないだろう。そう、モンスターに対応しつつもエリスや他の探査者達も見ていたのだが。
「悪いがそれは"すでに視ている"。敬愛する閣下のお力の賜物だな……《念動力》、オーヴァー・ザ・フューチャー"ビューティフル・ワールド"」
「殺しゃしねぇけど死ねやコラ──んなっ!?」
「スキル、私と同じッ!?」
──静かにつぶやきスキルの発動を宣言すると同時に、男の目が金色に輝いた。たしかに告げられたその名称、《念動力》。
同じスキルだ。エリスが思わず叫んだ、次の瞬間。
タックルを放っていたレベッカの、すぐ脇をなんの焦りもなく男は踏み込み回避した。流れるような動作で、音も立てない静かな速さで。
そしてすれ違いざまに、手にした矢の先端でレベッカの首を狙い、鋭い刺突を放ったのだ!
「や、べえ────!?」
「ッ、《念動力》ッ!! レベッカさんを、動かし、てぇぇぇっ!!」
「!?」
信じがたい自然さ。"まるで最初から分かっていた"かのような動きに、すでに全力で突き抜けているレベッカ自身では反応できない。
狙いは明らかだ、頸動脈を掻き切っての一撃必殺……いかな高レベル探査者であっても急所は急所、まともに受ければ死にかねない!
……だがそこで、咄嗟にエリスが《念動力》を行使した。そのスキルの本来の動き方に近い、レベッカに手を翳して無理矢理に動きをコントロールしたのだ。
己自身を操作にする技法の応用だ、やり方はさほど変わらない。その力でもって彼女は、危機に瀕していた先輩を操り男の凶矢から逃れさせたのだ。
「《念動力》だと。我がスキルと同質の能力者か、あの小娘!」
「ぬぉあっ!? な、な、んじゃこりゃ、勝手に身体がぁ!?」
「レベッカさん、一旦戻ってきてください! この男、何かおかしいです! 動きが……あまりにも、おかしい!」
これには男もレベッカも驚愕に叫ぶ外ない。
周囲のモンスターもそれなりに数の減ってきた中。それでも新たな脅威の出現を誰よりも警戒しながら……エリス・モリガナはレベッカを近くにまで寄せて、仕切り直しを図った。