大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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新たな仲間の予感

 ヴァールの持つ瞬間移動スキル《空間転移》によるワームホールを潜り抜け、エリスパーティはまさしく一瞬でエストニア北部から南端、バルガ近郊にまで移動した。

 緑豊かな光景はエストニア国内であればどこにでも見られるものだが、それでも地域による空気感はやはり異なり……であるがゆえ、エリス達に空間転移をしたのだという実感をより強く持たせるものとなっていた。

 

「す……すごい。こんな一瞬で、本当に南端近くまで……?」

「昨日、自然公園にまで移動した時にも圧倒されましたけど……これが、ヴァールさんのスキル……!」

 

 昨日のスタンピード戦の際に一度、空間転移を体験しているシモーネとエリスだが……改めてそのスキルのすさまじい有用性を理解して、絶句せざるを得ない。

 法的な、あるいは秩序的な面を気にして今回はエストニア国内の端から端までの移動となったが。ヴァールの様子からすればおそらくはやろうと思えば、それこそ本当に遠い遠い極東であれ地球の裏側であれ同じように一瞬で移動してしまえるのだろう。

 

 反則だ。

 あまりにも常識外れなスキルの効果に、聡明な二人は否応なく戦慄しないではいられなかった。

 その様子を少し離れたところで眺め、レベッカがケタケタ笑いながらスキル保持者その人、ヴァールへと話しかけた。

 

「へへへへ、驚いてやがらぁ二人とも! あーゆーのを見ると私や妹尾教授、カーンさんも初めて体験した時はまったく同じ感じだったのを思い出しますぜ、ヴァールさん」

「うん? ……そうだな、君達に限らず初見では必ず驚かれるのがこの《空間転移》だ。いかなスキルであってもさすがにこの手の効果は早々見かけないのだから無理もないのだが、少々反応に困るのは今も昔も変わらんよ」

 

 まったく無表情のまま、クールに受け答えするヴァールはその手に握る地図帳に目を向ける。エストニア国内のものであり、今開いているページは特に都市バルガ付近のものだ。

 ワームホールを開いた地点にペンで印をつけ、そこから最寄りの都市中心部にある全探組支部兼WSO支部施設に向けてルートをなぞり書いていく。

 

 徒歩にして1時間ほど。

 ヴァールは演算を終え、未だ固まるエリスとシモーネ、そしてそれを見て笑うレベッカにも告げた。

 

「聞け、三人とも。ここから最寄りのWSO支部に向かい、火野とゲルズを追っているエージェントと連絡をつける。未だエストニア内にいるのか、はたまたすでに出国しているのか。その程度はどうにか当たりをつけるぞ」

「その結果次第で私達の次の行動も変わりますね、ヴァールさん」

「うむ。だがどちらにせよ、一つ決まっていることがある。パーティメンバーの新規追加だ」

「んんっ!? 私ら以外にもまた誰か、合流するってんですかい」

 

 未確定の敵の動向と今後の行き先。まずはそこをたしかめないことには始まらない──能力者解放戦線の首魁、オーヴァ・ビヨンドの元にたどり着くためにも、なんとしても火野とニルギルドの居場所は突き止めなければ。

 そこについては誰も異論のないパーティだったが、続く新規メンバー加入の報せには誰もが寝耳の水であり盛大に驚くこととなった。特にレベッカなどは大袈裟なまでに巨躯を震わせ、目を見開いている。

 

 そもそもこの四人で今後とも能力者解放戦線を相手取っていくと思っていたのだ、彼女は。そしてその上で敵を倒しきれるだけのポテンシャルがあるパーティだと、エリスやシモーネをも見計らっていた。

 そこに新メンバーが合流するとなると、見立てがどう動くか分からなくなる。仲間が増えるのはもちろん良いことなのだが、反面、人間関係の部分で不和が生じたりしない保証もないからだ。

 

 実際のところ、レベッカの考えは正しいが同時に間違ってもいる。人が多くなれば関係性の面で考えるべきことが増えるのはたしかだったが、すでに不和の種はこの四人のなかにもあり得るのだ。

 シモーネ・エミールによる、エリス・モリガナへの一方的な嫉妬と羨望。理性と良識こそ機能しているが、それはたしかにすでに芽生えている。

 師であるレベッカは、弟子の内心に気付けないでいた。

 

「……誰がどのくらい来るってんですかい? 私らの誰か、知ってるやつですかね。いや、誰だって別に良いんですが、実際に会うまでに最低限の心構えはしておきてえんですが」

 

 そんなことも露知らず、レベッカは怪訝な面持ちでヴァールに尋ねる。ヴァールが言った以上、合流するのは確定事項だ。止める理由はないし止められるわけもない。

 だからこそせめて、事前にどのような輩が来るのかを知っておきたかったのだ。知っておくのと知らずにいきなりとではまったく違うのだから。

 

 問いかけにうなずくヴァール。彼女としても別にこれは、隠しておくことでもない。

 ただ合流の話自体が昨日、シモーネとともにスタンピードの情報を集めるべくWSO支部に行っていた際に出てきた話なので、このタイミングでの話が最適かつ最速だったのだ。

 

 ──元々"彼ら"には半月前から協力を要請し、北欧にまで来てもらっていた。スタンピードの対応に際して人員不足気味な地域のサポートやフォローに、回っていてもらったのだ。

 それがエリスとの出会いを皮切りにこの一週間ほどでずいぶんと状況が動いた。今や対能力者解放戦線のメインストリームは火野とニルギルドを追跡し、その先にいるだろうオーヴァ・ビヨンドの喉元にまで決死の刃を突き立てる自分達四人となったのだ。

 

 だからこそ、ヴァールが"彼ら"にも合流を頼んだのは自然なことだった。何しろレベッカにも肩を並べる探査者とその弟子だ、間違いなく力になってくれる。

 そう信じさせるだけの功績があるのだ。それをよく理解しているWSO統括理事は、レベッカ、エリス、シモーネに向けてついに、合流予定の新たなる仲間の名を明かしたのだった。

 

「──極東日本にてモンスター学の教授を務めている妹尾万三郎。そしてその弟子であり、すでに探査者として独立しているトマス・ベリンガム。ここからそう離れていない、リトアニアの北部にて待つ彼ら二人と……こちらから出向くなりあるいは呼びつけるなりして合流するぞ。彼らの力は、必ず役に立つ」 

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