大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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国境付近へ

 自然公園でのスタンピードから一夜明けた、朝。

 宿の一室にて集まったヴァールとエリス、レベッカ、シモーネはそれぞれ、互いの体調や状態を確認していた。

 

 何しろ激戦から間もない今だ。今後引き続いて火野源一およびニルギルド・ゲルズを追うにあたり、仲間の体調は常に気にしておく必要がある。

 ダンジョン探査においてもこれは同じことが言える、ともに戦う探査者同士としての相互チェックの振る舞いだった。

 

「特に顔色の悪い者、体調不良の者はいないか? とりわけエリスとレベッカ、疲れは取れただろうか」

「はい! おかげさまでふかふかのベッドで寝られましたし、昨日のお夕飯も今日の朝ごはんも信じられないくらい美味しいものをたくさんいただきました」

 

 ヴァールからの確認に、元気よく答えるエリス・モリガナ。昨日のスタンピード戦、イルベスタ戦ではさすがに多少疲労も見えていた彼女だったが今ではすっかり顔色も良くなっている。

 何をおいてもよく食べてよく寝ることこそがよりスマートな体力回復につながる。そう言われて昨日の夜から今朝にかけて、彼女は食事をよく摂り睡眠時間もしっかり取った結果だった。

 

 一方エリスの隣でソファに座り、いやむしろふんぞり返って不敵な笑みを浮かべる巨体がいた。言わずと知れたレベッカ・ウェインである。

 こちらはエリスに輪をかけて元気いっぱいの様子だ。昨夜も今朝も人の10倍は飲み食いし、その尋常ならざる超肉体に恥じない驚異の治癒力を発揮したがゆえの、全回復だ。

 

「ガッハハハハハハッ!! うめぇー飯にうめぇー酒! そんでもって一晩夢すら見ずにガーガー寝りゃあ大概の場合、元気になるもんなのさぁ! 私ゃいつでも行けますぜヴァールさん、早えとこ火野だゲルズだンとこ追いついて全員、ぶちのめしてやりましょうやぁっ!!」

「れ、レベッカさんどうどう。元気になって良かったですけど、元気すぎですってほら、鎮静剤代わりにウイスキーの瓶です」

「アル中かァ!? てめぇ素面の時のが質悪いってかコラァ、あぁん!?」

「少なくとも今現在は質が悪いな、うむ」

 

 豪快な笑い声を上げ、すっかり完全復帰したレベッカにシモーネは引きつった顔をしつつも酒瓶を差し出す。テンションが高い時の師匠がどれだけ傍若無人に振る舞うのかを熟知するがゆえの、即時即答であった。

 しかしてレベッカ当人からしてみれば馬鹿にされているような気にもなるこの振る舞い。こういう慇懃無礼なところもシモーネの良くないところの一つだとさえ、内心にて師匠として評価を下す。

 

 そうした師弟のやり取りに静かにツッコみつつも、ヴァールはコホンと咳払いした。目下のところ、四人のなかで特に昨日のことで消耗しているエリスとレベッカでもここまで元気ならば問題はないだろう。

 もう一日休む必要がなく、つまりはその分だけ追跡中の火野とニルギルドを追えると判断して──ヴァールはおもむろに手を虚空にかざし、スキルを使用した。

 彼女だけが持つ不思議な力、ワームホールを生成したのだ。

 

「エミールも特に体調に異常はなく、もちろんワタシも問題ない。つまりは四人ともいつでも動けるというのならば……さすがに急がぬ理由もないのでな。《空間転移》!!」

「! で、出た!」

「異なる二地点をつなげる、ワームホールを形成した。行き先はエストニア南端、ラトビアの国境に面した町バルガの近郊だ」

「エストニアの端から端まで、たった一秒とてかけずにワープだなんて……!」

 

 いつでも動けるがゆえに形成された、人間が一人入れるほどのワームホール。ポッカリと中空に開いたその穴の向こうには、人気のない森林の内部らしき木々の風景が見える。

 この穴を潜るだけで。それだけでエリス達は事実上、このエストニアという国の北から南までをショートカットできることになるのだ。

 逃げた能力者解放戦線メンバーの追跡という現在のミッションを遂行するにあたって、ここまで無法な能力はないとエリスもシモーネも思えていた。

 

 おそらくは火野とニルギルドの逃亡を手助けするための囮だったと推測される、自然公園でのスタンピードとそれを引き起こしたイルベスタ・カーヴァーン。

 対応せざるを得なかっただけに敵の思惑通り、逃亡者達はそれ相応に距離を稼げたと思っているのだろうが……そんな思惑などこれで一瞬で無に帰す。圧倒的なまでの距離を一瞬で移動することによって、あるいは回り込みさえできるかもしれないのだ。

 

「す……すごすぎますよ統括理事。こんなの」

「昨日も言ったが不法出入国になるため国境付近までの移動が限度だ。火野、カーヴァーン両名がすでにラトビアまで到着している可能性もあるが、それは着いた先のWSO施設からエージェントに電話して情報を待つ。そして回り込めているなら迎え撃ち、先回られていたなら引き続き追いかけるだけだ」

「へへへ、分かりやすくて良いですね! さあて奴さんら、まだエストニアなんだかラトビアなんだか、あるいはリトアニアにまで行っちまってるのか!」

 

 絶句するシモーネにも構わず今後の方針を語るヴァール。慣れたものでレベッカはやはり笑っているが、エリスとしてはシモーネに近しい感情を抱くほかない。

 

 これがWSO統括理事。これがソフィア・チェーホワの裏人格ヴァール。

 これほどまでに特殊かつ圧倒的なスキルを持つ永遠の探査者少女と行動をともにするということの意味を、彼女は改めて深く考え始めていた。

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