大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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第一次モンスターハザード

 結論から言えば、妹尾が報告した連続スタンピード事件はすべて、人為的なものだった。

 各地で異常頻発するモンスターの地上進出を、手引している者達がいたのだ。わざわざダンジョンに入り込み、自らを餌としておびき寄せる形で。

 

 そう、その者達は能力者による組織だ。集団であることだけは妹尾も掴んだのであるが、その詳細な情報についてはすべてが謎のヴェールに包まれた集団。

 そんな連中が大戦の裏で、人々を恐怖に陥れていたのである。

 

 その報告を受けたソフィア・チェーホワが直接、委員会を叩くべく世界各地を訪れ始めて数ヶ月、1944年中頃。

 彼女はついにその足がかりを得ようとしていた。中国は上海近郊の荒野にて、ダンジョンから大量のモンスターを引き連れた女を見つけ出したのである。

 

「ついに見つけました。この世を戦慄の恐怖に陥れようとしている者の一人」

「……はぁん? チッ、見られたのかしら」

 

 荒野に空いた穴、ダンジョン。そこから出てきた中年の女性。小太りと評せる程度には大柄な、40代頃の女だ。

 勝ち気、といよりは嘲りめいた笑みを浮かべては、ソフィアに対して手にした棍棒を向けている。

 

 ダンジョンに出入りしていた以上、この女も能力者だ。そしてこれまでに得た情報から勘案するに、彼女こそが一連のスタンピードを引き起こしている、張本人の一人。

 "手紙を介した打ち合わせ通り"に、ソフィアは静かに目を閉じた。祈るように胸元にて手を組み、つぶやく。

 

「もう、私には戦える力はないけれど……ともに戦うあなたがいてくれるものね。お願いよヴァール。私達の使命のために、その力を振るって」

「…………? なによ、急に女が一人こんなとこに現れたかと思ったら、まさかお祈りって?」

 

 女……ハオ・メイリィは怪訝な顔で目の前のいけ好かない女を睨んだ。年端もいかない小娘の見た目、だが何か、なぜか異質感がつきまとう。

 まるで老人のような泰然とした静けさ、威容を感じるのだ。そしてそれは、自尊心が強く見下されることを何より嫌うメイリィにとっては屈辱でしか無かった。

 

 殺してやる。率直にそんな考えに至る。

 ステータスを得てからはずっとそうやって生きてきた、自分を馬鹿にするやつは全員、関係者まで含めて全部殺したのだ。そしてそうした好戦性を見出され、彼女は組織に入った。

 

 今回もそうするだけだ。そうしてきたように。

 後の世においては犯罪能力者として歴史に名を残すこととなるハオ・メイリィは、息をするより当たり前に命を奪えてしまう人間だった。

 

 ────だが。そんなメイリィをして息を呑む変化が、目の前の小娘に訪れた。

 その雰囲気が劇的に変わったのだ。祈り、目を閉じていた姿がひどく虚ろな、冷淡なものに変わるのを見た。

 

「な、に……?」

「────嘆かわしいことだ。ワタシが対峙するモノの中に、よもやオペレータがいるとはな。演算からの予測はしていたが、まったく嘆かわしい」

 

 まったく違う表情、言動。立ち居振る舞いさえも変わってしまっている。放つ威圧が増している。

 相対するだけでも戦慄が全身を貫くような姿。理屈でなく実感として伝わる恐怖が、メイリィを自然と震わせていた。能力者となってからは久しく感じなかった、心底からの畏怖である。

 

 それでも持ち前の負けん気から、震える声で女は気炎を上げる。

 極めて冷たい視線を投げかける目の前の女がナニモノであれ、自分を舐めた輩は許さない。残虐非道な組織の幹部、能力者大戦の陰に潜んで悪を成していた女の胆力である。

 

「何者……! 何者なのよっ!?」

「ヴァール──否。能力者同盟盟主ソフィア・チェーホワ。お前達の野望を阻み、世界に能力者達の居場所を作る者」

「ソフィア・チェーホワッ……!! そうか、アンタが噂の……!!」

 

 それに対して応えるは、ソフィア・チェーホワという名乗り、否。

 たしかに彼女はソフィアだが、けれどたしかにソフィアではない。裏の人格……彼女と身体を共有しているもう一人の人格が表出し、名乗りを挙げていたのだ。

 

 ヴァール。ソフィアと近しい間柄の者にのみ知らされる裏人格の本当の名前だ。

 二重人格とはまた少し異なる状態なのだが、結果として一つの体にソフィアとヴァールという二つの人格が宿っている以上はそう捉えるしかないと、彼女を知る者はそう結論付けていた。

 そして。

 

「《鎖法》鉄鎖乱舞」

「んなっ────!?」

「ぐげががっ!?」

 

 おもむろにヴァールが、その右腕をメイリィに向けた瞬間。その腕に巻き付く鎖が顕現し、花開くかのように無数に前方へと放たれた!

 それらは背後、今しがたメイリィが出てきたダンジョンへと向けられており。もっと言えば今しがた、自らを囮としてまで誘き寄せたモンスターの一団がおり。

 

 ……奇声ともつかない断末魔の叫びをあげ、地上に溢れようとしていたソレらがまとめて、鎖に貫かれて消滅していった。

 流血はない。倒されたモンスター特有の、光の塵となって消えていく現象だけを残す光景があるばかりだ。

 

 唖然とするメイリィへと、ヴァールが冷たく、冷然とつぶやく。

 

「背後のダンジョンからモンスターが出てきているな……自らをエサとしたのか。愚かしいことをする」

「な、にを……何をしたのっ! アンタァッ!?」

「能力者として当然のことを、モンスターを倒したまでだ。《鎖法》……罪の鎖はすべてを貫き悪を断つぞ。今この時においては貴様という悪をな」

 

 一瞬でメイリィの画策を叩き潰したヴァールが、なおも右腕を告げる。

 スキル《鎖法》。彼女が、ソフィアとともに使命を果たすために自ら望み得た力。あるいは彼女自身の、罪の象徴ですらあるかもしれない。

 

 そんな力を向け、能力者同盟盟主の裏人格は敵組織の幹部と向き直った。

 大戦終結に向けての活動と同時並行で、ここから一年ほど行われた戦い──"第一次モンスターハザード"の始まりの戦いだった。

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