現地探査者達やWSOのエージェント、ならびに警察や救急隊などもやって来て今や自然公園は騒然の一言だ。
そんななか、少し離れたところに設置された櫓の下で一休みがてら合流したヴァールとシモーネは、それまでの経緯について話を聞いていた。
自然公園での戦闘。迫りくるスタンピードによるモンスターの群れと、それを引き起こしたと思しきローブ姿の男との顛末。
さらにはその最中に起きたレベッカの危機とエリスの献身的な救助まで含めて、レベッカ、エリス両名から説明を受けたヴァールはなるほどと一つうなずき、そして言った。
「状況は把握した。ひとまずはレベッカに大事がなかったようで何よりだ。エリス、ありがとう。君の献身で彼女は危機を脱したのだ」
「いえ、そんなことはないですよ。私は、咄嗟にできることをしただけですし」
「そんなことあるんだよエリスちゃんっ!! アンタは命の恩人だ、私ゃすっかり見誤ってたよう! アンタほどの探査者は世の中にゃ早々いやしねえーっ!!」
「れ、レベッカさん……」
すっかりエリスに肩入れするようになったレベッカが、大袈裟なまでに感動に咽びながらも巨体を震わせた。その場の他三人を完全に置き去りにして、自身の恩人への敬意と感謝をひたすら叫んでいる。
あわや死ぬ寸前だったところを救われたのだ、彼女ならばこうなるだろうとは付き合いの長いヴァールやシモーネには分かるのだが、当のエリスからしてみれば唐突な変わりようで二の句が継げない。
少し前まで荒くれた女傑そのもの、武闘派そのものといった彼女。自分に対しても厳しくも優しく導いてくれた先輩が、どうしたことかこの変貌。
困り果ててヴァールに助けを求める視線をやるも、無表情に肩をすくめるばかりだ。まあ仲良くなる分には困ったことでもないだろう。そう言いたげな様子である。
「あのレベッカさんが完全に信頼してる……エリス、そんな……」
一方でそんなレベッカの様子に心穏やかでないのはやはり、愛弟子であるシモーネだ。困惑と愕然が入り混じった表情で二人を見、とりわけエリスへの視線には拭いきれない負の感情を宿している。
経緯を聞けば理由は分かる。そもそも情に厚く感動屋な師匠なのは彼女も知っているのだし、そんな人が後輩で新人探査者に命懸けで救われれば当然、こうなるだろうことも分かる。
だが……それでも思ってしまうのだ。なんでこの子ばっかり、あまりにズルいと。
出会って数日でしかないが、その間にもエリスがヴァールから信じられないほどに期待され、信頼されていることは嫌でも分かった。レベッカも実力はともかくその姿勢、信念には気に入ったものを見出していたようだし、正直なところシモーネとて可愛い後輩だとも思う。
(たしかにエリスは強いしすごいよ。レベッカさんを助けてくれたことも、感謝するよ。だけど……私のほうが強いのに。ズルいよ、この子ばっかり機会に恵まれて)
──けれど、それでもズルい気がしてならない。
自分が求めて止まない統括理事からの期待や信頼、師からの敬意や友情を、わずか数日の間に勝ち取ってしまった眼の前の小娘が、どうしても認め難い。
醜い嫉妬、妬み嫉みでしかないと自覚しつつも、シモーネはどうしても内心で歯噛みしないではいられなかったのだ。
嫉妬は理想を歪め、やがては現実をも見損なわせる。エリスへの暗い感情に囚われ、少しずつだが徐々に、確実にシモーネの目が曇っていく。
"彼女でなくて、自分だったらきっと、もっと上手くやれたのに"。そう、どうしてもそんな思いが彼女の心に一点、染みのように生まれていた。
(私のほうがやれるのに。自然公園に私がいれば、もっと上手く早くレベッカさんを助け出せたしきっとローブ男だって倒せた! そうだよ、エリスだったからまんまと敵に逃げられたんだ。そうに違いないんだよ……!)
元よりネガティブな性格で、とかく肩書や権威権力、特別感を重視する傾向のあるシモーネ。それゆえにこれは、はじめから定まっていたことなのかもしれない。
自分より年下で、なのに一点だけでも自身を上回る部分があり、かつ権威権力からの信頼を得ている。そのくせそのことに無自覚で、確固たる自身の正義や信念に沿って動くエリスとの相性は──最悪なのだ。
静かにうつむき、暗い瞳でエリスを見るシモーネ。傍目から見れば一人、具合が悪くなったようにも見える。
ヴァールがそれに気づいて何気なしに声をかけた。彼女からしてみればシモーネとて友人の弟子だ、気にかけないわけもない。
「……エミール? どうした、具合でも悪いか?」
「…………あっ、いえ! その、エリスにはレベッカさんが世話になっちゃったなーと! あははは、ありがとね!」
「い、いえ。その、困った時はお互い様ですから」
「そう言えるエリスちゃん、アンタは立派だよ! 私もシモーネも見習わにゃならんよこういうところよう、なあシモーネっ!!」
「あ、あはは……ですねえ」
慌てて取り繕うようにエリスに感謝の言葉を投げれば、やはりシモーネの価値観とはズレた答えが返ってくる。"良い子ちゃん"だなと、彼女の内心の黒い部分が小さくつぶやく。
それを盛大に讃えるレベッカもまた、敬意とは裏腹にストレスを感じさせるもので……誤魔化しに笑いながらも、シモーネはどうしようもない鬱屈をその身に宿すのだった。