大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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火野とニルギルドの現在

 エストニア南部にある都市バルガ。その中心部にWSO支部施設がある。

 全探組──全エストニアダンジョン探査者組合協会──の支部とは同じビルの別の階層同士という、現地の探査者からしてみれば有事の際に両組織に問い合わせしやすい立地であると言えるだろう。

 

 空間転移以降、一時間ほどを歩いて来たヴァール達はそのビルを訪問していた。

 WSO支部施設から、火野とニルギルドの追跡を行っているエージェントと連絡をつけるためだ。そして二人の行く先をある程度推測して、そこから自分達パーティの指針を決める。

 そういう手筈だった。

 

「さっそくだが支部長、エージェントとの連絡は取れるか?」

「問題ありません。統括理事のご意向を受け、エストニア内のあらゆるWSO支部は件のエージェント達と緊密な連携体制を取っております。すでに統括理事が当支部にお出でだというのも連絡済み、後は定時報告を待つばかりです」

 

 支部の責任者である支部長と、応接間にて電話を待つ。ヴァールやレベッカからしてみれば慣れたものだが、やはりエリスとシモーネにとっては何から何まで初めての経験だ。

 そもそも一般の探査者はWSOよりは全探組施設のほうに出向く機会が圧倒的に多い上、役職持ちの上役など見ることさえ稀だし部屋に招かれるなどもめったにないことだ。

 

 さすがはWSO統括理事、世界を牽引するトップ指導者……エリスが内心にてますますヴァールやソフィアへの尊敬を強くしていると、唐突に机の上、電話のベルが鳴った。

 すぐさま支部長が受話器を取り、応対する。

 

「WSOエストニア南部第三支部、支部長のゴランだ。うむ……能力者解放戦線追跡班だな、定時報告ご苦労。大事ないかね」

「来たか」

 

 ひとまず受け答えする支部長の言葉から、求めていたエージェントからの連絡であることを確信してヴァールが短くつぶやいた。周囲の仲間達も呼応して、にわかに居住まいを糺す。

 いくらかのやり取りを経て、すぐに支部長が受話器をヴァールへと向けてきた。交代だ。彼の机にまで近寄り、受話器を受け取る。

 

「ご苦労、統括理事のチェーホワだ。さっそくで済まないが追跡中の火野源一とニルギルド・ゲルズについて報告を頼む。今現在やつらはどこにいるのだ──うむ? うむ、そうか。なるほど──」

「エストニア内にまだいるんでしょうか、レベッカさん」

「どうだろうなァ」

 

 交代して即座に報告を受ける彼女を見守りながら、エリスがレベッカに小声で尋ねる。応接間のソファにて向かい合う形で、隣にはシモーネが座る。

 話を向けられたレベッカは丸太のように太く逞しい両腕を組み、しかし聡明で理知的な瞳をエリスに返した。類稀なる巨躯と、そこから来る身体能力がウリだが頭も回るのが彼女だ。

 

 火野とニルギルドの現在位置……自然公園で足止めを食らって以降、エリス達はすっかりと引き離されてしまった印象がある。

 空間転移で大幅に距離を縮めた、あるいは先回りさえしたところはあるかも知れないがそれでもエストニアの領土領域を考えれば、すでに国を離れていてもおかしくはないのだろう。

 やはり小声で、ヴァールの会話を邪魔しないようにエリスに答える。

 

「さしものレベッカ様にも予想しかねるが、正味なところエストニアを出てるんならそれならそれで構わねえってのはあるかな。見失わねえ程度に逃げ回ってくれりゃ、それはそれで旨味がなくもない」

「……逃げている二人の行く先に、敵の本拠地があるからですね」

「おうよ。さっさととっ捕まえて吐き出させるのも手だが、逃げられるってんなら逆に泳がしておくしかねえこともある。まあ逃げる先々で苦し紛れにスタンピードを引き起こしかねねえところもあっからよ、やっぱ最優先はとっとと追いついて叩きのめしてとっ捕まえることだがよ」

「ですね。それに一息にオーヴァ・ビヨンドまで辿り着ければそれが一番ですけど……こちら同様、向こうも中継地点的なアジトを転々としている可能性もあります。泳がせたつもりで撹乱、なんていうこともありえますからね」

「そういうこった」

 

 話をしていて、レベッカはエリスが予想以上に察しが良いことに気づいて密やかに笑みを浮かべた。

 こちらの理屈をきっちりと理解し、優先順位をきちんと考えられる相手はやはりやりやすいのだ。そのへん、シモーネは感覚的と言うか基本、長いものに巻かれるタイプで言われるがままに動いておくというのがスタンスなのと対照的だ。

 

 これについてはエリスとシモーネ、それぞれタイプが異なる性格と性質だということだろう。どちらが優れている劣っているということではなく、タイプが違うのだ。

 とはいえレベッカとしてはエリスのほうが正直なところ馬が合うのは事実。とにかく勢いで動くのも良いが、こうしてチームで犯罪者や犯罪組織と相対するのであるなら極力ひとりひとりが頭を回して、常に最善を尽くしていかねばならないのだから。

 

 と、電話しているヴァールがにわかに声を大きくするのが聞こえた。こちらにも聞こえるように、わずか前より声を張っている。

 分かったのだろう、二人の消息が。彼女の声に、エリス達も耳を傾けた。

 

「──そうか。連中はすでにエストニアを出ているか。南下し、ラトビアにいると。分かった、グルベネ付近にいるのだな、お前達は」

「! レベッカさん、エリス。答えが出たみたいですよ」

「みてえだなァ。ちっ、間に合わなんだか」

「リトアニア……!? グルベネっていうと、ええと地図地図」

 

 出てきた国名、ラトビア。出てきた都市名、グルベネ。

 それはエストニアからまさしく南下したところにある国であり、都市であった。

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